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第四話 お金の力<帝国歴567年7月4日>

本日投稿二回目です。

(次の更新は明日予定です。)



 宿屋で寝ていたトムを起こし、多少の食料の購入と冒険者ギルドで道中に倒した魔物の素材を売り払った(トムの冒険者ギルドの加入料を抜かして2万G程となった)わたしたちは次の町に向かうため街道を歩いている。


「(しゃりしゃり)・・・なんか慌しいなぁ。正直まで寝たりないし・・・」とリリンゴ(赤く酸味のある果物)を皮ごと食べながらトムが愚痴る。


「(しゃりしゃり)・・・商売なんてそんなものよ」とあたしもリリンゴを食べながら訳知り顔で返答する。


 正直・・・幻術であたしだとばれるはずがないのだが、念には念を押してすぐ町を離れることにした。まあ、お金があれば解決できることだったのだけど・・・そのお金がないのだから仕方がない。


「それに・・・俺、ギルドで自分のレベルやスキル確認したかったんだけどなぁ・・・」と性懲りもなくトムがぼやく。



 あたしは食べ終わったリリンゴの芯が自然に還るようにポイッと森の中に投げ飛ばした後に、ぽんっと手を叩く。


「・・・そうだ。それは解決できるわよ」


「?・・・ギルドの水晶以外にわかる方法があるのかよ?」



「じゃじゃん!!」と言ってリュックからまた黄金の石を出す。トムが胡散臭そうな眼をあたしに向けてくるが・・・気にしない。

 


「これはトムが寝ているうちに露天で買ったレベルとスキルがわかる石よ」とそれっぽく言う。毎度おなじみの”黄金の契約”である。



(「ギルドの水晶はって一回の鑑定に1万Gもとられるのよね・・・この石は一回1000Gほどだし。なんとか商売に・・・ギルドの専売特許を奪うのはまずいか・・・」となんとか儲け話にできないか考えてしまう。



 そんなあたしに気づかずに「・・・俺って世間知らずだったんだなぁ」とトムは少し黄昏たそがれている。


 黄昏たそがれているトムを気にせず、石(黄金の契約)によるレベルとスキルの鑑定をする。ついでだしあたしもしよう・・・トムにはわからないに。



 石が一瞬光るとその上にトムのレベルとスキルが表示された。


『トム:LV7、スキル:剣術LV1』



 ふむ、戦闘経験のない成人の村人が大体レベル5なので一般人よりはましって感じかな。中堅の冒険者でレベル30くらいらしい。



 ちなみにあたしは・・・


『アニタ:LV3、ユニークスキル:黄金の契約ゴールド・コントラクト



 まあ、特殊能力がなければあたしって一般人よね・・・二人とも天職(剣士や商人などの称号)も得ていないようだ。



「おっ、剣術のスキルがある!・・・技が使えるレベルが最低確かレベル3だったからなぁ・・・さすがにそこまで才能はないか」とトムのテンションが高い。


「そんな君に朗報だよ」と喜んでいるトムの顔を覗き込む。ちゃんと周囲を警戒しているか心配になる。


「これからシーサーペントの子供の討伐を君に依頼しよう」



「・・・ナンダト」


 トムの顔が形容しがたいものになっている。ふむ、トムは芸人に向いているのかもしれないと思うのだった。




〜・〜・〜・〜・〜・〜・



 冒険者ギルドで買取の審査中にあたしは片っ端からギルドの依頼掲示板を見ていた。


 その中で見つけたのが海に生息しているはずのシーサーペントの子供の討伐依頼だ。


 きっと今日明日中にでも誰かが受けるだろうその依頼をあたしは横取りすることにした。


 本当ならブッキングしないようにトムに依頼を受けさせたいのだが・・・トムのギルドランクは最底辺のGランクで、この依頼はCランク――4ランクも上の依頼なのでトムに受けさすのは無理だ・・・だが、”たまたま進路上にいたので討伐した”というのは問題ないはずだ。


 本当にシーサーペントなら、上手くいけば子供でも1億Gは固い・・・大人なら5億Gはいくだろうが・・・討伐はレイド(複数の冒険者グループが協力してことをあたるための集まり)級で当たらないと無理だろう。


ということをトムに説明していく。


「・・・というわけで、例え子供でも20人くらいの中堅冒険者が必要なわけ・・・わかった?」


「あぁ・・・わかったよ。俺達がどんな無謀なことをしにいくというのがな・・・」とトムは疲れた顔をしている。


 トムは猛反対したが討伐に成功すれば、ミスリル一式の装備代などの借金を免除するということで説得に成功した。この依頼の後はあたしの身体で報酬支払わなければいけないのが難点だけど・・・。


