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雨の中の狼たち

「離れろ!」

声がして白い狼は頭を上げた。




言葉を発したのは銀色の狼だった。

「やっとのおでましか? どうにか間に合ったな。今から俺に見合う最高の肉を食すところだ。これで俺は人間にはならずとも人狼のままでいられるってわけだ・・・」




白い狼は歯をむき出しにして青くするどい瞳を銀色の狼に向けた。


「そいつは俺のだ!渡さない!お前に二度も

奪われるのは、たくさんだ!」



白の狼は頭をぶるるるっと振った。




銀色の狼に近づくと

「あの女は間違いだった・・・俺のうわべだけを見て愛してると言った女だ。お前にちゃんと返してやったろ?


交換だよ。

お前の大事なこいつと」


白い狼ライアンがすみれに食いつこうと口を大きくあけた時、


バアァァーーーーーーーーーン・・・


静かな空間に銃声が鳴り響いた。



びくっと体を震わせ縮こまったライアン。



「ライアン様!無駄な事は、おやめ下さい。」



木々の間から、いつの間にか草を掻き分けスッと現れたのは、雷馬の家で働く執事の山田だった。


「何だ?貴様」



「雷馬さまに仕える執事です」



「お前がなんの用なんだ!」




「ライアン様は、狼のおきてに同じ血族の獲物を取るべからず・・・という条項があるのをご存知ないのですか?」

山田は、はっきりとした口調で言った。



「これは、つまり同じ人狼同士が獲物をとりあってはいけないと言う教えです」



「そんな事・・・初めて聞いたぞ?」



「そうでしたか?だから、舞香様の件も仲間から奪った女性です。そんな女性を花嫁にしてもあなたの宿命は何も変えられません。


つまり・・・

舞香様がライアンさまを人狼だとわかった上で仮に愛してくれたとしても、あなたが人間になる事は出来なかった・・・と言う事です」




「まさか・・・そんな・・・馬鹿な」



雷馬も山田の話は今初めて聞いた。

人狼だった父親からもそんな話は聞いたことがなかった。



「じゃあ・・・自分に見合う女を奪って食しても人狼のままでは、いられないって言うのか?

じゃあ・・・僕は狼になるのを黙って待つしかないのかよぉ・・・ぐすっ・・・・」


ライアンは頭をたらしすっかり勢いをなくしてしまった。





黒い大きな雲に空が覆われ白の狼は徐々に生まれたままの人間の姿に戻っていた・・・


ライアンは裸のまましゃがみこんで途方に暮れたように泣きじゃくり始めた。



「僕・・・・狼になんかになりたくない・・・このまま・・・いっそ・・・」


いつの間にか月が雲に覆われたため元に戻った雷馬は、気を失ったまま倒れているすみれを抱きかかえた。



「戻るぞ。車を・・・」


「はい。かしこまりました」

山田が車を取りに行っているうちに雨が音を立てて降り始めた。



ザザーーーーーーッ





雷馬は、すみれが濡れないように抱きかかえたまま木陰に入った。




どしゃぶりの雨の中を裸のまま濡れてしゃがみこんでいるライアンがいた。


嗚咽するライアン。



車のライトが近づいて来ると雷馬は、すみれを抱え車のところまで早足で進んだ。

後部座席にすみれをそっと寝かせるとライアンに声をかけに行く。



「おい!早く乗れ!狼でも風邪をひく」




ずぶ濡れのライアンは捨てられた子犬のようだった。


情けない顔で雷馬を見つめる。


「いいの?僕を許すの?」



「・・・ああ、お前とは種類は違っても同じ人狼だからな・・・憎んだり出来ない・・」




ライアンは雷馬の言葉に素直に喜び走ってきて後部座席に乗り込もうとドアの取っ手に手をかけた。



その手を雷馬がぴしゃりとはたいた。



「?いたっ!なんで?」


「お前は前だ!」


「ちぇ・・・・」

ライアンは仕方なく助手席に乗った。



後部座席に乗った雷馬は自分の太ももにすみれの頭をそっとのせた。



雨で濡れすみれの顔にかかった髪を指でなおすと雷馬は執事に渡されたタオルで、すみれの顔についた雨粒を優しく拭った。


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