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触るな! 助けなどいらない!

大雨で視界が悪い中を黒塗りの外車は静かに走っていた。


「雷馬くんは 大丈夫なんですか?」


すみれは雷馬のくるしげな姿を思い出していた。


「はい。雷馬さまが先日あなたを連れてきたので、これで雷馬さまも救われる……と思ってましたが、そう上手くはいかないものです」

執事の声は明らかに落胆していた。


「救われるって私が雷馬くんを救えたかもしれないの?」


「……世の中には逆らえない宿命があるのです。どうか雷馬さまのことを少しでも心配して頂けるのなら、そっとしておいてください」


車がゆっくりと停車した。

執事は 

「こちらのケースをすみれさまにお渡しするようにと雷馬さまに頼まれました。どうぞ」

そういって執事はアタッシュケースをすみれに渡した。


「これは」


いつか雷馬がバイト代と言って見せてくれた

札束がぎっしり入ったケースだ。



「それと今日でバイトも終りでいいとお伝えするようにと……」


「え?でもまだ約束の回数終ってないけど」


「もう……いいそうです。今までお疲れ様でした」


そう言って執事は頭を下げ雨の中、外へ出ると後部座席のドアを開けすみれが濡れないように傘をさしかけてくれた。


「こちらお持ち下さい。濡れてしまいますから」

そう言って黒くて大きい傘を渡された。






次の日、学校の廊下でいつもどおりの姿で何も無かったように女子に囲まれ歩いてくる雷馬を見つけた。



「あ」

雷馬は、すみれと目を合わす事も無く楽しげに女の子達と会話しながら、すみれの横を通り過ぎていった。





なんで、また無視なんだろ?

でも体は大丈夫そう……

昨日の事は…本当にあったことなのかな



すみれは雷馬の元気そうな後ろ姿を目で追いながら自分の手を握り締めていた。



昼休みになると、すみれは裏庭をパンと牛乳を持って歩いていた。



すると、壁にもたれて胸を抑えている雷馬を見つけてしまう。



とても苦しそうだったから、すみれは雷馬の傍へパンを投げ出して駆け寄った。


「雷馬くん!大丈夫?」


「!おまえ」


「ん?苦しそう……大丈夫?これ飲む?」

牛乳を差し出す、すみれ。



すみれは心配そうに雷馬の顔を覗き込んだ。



「お前…怖くないのか?俺が」


雷馬の額に脂汗が滲んでいた。


「…わかんない…けど、すごく 心配だから」

雷馬の額の汗を自分の水色のハンドタオルで拭うすみれ。

すみれの小さな手を雷馬の逞しい手がとらえた。


すみれの手を握りながら雷馬は哀しげにすみれを見ていた。


「震えてる…お前、もう俺に関わるな」


すみれのそばを離れよろめきながら歩いて行く雷馬。

倒れそうになる雷馬を支えに走るすみれ。雷馬の横に立ち雷馬の腕をとる。



「もうお前は俺の女じゃない。バイト代も払っただろ」


無言で支え続けるすみれ。



「もう、消えてくれ。俺には、お前は必要ない」



「そんな言い方!昨日、執事の人が言ってた。もしかしたら、わたしが雷馬くんを救えるかもって」


雷馬は、ふっと笑ったかと思うと鋭い瞳をすみれに向けた。


「ふざけんな! お前が俺を救う? だとすれば、お前は自分の体を俺に差し出す気があるのか?」



「体を?」




「そうお前を愛せない以上、俺をお前が救うとすれば、お前が俺に生け贄として食われること。それ以外に方法はないんだからな!」

そういい捨てると雷馬は、すみれを壁に突き飛ばし一人で歩いていった。


私を食う?生け贄?


食べるって事?

雷馬くんが? 狼だから?



迎えに来た車の中、雷馬は震えていた。



時間が無い。


このままだと俺は完全な狼になる。


人狼でもない。

完全に人間の姿になることもなくなる。


二度と人間の姿には戻れないんだ。






雷馬はシートにもたれて流れてゆく外の景色を眺めた。


雷馬は胸を抑えながら過去に思いをはせていた。




舞香……。

どうして俺を置いて行ったんだ?


お前が俺を救ってくれると

そう信じてたのに……


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