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第三話 紅藥<帝国歴567年7月4日>


「・・・ぉぃ、ぁ・・・アニタ!!」



 あれ・・・聞きなれた男の子の声があたしを呼んでいる。なにか幸せで残酷な夢をみていた気がするけど・・・・・・あぁ、そうだ。確かテムの町に行くためにトムにおんぶされてたんだっけ。



 あたしは不機嫌そうに「ちょっと、大きな声出さないでよ〜、丁寧に起こしなさいよ〜」と言ってあたしは目を開き、トムの上で「うーん」と伸びをする。


 ぶっちゃけ身体が痛い・・・落ちないようにだろうか。お尻の辺りをトムが思いっきり両手で鷲掴みしている・・・寝ている前は違ったんだけど・・・うーむ、なんかトムの手跡がお尻についてそう・・・跡残らないかな?とちょっと心配だった。さすがに寝ずに強行軍をしてもらったんだ・・・お尻鷲掴み代は・・・無料としよう。あたしが寝ているときどういう反応だったかちょっと気になるけど「・・・やっ!」とトムの背中から景気よく飛び降りる。


「おっと!」とトムがバランスを崩して転びそうなったが、ケンケンしながら体勢を整える。おぉ・・・いいバランス感覚だ。



「トムはあたしが育てた」と腕を組んでドヤ顔する。



「アニタおまえ・・・」となんだか文句をいいたそうな感じだったが言葉を飲み込んで小声で「言っても無駄か・・・」とのたまう。失礼しちゃう・・・ぷんぷんとらしくないことを思ったら・・・眼が冴えてきた。



「こほん」と咳を一つして気分を切り替える。



「で、どの辺りまで来れたの?日が明けて間もないようだけど」と辺りを軽く見渡すと空はまだ薄暗いが徐々に明るさを取り戻しているところのようだ。


 街道近くの木々の上ではリリモス(口の辺りが膨らんで眼がつぶらな体長30cmほどの小動物)の親子が毛繕いをしている。



「もう30分したら、町につくぞ。だから起こしたんだ・・・着く前にこの宙に浮いてる石をなんとかしないとまずいだろう?」とトムに言われたのでトムの頭上を見ると10時間以上経っているはずなのにその黄金の輝きは色褪いろあせていない。ちなみによく眼を凝らして街道の先を見てみると町らしきものが見えた。


「そうだね・・・この辺りまでいいかな」とあたしが言うと魔物避けの石はそこに最初から何もなかったように消滅した。


「・・・」


「ははは・・・ちょうど時間切れだったようね」とどこかバツの悪そうな笑みを浮かべてしまう。うーむ、この能力を使ったのは二回目だけど、ダイレクトにあたしの意思を反映するらしい・・・気をつけないと。石を使用するときにそれっぽい詠唱でもすればよかったかなぁとちょっと思ってしまう。


「さぁ行くわよ」と眠そうなトムの手をとってあたしたちはテムの町に向かうのだった。





〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 テムの町はあたしたちの村に比べたら栄えていた。煙突から煙が出ているパン屋ではまだ早朝なのに店頭販売をしている。他にもさまざま店が店開きのための準備をしているようだ。まだ人はまばらだけどもうすぐしたら人が溢れ出してくるのでないのかという気配がする。まあ、この町の本質は今日はもう店じまいしているんだけどね。それがあたしにとっての商売あきんどチャンスである。なんか違う気がするけど・・・反論は受け付けないと一人突っ込みをしつつ、あたしたちは宿屋の前に来ていた。前もって安くて治安がいいと調査済みの宿だ。その名も『リリモスの宿り木亭』と看板に書いている。



「さてと、とりあえず休憩ね・・・すいません」と店先をほうきで掃除をしている恰幅の良い女将おかみさんらしき人に声をかける。


「いらっしゃい、泊まりかしら?」


「ええと、休憩で3時間程でお願いしたいのですが・・・鍵が閉まる部屋を一部屋でお願いします」と言うとなんだか隣のトムの眠そうな顔が驚きに変わる。「・・・?」とあたしは首を傾げる。


「まあ、朝からお盛んなのね。角部屋は防音になっているから・・・そこにしましょう」とわけのわからないこ・・・と・・・を、そうか”ご休憩”と勘違いされたようだ。まあ、いいか。値段さえ同じならなんでもいい。そろそろ急がないといけないし。


「・・・それでお願いします。」と憮然とした顔で言うと、トムはどこか興奮した顔でこちらをみている。いや・・・トム、そもそもそういうことならいろいろとおかしいでしょう・・・それにあたしの”乙女”はそんなに安くないのだ。




