面倒で食い違う気持ち
家に帰るとすみれを両手を広げて迎える母の姿があった。
「お帰りーーーー。よくぞ。帰ってきたわねー。我が娘。」
すみれをハグする母。
「な・・・なんで、こんな迎え方?それに・・・夜の工場の仕事は?」
「工場?やめたのよ。」
「は?でも・・・それじゃあ父さんの入院費用は?」
母は、にっこりと微笑んだ。
「心配なくなったのよ。あんたのおかげで」
母は、もう一度すみれをハグした。
「わたしのって・・・・どういうこと?」
「聞いてないの?」
母は呆れた口調で聞いてくる。
「誰に?なにを?」
「雷馬くんとの結婚の話よ」
「は?結婚・・・・どうして・・
お母さんが雷馬くんのこと知ってるの?」
「今朝、家に来たのよ。大きな鯛の尾頭付きを持ってきたの。なんでも今朝取ってきたんだって」
「え?そうなの・・・っていうか・・・・話が・・・急すぎて」
すみれは雷馬が人間になるために一生雷馬を
愛すと誓ったし、その為に契りを結ぶって事もわかっているけど・・・・
お母さんにも逢いに来たなんて・・・
なんか本当のことなんだなって・・・
改めて・・・気付かされた。
雷馬の屋敷へすみれはとりあえず向かった。
いくら時間が無いからって雷馬が勝手に事をどんどん進めているのがなんか納得いかなかったのだ。
少しは聞いてくれたり、相談とか・・・
事後報告とか
なんでないのかなあ?
些細な事でも
なんか気になっちゃう・・・
こんな風に勝手にされると・・・
すみれが屋敷へつくと雷馬はリビングで寛いでいた。
「おう。来たのか。座れよ。ここ」
当たり前のように自分の横にくるように雷馬がソファを指差す。
すみれは座らずに立ったままで雷馬を見つめた。
「なんで勝手に母さんに結婚のこと言ったりしたの?」
すみれの言葉に雷馬は意外そうな顔をした。
「怒ってんの?すみれ。なんでだよ?」
「怒るよ。なんで私に言ってくれないの?母さんだって急に雷馬くんが家に来たら驚くじゃん。そういうのとか考えないの?」
雷馬は少し黙っていたが、やがて
「・・・・喜ぶと思ったのに。すみれ・・・嫌だったの?
俺がすみれのお母さんに逢ってすみれと結婚したいって言った事・・・」
静かに聞いてくる。
「・・・嫌じゃないけど・・・逢いに行くとかさ・・・その…私に先に言うべきじゃ?」
雷馬は立ち上がった。
怖い顔をしていた。
「・・・・面倒なんだな・・・人間って・・・俺、人狼だから。
人間の細かい事、把握できて無かったのかも・・・
愛してるから結婚する。それだけでいいって思ってた。
順序とか・・・なんか面倒だ」
雷馬は溜息をついてバルコニーへ出た。
あとを追うすみれ。
「悪かったな・・・すみれの気持ちもわかんなくて・・・
俺・・・自分が人間になれること嬉しすぎて焦ってたんだ」
哀しそうに微笑む雷馬。
雲の切れ間から月が見え出すと雷馬は苦しげに呻きながら、やがて狼に姿を変えた。
すみれは雷馬が変身する時に凄く苦しげなのを見て泣き出しそうになっていた。
そうだった・・・
雷馬くんは人狼・・・
こんなに苦しそうなんだもん。
早く人間になりたいに決まってる。
両手を握り締めて雷馬が狼になるのを見守っていた。
銀色の毛が風にそよいでいる。
「雷馬くん・・・・」
泣き出しそうに哀しげな狼の瞳。
「・・・・すみれ・・・俺は所詮人狼なんだ。もしかすると・・・いや・・・これから人間になったとしても、どっか人間と違うってすみれは感じるかも・・・
それがどういうことか・・・
わからない・・・
もしかするとお前を苦しめたり悲しませる事かもな。」
「雷馬!待って!」
雷馬は、あっという間に山へ飛び込んでいった。残されたすみれは凄く後悔していた。
たいした事じゃなかったのに・・・
順序とか、そんなのどうだって良かった・・・私・・・
雷馬のこと何にもわかってなかった・・・
雷馬は自分が人間じゃないからって呪われた血、宿命だって人狼だってことを
とても嫌がってたのを知ってたのに・・・・
あんなに人間になりたがってたのも知ってたのに・・・
あんなに変身する時苦しい事も知ってたはず・・・
どうしよう・・・
雷馬を傷つけた・・・
「あーーーあ。短気だねー。雷ちゃん。」
そばにいつのまにか白い毛色の狼がいた。
「ひっ!・・・・」
「あー怖がらないで。僕だよ。ライアン」
「あ・・・・そうか・・・」
そうだった。
ライアンも狼だった。
「背中に乗って。すみれちゃん!」
「え?」
「雷ちゃんはえらい短気だからこのまま放っておくと、すみれちゃんと別れたほうが・・・とかいろいろ考え込みそうだから今いっとこ!」
伏せた状態になるライアンは背中をすみれに近づけた。
「いいの?重くない?」
「大丈夫。僕は狼だよ。獣。こういうときに
力出さないとね。僕、二人にはうまくいってほしい。
そいで、雷ちゃんの人間の姿みたら僕も目標できるもん。
僕も・・・・人間になりたいから」
白い狼のライアンがニッコリ笑ったように見えた。
「うん。ありがと」
すみれはライアンの背にまたがった。
「行くよ!ちゃんと掴まって!」
「うん」
すみれは白い狼の首に腕をまわして必死に落ちないように掴まった。
哀しい気持ちになる雷馬。
呪われた運命を背負う自分の為に
すみれを不幸には
出来ない。
雷馬は、人間になれることを
せっかく喜んでいたが……。
次回、4日15時の更新です。




