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一回目


「すみれは嫌いなくいもんとか、苦手なくいもんは、あるのか?」


屋敷が目の前に来た時に今まで無言だった雷馬がすみれを見て聞いてきた。


「特にないです」


「ふーん。珍しいな」


「そうですか?」



ーーーまさかとんでもない食べ物出す気なんじゃ?

げ、げてものとか、ちょっと虫とかそういうのは無理かも……。





雷馬家の夕食がおごそかに始まった。

まず、もの凄く長いテーブルの端っこと端っこに座って食べる雷馬とすみれ。



ーーー凄い違和感。落ち着かないし。声は届くの?


そして、こんな風な高級そうな雰囲気ならば、普通訳のわからない前菜とか出てきそうだが急に



「本日のステーキで ございます」

と、お皿が運ばれてきて目の前にどさっと大きな肉を乗せた皿が置かれた。


「ひいぃぃ」



すみれの前には自分の頭くらいある厚さのステーキ肉が置かれた。

「これ、どういうこと?」


何も言わず食べ始める雷馬。

しかも凄い器用な手さばきで口に入るサイズにしては、ささっと口へ入れその作業を淡々と繰り返し、あっという間に巨大肉をたいらげていた。




「えぇ?もう?」

すみれのぽかーーーん具合をよそに雷馬の元へはまた二皿目のステーキが運ばれてきて当たり前のようにペースを崩すことなくまるで大食い選手のように食べている。


仕方なくすみれも出来るだけ食べた。


すみれが食べ終わるまでには、牛一頭分食べ尽くすんじゃ? それくらいの勢いで肉を平らげた雷馬。


「あのいつもこんなに食べるの?」


「ああ、大抵ね。少ないか?」


「まさか! なんていうか凄いね」


デザートもサラダも無かった。肉とミネラルウォーターのみ。



食べ終わると

「いくぞ!」

そう言ってテーブルの端からやってきた雷馬は、すみれの手を強引につかんだ。



連れてこられたのは広いバルコニー。

広大な敷地の庭が見事にクリスマスかってくらいにライトアップされ見事な綺麗さだった。


「今日からデートでは俺がどんな奴か徐々に見せてやる。今日は俺が普通の人間より良く肉をくう。それを見せてやった」


「はあ」


ーーーそんなの見せてもらっても嬉しくもないしリアクションに困るだけなんだけど。


「すみれ、お前がどんな奴か、今日のお前をみせろ」



「は?」


ーーー今日のお前っていったい……。


バルコニーの白い手すりに追い込まれるすみれ。雷馬の夜に輝く瞳が急にギラギラとして見えて、すみれは少し怖く感じていた。


「怖いか?」

すみれの顔を覗き込む雷馬。



「コレも俺だ」

そう言ってから雷馬はすみれから、ふいに離れると


「中へ入れ雲が流れる……」

雷馬はすみれを置いて、さっさと屋敷の中へ入っていってしまった。



すみれは雷馬が雲が流れるといった空を眺めた。


ーーーさっきまで厚い雲に覆われていた月が風で流れた雲のお陰で徐々に姿を現しつつあった。




リビングのソファに先に座っていた雷馬は隣へ座れというようにソファをポンポンと叩いた。

仕方なく隣に腰掛けたすみれ。


突然、雷馬はすみれの頬に鼻の先をつけた。


「な!ちょっと」



くんくん



ーーー匂いを嗅いでる?



「無臭だ……おまえ」


「なんで…においなんか!」

恥ずかしくて、すみれは雷馬から離れようとした。



「だめだ。まだ……かぎたりない」

今度は、すみれの両腕を掴み鼻先をつけて、くんくんと体と髪の毛のにおいをかぐ雷馬。



「へんなものは肌につけないほうがいい。香水やローションなんかのたぐいは害ばかりだからな。肉の質が落ちる」

そう言って、すうーーーーっとすみれの腕を指先で撫でていく。


「肌、肉質、弾力、触感、70点」



「70点って? 点数? それって私の?」


「そう。ぎりぎり合格ラインだ。安心しろ」


雷馬は そういうともう興味を失ったように

すみれの腕から手を離した。




「明日、また来い」



ーーー明日は日曜日だ。

もちろんバイト代のために来るけどさ。なんだろ?

なんか、この人って全くつかめない人だなー。


「明日、迎えを出す。今日はもういい。帰れ」


ーーーえ? もういいの?


「もういいの? 一回目のバイト」



「? ああ、うざい……帰れ。俺はもう満腹で眠りたいんだ」



そう言ってソファにうつ伏せに横になって体を丸くした。


もう瞼も閉じているようだった。



ーーー寝てる? はやっ!



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