指先の魔法
すみれは目を見開いて雷馬を見た。
すみれの唇に触れたままの指先は、やがてゆっくりと離れ雷馬の唇に触れた。
それが何を意味するのかわからないけれど、すみれはなんとなく気恥ずかしくなり赤くなって俯いた。
「ねえ、やるんだろ? すみれ」
不思議なことだが、やがて熱に浮かされたようにすみれは何故か躊躇いもせずにこくりと頷いていた。
★
次の日、学校の廊下ですみれは雷馬を見かけた。
雷馬は相変わらず大量の女子に囲まれ笑顔をこれでもかと振りまいていた。
ーーーわたしに見せた昨日の顔とは大違いじゃん。
雷馬は廊下ですみれを見てもなんのリアクションも起こさなかった。
ーーーニコリともしないし全くの無視!
そう恐ろしいほどの無視だった。
すみれは雷馬の集団とすれ違ったあと振り返って雷馬を見てみた。
だが雷馬は振り返らなかったし、やっぱり何も起こらなかった。
ただ虚しい風が吹き抜けただけだった。
ーーーいったい昨日の『俺の女』の話はどうなってんだろ。な、なけりゃないでもいいんだけど。そりゃ一向に構わないんだけど……。なんかむかつく!
こっちが気にしてんのに無視されるなんて!やっぱむかつく。