 成功報酬が少なすぎないか?と言われたがシーサーペントの子供の討伐の魔石代ということで納得してもらった。


「わかった、わかったが・・・無理そうならすぐに討伐はあきらめて逃げるぞ、いいな?」


「わかってるわよ・・・別に自殺志願じゃないしね。」と神妙に頷く。


 シーサーペントは火に弱い・・・冒険者ギルドに置かれていた魔物図鑑にそう載っていた。黄金の契約を上手く使えばいけるはず。・・・これはチャンスなんだと――自分に言い聞かせる。








 シーサーペントの子供がいる湖が見えてきた・・・シーサペントの子供はすぐに見つかった――体長5mほどで流形状の体躯をしており肌の色は青みがかった銀色に近い。顔は逆三角形に近く目つきは鋭そうだ。



 こちらにはまだ気づいていないようだ・・・それに湖から少し離れた陸地にいる・・・チャンスだ。


「トム、合図をしたら突っ込んでね」


「おーけー、やってやるよ」とどこかやけっぱちに聞こえてくる。




あたしは心の中で詠唱をする。



きんは森羅万象よりも価値があり、その価値ははっきりとしている。』


『不確かな価値のものよ・・・その絶対基準に平伏せ!!』



『黄金の契約ゴールド・コントラクト!!』



 20万G程費やしてあたしが願ったのは、コの字状にシーサーペントの子供が炎に覆われることとトムの剣に炎を宿すこと!!


「うぉ!って持ち手は熱くないのか・・・」とトムは炎に包まれたミスリル剣をもって呆然としている。


「ぎゅおおおお!!」とシーサーペントの子供はいきなりの炎でパニックになっている。ちょうど湖側をトウセンボするようになっており・・・つまり、



「トム!!炎の中から出さないように戦って!!」



「わかった!!」トムは30mほどシーサーペントから離れていた茂みから飛び出して向かう。




「ふぅ・・・頑張ってトム。成功すればきちんとご褒美あげるから」と祈るような気持ちであたしはトムの後ろ姿を見るのだった。


 本来ならシーサーペントを炎で直接包んだり、なにか刃のようなもので確実に死ぬようなものを願えばよかったように思えるが・・・どうやら、直接死ぬようなものは駄目らしい・・・それと”黄金の契約”で倒したものは経験値(生物などを倒したりして得る力)を得られないということが自然と理解できている。



「トムには強くなってもらわないといけないし・・・どうにかして勝ってほしい」


 でも何故だろう・・・こんなにも便利な力なのに、どこか使ってはいけないような異物感がしてしまうのは・・・。







 トムとシーサーペントの戦いは死闘なのだけど――見ているこっちからするとどこか喜劇めいてみえてしまう。


「こ、この・・・っち!!」


 一撃でもシーサーペントの攻撃を喰らえば――致命傷とはいかないまでも戦闘不能にもっていかれる可能性が高いため、トムは慎重ならざるを得ないのだが、圧倒的な経験不足なためか・・・体の動きがどうにも固くへっぴり腰になっている。



「ぎゅおおおおお!!」


 対するシーサーペントも経験が浅いためかパニックから立ち直っておらず、トムの剣の炎にも怖がっており、たまに腕を剣の炎に当たらないように出すだけなのだ。


 そんな不格好な一人と一匹のダンスも終焉を迎える。熱さに弱いシーサーペントふらつきながらトムの方に倒れてきたのだ。


「ちょっ!!」


 トムは押しつぶされないように右手の剣持ちつつ、両腕を大きく振りながら一目参に逃げる。


 ズドンっと大きな音と同時にざっしゅと何かが切れた音がする。



「へっ?」と驚くトムの前には・・・首だけになったシーサーペントが転がってきた。




「・・・結果オーライなのかしら」


 たまたまトムの剣があたって倒した喜劇にどこか釈然としないが・・・最善の結果になってよかったと思うことにしよう。



「さて、黄金の契約ゴールド・コントラクトを使ってシーサーペントを町まで運びましょ「アニタ!!逃げろ!!」う・・・え?」



 シーサーペントの死骸の近くでトムが大きな声を張り上げている。


「いったい・・・どう・・・し・・・」


 気づいてしまったのだ・・・自分の影が全くみえない・・・いや、影を隠すものなんてないはずなのに・・・とてつものない大きな影に隠されていることに・・・頭が警鐘を鳴らしてるのに動けない。




「あ・・・あ、あ・・・」



 あたしは後ろ振り向いてしまって後悔した。



 トムが倒したシーサーペントの6倍ほどの大きさの本物シーサーペントがすぐ近くにいたのだから。


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