意外な人物
次の日、学校に意外な人物が雷馬を待っていた。
雷馬は、その人物を見てごくりと息をのんだ。
「久しぶりだね。雷馬!」
その声も、その顔も表情もしぐさも決して忘れる事のできなかった人物。
「舞香・・・・おまえ・・・」
舞香は腕を伸ばして雷馬に抱きついてきた。
雷馬は、たったまま放心状態だった。
「逢いたかったぁ・・・雷馬の匂い・・・久しぶり!」
首に巻きついた舞香の腕をゆっくり外し雷馬は舞香を見つめた。
「お前・・・ライアンは?」
「んーー実はね」
舞香は、いつもかつての二人が仲良く過ごしていた裏庭へ雷馬の手をとり連れてくると
辺りを窺うようにしてから
「ライアンってね、狼男だったの。信じられる?」
舞香は目を見開いて言った。
「信じられないでしょ? でも現実だったの。
この目で変身する所を見たんだから・・・」
興奮した状態の舞香。
「そのくせ私にライアンはね、狼男のくせに言ったのよ。『僕の花嫁になってくれ。一生僕を愛してくれ』って。なんかプロポーズのつもりだったみたい。」
興奮して話す舞香が
狼男のくせに・・・
ライアンの事をそう、さげすむように言った事が同じ運命をたどる雷馬の胸をひどく傷つけていた。
「それで?」
「それで?って。逃げてきたのよ。当たり前でしょ?怪物だったのよ?一緒にいられるわけないじゃない。イギリスまで行って損しちゃった」
怪物・・・
舞香は、そう言った。
人間の姿だったライアンには自ら瞼を閉じてキスをしていたのに。俺よりライアンを選んだのに・・・
人間じゃない・・・
狼男だったとわかったから、人間ではないライアンを嫌いになった・・・
そう言う事か・・・
雷馬は急におかしくなって笑い出していた。
そうだよな・・・
普通の女はみんな逃げるに決まってる。
狼男なんて所詮この世に存在する事、事態が
ありえない怪物なのだから・・・
この舞香みたいに
真実を知れば誰だって・・・・
笑い出した雷馬を不思議そうにみる舞香。
「ごめんね。雷馬。私、怪物に惑わされてたの。相手は怪物だったんだから無事に帰ってこられただけでも良かったって。許してくれるよね?雷馬」
上目遣いで人を見上げるしぐさ、可愛らしい顔だった。
自分の魅力を最大限に引き出せる女だ。
相変わらず綺麗で愛らしい・・・
雷馬は、ふと上を見上げた。
すると、誰かが上の窓から裏庭を見ていたようだった。
その人影は雷馬から隠れるように姿を隠してしまった。
雷馬は、じっと誰かがいたらしい窓を見つめた。
「ねえ、雷馬。こっち向いて」
雷馬が舞香に視線を落とすと、ふいに舞香が
背のびをして自分の唇を雷馬の唇に押し付けてきた。
雷馬は瞼を閉じ舞香の唇の感覚を確かめようとした。
久しぶりに会った元カノ。
相変わらずに愛らしい姿で俺を誘う・・・
でも・・・
何かが・・・
俺の中で変わったようだ。
俺が舞香を失って心を閉ざしていた頃から、ずっと自分の中の時計が止まったままだった。
止まったままの時計がゆっくりと少しずつ 動き出して時計本来の役割を思い出したように・・・
雷馬は目を開けて舞香の体を離した。
「もう・・・俺達は、とっくに終ってるだろ・・・お前がライアンを選んだあの日から。
終らせたのは、舞香・・・お前だ」
無表情に言うと雷馬は駆け出していた。




