第七話 さようなら<帝国歴567年7月5日・567年8月2日>
前書き
本日三回目の投稿です。
(次の更新は出来次第本日投稿になります。)
三点リーダの件は自己解決できました。
この更新から反映させたいと思います。
窓からの日差しで目を覚ましたあたしは、がばっと毛布をめくって周りを確認する。
「……うぅーん、あれ?もう夕方?ここは……宿屋か」
朝日ではないどこか今日の終わりを告げる弱々しい日差しがあたしを照らす。というかカーテンしなかったんだ。
そうだ・・・昨日は宿屋に泊まったんだった。ベットから床を見るとトムの服やあたしの服・・・あたしの髪を縛る紐に……あたしの下着……下着?
寝ぼけ眼でベットの近くにある窓をみると――
ぼさぼさの髪に素ッ裸の胸の残念ないつものアニタちゃんがいる。
「……ああ、昨日のことを思い出してしまった」
そう考えると下腹部に痛みが走る。
「いたっ……うぅ」
とりあえず、隣で暢気に寝ている全裸のトムの頭の下の枕を無理やり引き抜いて、枕でトムの顔面ぼふっぼふっと叩く。
「な、なんだ」と飛び起きるトム。
トムがあたしの顔を視界に捉えると「アニタ……子供じゃないんだ……か……ら」とトムの目線がだんだん下になっていき……あ、ああ!!
あたしはトムを蹴っ飛ばして全身を毛布で隠して、
「み、見ないでよ!!トム!!」今のあたしは人生で一番顔を真っ赤にしているだろう。
壁に激突して頭をさすりながらトムは「昨日、散々みたじゃないか」と信じられないことを言う。
あたしの目に涙がたまっていって「ひぐぅ……ひぐぅ」
「な、ちょ」とトムが慌てる。
我慢したけどあたしの涙腺は決壊してしまった。
「うぇえええええん!!うぇええええん!!」と幼い頃、トムに虫を背中に入れられて以来の大泣きしてしまった。もうわけがわからない。自分の感情もわけがわからない。
「わ、わるかった。この通りだ」とトムが東方に伝わるドゲザをする。
「も、もう、最悪……昨日の夜……あたしのことを乱暴に扱うし……っていうか服を着て!!そんなきちゃなくて粗末なものをあたしに見せないで!!」
「そ、粗末……」となんかショックを受けた顔でトムが服を着る。
「避妊してって言ってもしてくれなかったし……」
「いや、俺だってはじめてで……アニタが避妊薬飲んでくれなかったじゃないか?」
「嫌((いや)よ……紅薬は副作用もあるし、それにあたしは娼婦じゃないのよ?」
「せ、責任はとる」と真顔になるトム……この男わかってない。
「……ぅぃぅ問題じゃない・・・あたしの気持ちはどうなるのよ?」
あたしの顔を見てはっとした顔になったトムは「……悪い……頭冷やしてくる」と行って部屋から出て行った。
「あぅ〜っ」
顔を赤面したあたしはベットに寝転がりながら、自分のこの持て余す気持ちを追い払うのに優に3時間を掛けた。
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その後――バツの悪そうな顔で部屋に戻ってきたトムに腹パンをして許すことにした。
トムの鍛えられてなおかつ高レベルの腹筋にあたしの手は尋常でないダメージを受け、むしろあたしが涙目になってしまった。
――トムは心配そうな顔をしていたが……「昨日の初体験より痛くない」と言ったら下を向いて沈黙した。
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それからあたしたちは無事にシーサーペントの素材を売却したり、襲ってきた冒険者をギルドに報告し、黄金の契約の3億Gの返済を達成した。むしろ、3億Gとトムへの借金――払いすぎた分があるので大黒字である。
冒険者ギルドの試験でトムのギルドランクがAになったのは驚いたが本当ならSランクらしい。ここでは判定できないので王都にいかなくてはいけないらしい。
目標を達成したあたしが村に帰ると言ったら、トムはまるで主人に捨てられそうな犬のような顔で、ついて行きたそうにしていた……可哀想なので連れて行くことにした。
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月日は早いもので村が魔物に襲われた日から一ヶ月が過ぎた……その間にもトムとあたしの冒険譚はあったのだけど、シーサーペント討伐に比べたら――大したものではなかった。というより、あんなのもうごめんだけどね!!
こほん、あたし――アニタは冒険のはじまりになった大木で早朝からトムを待っていた。
「……すぅはぁ……村が一望できるいい場所だなぁ」
遠くからトムがこちらに向かってくるのが見える。
「あんなに慌てて……逆告白でもしてもらえると思ったのかな?」
……残念違うんだよね。あたしはこっそりトムの家から拝借してきたミスリル剣を抱きしめて、最後の”黄金の契約”をする。
黄金の光に包まれた剣の柄のところにあたしは口付けをする。
そうすると柄には黄金の丸い水晶球が出来上がる。
「トムをお願いね……」と言った瞬間、あたしの身体を黒い霧が覆う。
こうなることは3億Gの返済をしたことによって、自分自身で掛けた封じた記憶でわかっていたことだった。そして……あの気持ちも、
「月並みだけど……トム、あたし――アニタはあなたを愛していました。気持ちを受けられないでごめんね」
黒い霧に包まれたあたしに高レベルになったトムが本気になって向かっているのがわかる……だって、風が通っているようにしかみえないから。
「――っ!!」トムがあたしの前に現れて抱きしめようとする。
あたしは笑顔で微笑む。
「ばーか」
ああ、ばかはあたしだ……最後まで素直になれなくて――
あたしの存在は完全に世界から消滅した。