哀しい想い
「まだ終ってない……諦めないで。私雷馬くんに人間になってもらいたいもん」
涙ぐむすみれ。
すみれの髪をなで、さあ、愛せといわれても、やはり無理には愛せない。
雷馬は自分の事を本気で想ってくれているらしいすみれに同情していた。
俺は、きっとすみれの想いに応じられない
「サンドウィッチ作ってきたの。ピクニック気分で 食べようよ!」
大きなバスケットを広げて自慢顔のすみれ。
雷馬のためにチキンやビーフをたくさん挟んだサンドウィッチだった。
雷馬は
「あーーーん」と口を大きく広げた。
「なに?食べさせるの?はいはい」
すみれは、かいがいしく雷馬に食べさせミルクティーを飲ませ口の周りをナフキンでふいてやる。
「美味しかった?」
「ああ、次、お前の番な。ほら、あーーーん」
口をあけろと言う雷馬。
「え?いいよ。自分で食べられるから」
恥ずかしがるすみれ。
「恥ずかしがるガラか。ほら」
おそるおそる口を開けると、そっと食べさせてくれる雷馬。
じっと、すみれの口元をみて絶妙なタイミングで食べさせてくれる。
ミルクティーも飲ませてもらい、すみれはとっても嬉しく感じていた。
優しいな。雷馬くん
でも、このままじゃ雷馬くんは完全に狼になってしまう
二人は寄り添って湖を眺めた。
「こうして人間の姿で景色をみられんのもあと、わずかだろう」
思ったより成長の早かった雷馬は狼に戻る日も近いと感じているようだった。
一年前にとても愛した人がいた。と雷馬は、すみれに話しはじめた。
留学生がイギリスに帰った日にいなくなってしまった舞香の事を歩きながら話した。
誰かに話しておきたかった。
人狼の自分も人として人を愛せた時期もあったって事を。
狼になり記憶がなくなっても、自分のことを自分が確かに人間だったことを誰かには覚えておいてもらいたかった。
すみれは何もいわずにすべてを時折頷いて優しい眼差しで聞いてくれた。
「そういえば前にあったね。うちのガッコウの女生徒が行方不明になったていう事件。舞香さん、学校でも有名で、たしか凄い美人だったんだよね?」
「ああ」
「今、どうしてるのかな?」
「さあな。…帰ろう。すみれ」
すみれの肩を抱いて歩いても雷馬の胸は高鳴らなかったしドキドキもしなかった。
もっといえばすみれを家まで送っていって別れの時間が来ても少しも切なくならなかった。
まだ、もう少し一緒にいたいと思わなかった。ごめんな。すみれ。
お前の事を好きになれなくて。
雷馬は、ひどく痛む頭を抱えた。