 トムと必要のない荷物を宿の鍵付きの部屋に放り込んで、あたしはこの町の娼館街に向かった。ドアを閉める直前のトムの絶望した顔が・・・印象に残らなかった。うん。



〜・〜・〜・〜・〜・〜・



 ここは娼館街。どこか薄汚れている建物、葉巻と甘い香水の匂いがあたしを出迎えてくれた。


 ここに来る前に井戸で顔を洗って一応小奇麗にしてきた。


「一応・・・変装もどきをするかな」・・・リュックから帽子を出す。


 煙突掃除の少年に似合いそうな帽子の中に髪をまとめて――さて、お仕事の時間だ。



 娼館から少し離れた場所に陣取って布を引き、粉上のものが入ったビンを並べる。娼館の支配人や用心棒の人たちには見つからないようにしないと・・・と思っていると一仕事を終え、化粧を落としたお姉さん方がこちらに歩いてくる。


「お姉さま方・・・よろしければお仕事の必需品を購入されませんか?」といつもは使わない――貴族にでも相手をするかの如く商品をすすめる。


「これは・・・紅薬べにくすね」とどこの町にでもいそうな素朴な20台半ばのお姉さんがビンを手にとる。


 紅薬――別名避妊薬である。別に紅色べにいろではなく黄色の粉状のものなんだけど・・・女の子の日が来るようにという願掛けめいたものが名前の由来らしい。ほぼ100%避妊できるらしいのだけど・・・絶対確実ではない。


「はい、わたくしワーミル商会でルック様付きの見習いをさせて頂いております”ガゼル”と申します。」と男の名前で自己紹介をする。


「そう・・・坊やはルックさまの・・・」と疑うような視線を向けられる。


 今あたしを”坊や”と言ったお姉さん以外の人もあたしのことを少年だと思っている。帽子による変装とこの起伏の乏しい胸の所為で少年と勘違いされているわけでは――もちろんない!!黄金の契約ゴールド・コントラクトの能力で”一人を除いて”少年に見えるようにしているだけだ。その所為でなけなしの全財産はなくなって・・・今のあたしは無一文。どうにかしてあきないをを成功させないと・・・トムが休憩している宿の宿代すら払えない。懸念があるとすれば、ワーミル商会の者だと信用してもらいか・・・どうかだ。前に村に来た行商のおっさん(ワーミル商会の主人)が丁稚の少年を連れてきたときに少年がよく朝方『紅薬』を販売していると聞いたので問題ないと思うが、いつもと違う少年を信用するかは正直な話・・・綱渡りだ。


「いつもの坊やじゃないのね?確か、次の販売は明後日じゃなかったかしら?」とどこか作り物じみた美貌(もちろん、ほめ言葉である。)――のお姉さんが疑問を投げかける。



(「お願いさっしって」と祈るような気持ちでいると集団の最後尾にいたお姉さんがあたしの前に出てきた。



「・・・ああ、そういえば、姉さん。いつもの坊やは違う仕事があるとかで明後日これないらしいの・・・それで臨時の坊やが来るのを伝え忘れていたわ。」とあまりおしゃれではない服なのだけど・・・巨乳の所為で扇情的に見える桃色髪のおっとりとしたお姉さんがそうフォローを入れてくれる。


「はい、そうなんですよ」冷や汗をかきながら返答する。どうにかなりそうな流れで心の中で安堵する。


 このフォローを入れてくれたお姉さん――数年前まで村にいたセシルお姉さんだ。珍しい病にかかったセシルお姉さんの弟ゼラットの高価な薬代のため、お姉さんは身売りすることになったのだ。



(「・・・いつもの少年にはサービスで黙ってもらわないと、賢いアニタちゃんがこんな無茶しているんですもの・・・」


 セシルお姉ちゃんがあたしにだけわかるようにウィンクしてくれる。反応返すと不自然なので黙って心の中で感謝をする。(「この恩はきっと返すから・・・」とあたしは心に誓った。






 村の近くで採って煎じた避妊薬は今回限りのサービスということで少し安めに値段設定をして販売した。持ってきた分全て完売することができ・・・だいたい50万Gで売ることができた。


「さて、トムを回収して早くこの街を離れないと・・・」


 少年に見える幻術が解けたあたしは急ぎ足で宿に向かった。町で商売をするなら本来商人ギルドで許可証を発行してもらわないといけない。さらには娼館街での商売には娼館街を仕切っている元締めに元締め料を支払わないといけない。


「商人ギルドの許可証は発行に時間がかかるし、後見人が必要になってくるから・・・時間的に却下。元締め料は一見だとふっかけてくるだろうし・・・基本的に商売はこっそりとするか商人や冒険者ギルドに商品を納めることになるかな・・・」とぼやきつつ、宿についたあたしは爆睡しているトムを起こしにかかるのだった。

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