一年前の出来事
今から遡る事一年前……
「雷馬! ここにいたの?」
学校の裏庭で本を読んでいた雷馬。
「ああ、おいで」
雷馬は舞い降りた天使のように美しい彼女、舞香を手招きした。
見ているだけで目をつい細めてしまう。
舞香の輝く大きな瞳、細くて通った鼻、小さいけど形のいい唇、長いこげ茶色の髪。
こうして抱きしめるとこわれそうな華奢な体。どれをとっても愛らしい可愛らしい俺の愛する女性、舞香。
舞香は髪を耳にかけると微笑んで俺を見上げた。
その表情にぐっとくる。
舞香は俺のためにこの世に生まれてきてくれた女性だと感じる。何故なら俺が心から愛しているから。
生涯をかけて愛しぬける覚悟が出来たから。
そして雷馬はそっと舞香に唇を重ねた。
舞香の唇は雷馬のそれと触れただけで、あまい声を発し二人の唇はそうなる事が、ずっと前から決まっていたかのように互いを求め激しくなりやがて深くなる。
甘い味のするとろけ、ふたりが交じり合う極上のキス。
それが雷馬と舞香のキスだった。
体の力を失い、とろんとした表情の舞香を見ることも雷馬の至福の時だった。
腕の中に愛する人が存在している。やっと出会えた極上の恋人。
舞香。
君になら俺の秘密を見せても構わないだろうか?
いや俺の全てを呪われた宿命をも含めて俺を愛してもらいたい。
きっと舞香なら俺をまるまんま受け留めてくれるはず。
★
「留学生のイギリスから来たライアンくんだ。三ヶ月間よろしく頼む」
担任の先生がそういって留学生のライアンを紹介した。
ライアンは瞳が湖のように青くくせ毛の金髪はライアンが動くたびに軽やかに揺れた。
そのくせ笑顔が爽やかすぎたし
「ライアンです。よろしくお願い致します」
流暢で丁寧すぎる日本語を話すところもうさんくさい奴だった。
案の定、学校中の女子がライアンをクラスに見に来たし、ライアンはいつだって笑顔でそれに応じるイギリスの王子様だった。
「うざいよな。ライアンって」
ある日、いつもの裏庭で舞香に膝枕をしてもらいながら雷馬が言った。
「そお? もしかして自分の人気がもってかれたから妬いてんの?」
雷馬の鼻をぱちんと指先ではじく舞香。
「いてて!」
鼻を押さえて起き上がる雷馬。
「何スンだよ!」
「私はね、ライアンくんが来てくれて良かったと思ってるよ。たった三ヶ月だけどね」
「おまえ! お前までライアンがいいのか?」
ぶーたれる雷馬。
「馬鹿ね。ライアンくんがいると学校の女子が雷馬のところに来なくなるでしょ? だから、私だけが雷馬を独占できて嬉しいの!」
可愛い顔で可愛い事を恥ずかしそうに言ってくる舞香。
「ばーーーか。俺はあんな奴がいようがいまいがお前だけのもんだよ。いつだって俺は舞香だけのものだよ」
そう言いながら舞香にキスをする雷馬。
二人がとろけるようなキスをしている所を上の窓から見ている男がいた。
その男の薄くて形のいい唇から出した妙に赤くて長い舌。
その長い舌がゆっくりと男自身の唇を舐めていった。




