永遠の願い
雷馬の部屋に入るとドアを閉めて窓にカーテンを敷いた。
苦しそうな雷馬が徐々に人間に戻っていった。
生まれたままの姿の雷馬にすみれが近づくと
「すみれ・・・後悔しないか?」
と雷馬が静かに聞いた。
「うん・・・大丈夫だよ。雷馬」
雷馬の腕に抱かれてベッドに運ばれたすみれ。
二人の顔が近づいて唇がゆっくりと重なった。
人狼との極上のキス・・・
それは今日で最後だろう。
だって明日からは、きっと雷馬は人間になるから・・・
雷馬の指先がすみれの顔に触れ額からずっとなぞってゆくように動いていく。
・・・・耳・・・
・・・・鼻、
・・・口に優しく触れていく
雷馬の指先がすみれの唇をなぞる。
人狼であるが故の雷馬の切ない想い、苦しみを、すみれは自分の全てをかけて受けとめたいと思っていた。
雷馬がもし望むなら、食べられてもいい。
雷馬がもし望むなら、この命を差し出しても構わない。
雷馬の願いが叶うなら、私は……
何も怖くない。
すみれは、雷馬にそっと抱き寄せられていた。
「すみれ、愛してる」
「私もだよ。雷馬」
ずっと一緒だよ。雷馬。
この命が枯れるまで……。
満月の夜、ふたりの熱く切ない想いが重なっていく。
二人の願いが届くことを満月に祈る。
この世界に人間として生きたい。
雷馬の永遠の願いが、ようやく叶う夜。
すみれは、雷馬と指を絡めて雷馬の澄んだ瞳を見つめた。
雷馬、どうか……
どうか人間になって……
「すみれ」
「…ん?」
「人狼なんかの俺で……いいのか?…」
「もちろんだよ。雷馬がいいの……雷馬でなきゃ嫌」
「……ありがとう……本当に」
すみれをじっと見つめる雷馬の瞳が徐々にうるみ出し、やがて、ひとすじの涙が頰をつたった。
「雷馬……泣かないで」
今度は、すみれが雷馬をぎゅっと胸に抱きしめていた。
★
朝・・・
目を開けるとそこに雷馬の寝顔があった。
可愛い・・・・
すごく・・・
幸せな気分・・・
こんなにしあわせなものなんだな・・・
愛してる人と結ばれるって。
朝日が差し込む部屋でじっと愛する人の寝顔を見られるなんてすごく嬉しいな・・・
「もう・・・いいか?目を開けても?」
「嘘!起きてたの?」
目をパッチリあけた雷馬がいた。
上半身裸の雷馬をやっぱり恥ずかしくて直視できないすみれは顔を両手で覆った。
「とっくに起きて可愛い俺の花嫁さんの顔を見てた。」
雷馬がそっと、すみれの覆っている手を顔から離した。
「見ないで!寝起きなんか恥ずかしいから!」
「なんでだよ。これから毎日すみれの顔みるのに」
「え?毎日って・・・まだでしょ?」
「ううん。すみれの両親には了解とってある。婚約式から、すみれを俺の屋敷に住まわせるって」
雷馬は、あたりまえのように、すみれにキスをしてすみれをやわらかく抱きしめた。
「ほんとのほんと?」
「ああ、ほんとのほんと。結婚式は高校卒業してから正式にやるから。」
「あ・・・・それより・・・雷馬」
「ん?」
「雷馬は もう人狼じゃなくなったの?」
「ああ。もう人間だ。お前のおかげでな。
・・・ありがとう。愛してるよ・・・すみれ」
すみれは
「バンザーーーイ!」と本気で選挙にでも受かった議員みたいに両手を上げた。
★
「良かったねえ。雷馬」
「ああ」
くすっと微笑む雷馬。
大切にするよ。すみれ・・・
生涯・・・
愛すると誓う・・・
ありがとう。すみれ
愛し続けるって誓う。
俺を救ってくれて・・・
ありがとう・・・
そんな言葉じゃ全然たらない・・・
俺の想いは毎日お前に届けるから・・・
朝日を受けながら、すみれを抱きしめる雷馬の影が大きな狼の姿から人間の姿へ変わっていった・・・・
完




