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紅き竜と変わり者娘 〜ふたりが出会ってからのこと〜  作者: いろは紅葉
番外と旅の章:娘たちはかく語りき
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休憩:瑠璃珠の行方

「少し休憩しましょうか」


 娘は両手を合わせて言う。

 ルリはともかく、母である竜が明らかに退屈しているからだ。

 呼気とともに寄せる熱も、どこかぬるい。


「休憩と言ってもな。内容が変わるだけで、話をすることに変わりはないのだろう?」

「ええ、女同士ですからね」


 娘はにこやかに返す。

 女というのは、おしゃべりの合間のおしゃべりで気力体力を回復するところがある生き物だ。


「そうだ、ずっと話し忘れていたことがありましたね。これを」


 娘は腰に巻いた道具袋から取り出したものを手のひらに乗せ、竜とルリに見えるように差し出した。

 欠けた珠のかけらである。


「それは……」

「私の瑠璃珠か」


 ルリが、自身の分身とも言えるかけらに手を伸ばして指先でつつく。

 常であればルリの魔力に反応するそれは、沈黙したままだ。


「やっぱり。あなたが気づかなかったということは、本当に壊れてしまったのですね」


 娘は苦笑する。


「母さま、瑠璃珠これはどこでどうしたのだ」

「壊されたのですよ。出会ったばかりのラニに」

「ラニ? 刈り取り娘にか?」


 ルリの言いように、娘は思わず吹き出した。


「ええ。“刈り姫”と呼ばれるだけあって、けっこう腕は立ちますよ、あの子は。鉈ひとつで、薙刀持ちの私と多少なりともやり合ったのですから」


 乱入者の正体が、庇護対象の「女」であったことにラニは驚いていた。

 しかし、呆気に取られていたのは一瞬。獲物を狙う猛獣を思わせる眼差しで、邪魔者である娘を退けるために向かってきたのだ。それこそ、娘の手首に飾られた瑠璃珠を砕くほどの速さと勢いで。


「不覚をとりましたが、すぐに下しましたよ。薬やからめ手を使うのは、あの子の専売特許ではありませんし」

「お前こそ代表格のようなものだろうな」


 竜は半眼で呟いた。口から漏れ出た炎の熱が、娘の肌を暖める。

 先ほどよりも熱い。少しは退屈が紛れたようだ。


「でも、ルリには悪いことをしましたね。せっかく作ってもらったお揃いでしたのに」

「それならまた作る。今度は翡翠珠も足して、ヒスイにも作ってやればいいだけだ」


 少し眉尻を下げた娘に、ルリは胸を張り言ってのけた。

 娘はにっこりと笑い、ルリの頭を撫でる。


「瑠璃も翡翠も、それくらいは問題なくある。好きなだけ持って行け」

「ありがとうございます、お母さん」

「さすがは紅玉こうぎょくさまだな」


 ふたりと一頭はひとしきり笑い合ったあと、新しい装飾品の形や素材について、話に花を咲かせたのだった。

◆紅い逆鱗の首飾り


「ヒスイ。あなたにこれをあげましょう」


 ヒスイの母はそう言って、自身の胸元で揺れていた首飾りを外した。

 “紅き竜の巫女”を象徴する、紅い鱗の首飾りを。

 それは、ヒスイが「おばあさま」と呼ぶ、紅き竜の逆鱗を使って母が作ったものだ。


「いいんですか? これは、お母さまの……」

「いいのですよ」


 ヒスイの言葉を優しく遮り、母は笑った。


「本当は、もうひとつお母さんの鱗があれば良かったのですけれども。竜の逆鱗というのは、生え換わる時期がまちまちのようですから」


 そして、首飾りをヒスイにかける。

 ほんのりと熱を持った紅い鱗が、ヒスイの胸元で揺れた。


「私は腕の鱗もありますから、首飾りがなくとも火竜の加護はあります。でも、あなたは違いますね? いくら魔力を操っても、それだけでは紅き竜であるお母さんに触れられないでしょう?」


 巫女の象徴ならこれがありますし。と、母は顎にある小さな紅い鱗を指す。


「私とお母さんはこれからも一緒ですから、逆鱗が落ちる時を待てばいいだけです」

「それなら……。ありがとうございます、お母さま」


 母に礼を言いながら、ヒスイは「おばあさま」の尾をよじ登る自分の姿を想像した。

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