第六話 剣士トム<帝国歴567年7月4日>
前書き
本日二回目の投稿です。
(次の更新は出来次第本日投稿になります。)
シーサーペントとの激戦の後、あたしたちは歩いてテムの町に向かっていた。うん、次の町に向かうなんて無理・・・もうね、休みたい。むしろ、村に帰りたい。村を出て一日くらいしか経ってないのにあたしは同郷の念を禁じえない(つまりホームシック)状況になっていた。
「トム・・・シーサーペントの素材を冒険者ギルドに売り払ったら、宿屋で一泊して村に帰るわよ」と黄金の契約を使ってなんでも入るようになったリュックを手で叩きながらトムに話掛ける。
「短い家出だったな・・・ああ、とうちゃんに絶対殴られるだろうな。むしろ、アニタの家族に半殺しに合いそうだ」とトムはぶるりと肩を震わせた。
そんなトムのリアクションにいつもなら何か言うのだけど、正直そんな気力がない――どこか御伽噺の世界にでも行って帰ってきた印象だ。
そんなことを思っていると前から5人程の冒険者がこちらの方に歩いてくる。
全員男性で剣士二人、格闘家一人、魔法使い二人の構成のようだ・・・格好から判断しただけだけど。
冒険者たちはにやにやとトムのほうに視線を向けてなにか話している。
・・・なんでトム?あたしに魅力がないとでも?
(「それとも・・・ボーイズ(ホモ)という線も――」とトムのほうを向いてうんうん頷いていると、
「よう、小僧。荷物と身包み全て・・・あと小娘をおいていきな。そうすれば、命だけは助けてやるよ」
「・・・はい?」とあたしは呆けた声を出してしまった。
そんなあたしの前にトムが前に出て、ミスリル剣を構えてあたしに問う。
「アニタ・・・冒険者でも盗賊は殺しても問題ないか?」
「え、えっと、そうね・・・そう冒険者規約には書いてあったけど・・・」と頭の中の記憶を呼び戻しながら答える。
「ト、トム・・・大丈夫?」と応戦しようとしているトムの背中を動揺しながらみつめる。
いざとなれば黄金の契約で手助けを・・・あ・・・お金がない。リュックの無限袋化で残り2000Gしかない。何故かあった金貨の小山はシーサーペント討伐に使ってしまったし・・・や、やばい。
「トム、もしものときは・・・あたしを見捨てて、逃げて応援呼ぶのよ。女はそんな簡単に殺されないから」
――とシーサーペントのときの教訓を活かし、トムにマントでも買っておくんだったと内心舌打ちをする。
きっとミスリル装備の所為で誰かに見られるかもしれない危険な野盗行為を走らせてしまった可能性が高い。
あたしなんてミスリルのついでに裏世界の奴隷商にでも売るつもりなんだろう・・・。
く、悔しくなんかない。そんなあたしの葛藤を知ってか知らずかトムが左手で頬を掻きながら――
「大丈夫だ・・・死んでもアニタに触らせねえよ。技術がないから殺しても問題ないかの確認がしたかっただけだ・・・それよりも報酬はずんでくよな・・・とっ!」
いつまでも返答のないあたしたちに痺れを切らしたのか・・・冒険者改め野盗の皆さんがトムに襲い掛かってきた。まずは鉄の大剣を持ったリーダー格の男の横薙ぎがトムを襲う。
「ト、トム!!」
きっと子供だと思って油断しての大振りの一撃だろうが・・・反応できなければ死んでしまう。あたしには無理だ。目をつぶりそうになるのを我慢して震えながら戦いを見守る。
トムの身体が一瞬ぶれたと思うと・・・首が三つ、宙に浮いていた。
「「「はぁ?!」」」魔法使いのお二人さんと声をハモらしてしまう。
そんな魔法使いのお二人さんの首も血を撒き散らしながら――声を出した次の瞬間、宙を舞っていた。
どんっ!!とリーダー格の首なしの身体が倒れる音がする。遅れて他の四体の首なしの身体も倒れる。
首なし遺体たちの中央に立つトムは呆然とした顔をして、自分のやったことに驚いている。むしろ、あたしの方が驚いている。
トムに駆け寄りながら「す、すごいわね」と言いながら、ある予感を持って黄金の契約でレベルとスキルがわかる石を作ってトムにかざす。
『トム:LV86、天職:竜殺しLV2(ドラゴンスレイヤー)、スキル:剣術LV25』
「・・・おおぅ」なんて言っていいのかわからにゃい。
「・・・」トムも呆然としている。
半刻してから正気になったあたしたちは野盗の皆さんの装備品などを剥ぎ取ってから遺体は街道から離れた場所に置き、テムの町に向かうのだった。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・
テムの町についたのは夕暮れ時だった。まずは冒険者ギルドに向かってシーサーペント親子の素材の買取をお願いしたのだが・・・驚かれたし、何も考えずにリュックから出したので・・・いろいろ聞かれてしまった――反省。
素材の査定に時間がかかるのとトムがギルドの昇級試験を受けれるようになったので数日この町に滞在することになりそうだ。野盗の装備品もほどほどに売れたので宿に泊まるお金は問題なく捻出できそうだ。
そしてまたしても何も考えなかったあたしは『リリモスの宿り木亭』で一週間分の宿賃を出して泊まることにした。
何・故・か・・・部屋がばらばらではなかったのだ。とりあえず、交代で湯浴みをしたトムとあたしはそれぞれのベットで寝――てないであたしは壁に寄りかかり、トムはあたしの前に立って壁ドンしていた。
冷や汗を掻きつつ「ト、トムも男の子だものね。娼館代出すから今から行ったら・・・」動揺しながら搾り出すように声を出す。自分の声か疑わしくなる。
「アニタは報酬を身体で払うと言ったよな?」とその顔はサカリのついた犬のようになっている。
「い、いやー、あたしのような貧相な女より娼館のお姉さん方の方が・・・大丈夫!!セシルお姉ちゃんにたの「アニタがいい!!」・・・んで・・・」
(「く・・・くぅ」きっとトムはあたしが了承しないと無理やり襲ったりはしないだろう。そういう奴なのだ・・・それに胡坐をかくのはあたしには無理だ。
トムは我に還ったのかあたしから離れて、
「あ、いや、アニタが嫌なら別にいいん「ていっ」だ。うぉっ」とトムをベットに押し倒す。
「あ、あたしは高いからね・・・依頼料金はえっと、シーサーペント親子討伐と野盗で・・・魔石代の諸経費引いて、1億飛んで・・・100万G分ね。」
「いいのか・・・うぐっ」とその空気の読まない唇を塞ぐ。
すぐに唇を離して「料金はその都度説明してあげる・・・まずはあたしに任せない・・・はじめてだけど・・・がんばる…」
こうしてあたしたちの長い夜がはじまるのだった。