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犠牲

雷馬の頬を涙がつうーーっと伝った。


人生で初めて愛した女だった。心から求めた女。

自分の全てをみせてもいいとそう思えた女だった。全てを愛してくれるだろうと思っていた。


なのに、こんなに簡単に他の男にさらわれるものなのか?


俺が感じていたものは愛では無かったというのか?



それとも愛とは、こんなにももろいものなのだろうか?





「ごめんね。雷馬。雷馬のことが嫌になった訳じゃないの。ただ、ライアンが好きなの。

ライアンと一緒にいたいの」





いつの間に舞香の心はあいつに?





雷馬は舞香に背を向けると黙って歩いていった。


言い訳なんか聞きたくない。


嫌になった訳じゃない? 笑わせる。


いつから舞香は、あんなに非情な女になった?

それから学校で見かけるライアンの傍には必ずといっていいほど舞香がいて笑っていた。


へどが出るほど嫌な気持ちだった。



でもある日の帰り女子に囲まれながら帰る途中にライアンと手を繋いで歩く舞香を見つけた。


ふと雷馬は地面の影をみて凍りついた。


舞香の影の横に立っっている。大きな獣が立ち上がったような影。




「あれは!」

雷馬が息を飲んだときライアンが振り返って雷馬を見た。

ニヤリと笑って舞香の肩に手をかける。


ライアンの青い瞳が赤い血の色に一瞬、変わった気がした。




あの時どうしてすぐに舞香のところへ走らなかったんだろう。


それを今でも雷馬は悔いていた。




次の日に担任が

「ライアン君は都合で少し早くイギリスへ帰る事になりました。みなさんにはくれぐれも

よろしくと言ってました」

と、ライアンが急に故郷へ帰ったことを知らせた。


その日を境に舞香は学校へこなくなった。そればかりか家にも帰ってこない。家の人も行方不明の舞香の行方を心配していた。


警察に届けを出しても一向に舞香の行方はわからずじまいだった。 



執事が言った。

「雷馬さまの言うとおり調べてみました。ライアンは同じ狼の血族の者でした。


種族は違いますが彼にも掟の通り儀式の時期が近づいているようで。どうやら自分に相応しい相手を探しに日本まで来たようです」




雷馬はソファから立ち上がり窓の外を見た。

外は冷たい雨が降っていた。



窓に手を当てると


舞香を生涯の相手に決めて連れて行ったのか?それとも……。


雷馬は自分の考えの恐ろしさに震えた。


恐ろしいとはいえ、それが人狼の宿命。


ライアンも俺と同じ人狼だった。


そして、俺とおなじく生涯の相手、もしくはふさわしい生け贄を探していたと言う事だ。


人を生け贄として食う。

そんな事したらただの怪物だ。

人の面を被った怪物になってしまう。



それは俺にとっては人間として生きられない事と同じだ。



自分と同じ血が流れる者がやった事とはいえ

恐ろしい事に変わりない。




奴は舞香を食ったかもしれない。


そう思うと、はらわたが煮えくり返った。


なんで舞香なんだ?


どうして俺が愛した人をさらったのか?


同じ狼の血族なら自分の置かれた境遇がわかるはずなのに、ライアンは、あえて俺の舞香に手を出したんだ。


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