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第二話 道中<帝国歴567年7月3日>

「・・・・・・(こそこそ)」とあたしは自分の部屋から玄関に向かっている。時間はトムの告白した時間より2時間ばかし早いくらい――だが、トムとの待ち合わせの時間はとっくに過ぎている・・・寝過ごしたのだ・・・思った以上に行商のおっさんとの交渉はあたしの精神力を削ったらしい。


 ドアノブを慎重に開けてぎりぎり自分が通れるスペースを作りドアの向こう側に滑り込むように移動する。


(「自分の家なのに泥棒にでも入ったみたい」と心の中で苦笑しつつ、なるべく音を立てないようにドアを閉めた。



「さてと、誰かに合わないうちに行かないと・・・早起きの人なら日課の乾布摩擦してもおかしくない。」と健康的な我が村の男性陣を意識しながら霧が少し出てる村を早足はやあしで歩く。


十数歩で歩みを止め、後ろを向いて十数年過ごした我が家を見てしまう「・・・・・・」




 魔物が村を襲った日――その日の記憶はどこか曖昧だ・・・黒い神様?らしきものに力を授かってあたしを残して死んでしまった村人を・・・その力をもって蘇らせた。その代償として一ヶ月(28日)以内――正確には残り24日以内に3億Gを用意しないといけない。なんだろう・・・何かが矛盾している気がする・・・でも、それは”どうでもいいこと”のように思える。


「はぁ・・・少し考え過ぎなのかな・・・無事にお金を稼いで村に戻ればいいんだから。」


 そう、これが最適な行動なのだからと自分を納得させて『絶対に村に帰るんだ』という決意をし・・・自分の家を目に焼き付けた。





〜・〜・〜・〜・〜・〜・



 あたしが大木のふもとについたとき、トムはよだれを垂らして横たわっていた。


「とりあえず・・・」あたしは登山用の皮のブーツに包まれた右足でトムの頭をぐりぐりと踏む。


「な、なんだ!!」とトムの視線があたしに踏まれた状態であたしの顔に向けられる。


「おはよう・・・いいご身分ね・・・トム。護衛対象に起こしてもらうなんて・・・ええ、本当にいいご身分ね」とごみを見る目でトムをさげすむ。


「わ、わりぃ・・・うん?・・・ちょっと待てよ・・・アニタが遅刻したのが悪いんじゃな・・・い・・・か」と徐々に言葉に勢いがなくなっていった。


(「ちっ、誤魔化せなかったか・・・まあ、トムは自分で墓穴を掘ってくれたし・・・よかったことにしよう」とトムの視線があたしの顔よりもかなり下――スカートの中の秘密の花園に向けられていた。


「はい、サービスタイム終了っ」と言うのと同時にトムの頭のてっぺんを靴のかかとで”ごりっ”と擦る!!


「いっでぇ!!」と言って跳ね起きるトム・・・文句を言いそうな口が開く前に「・・・スカート覗きは2万Gよ」とぼそっと言うと、トムは「うぐっ」と言って沈黙した。



 そんなどこか旅立ちの日とは無縁のやりとりであたしたちの旅は始まった。



〜・〜・〜・〜・〜・〜・



 目的地のテムの町は大体・・・歩いて一日かかる距離だ。今から休みなしで歩けば早朝にはつくだろう。あたしの体力は持たないだろうけど・・・途中(日が暮れて)からトムに背負ってもらう予定だ。もちろん、夜の街道は魔物の遭遇率が上がるので自殺行為なんだけど・・・あたしにはそれをどうにかするすべがあるので・・・まあ、無理だったら簡易の野営セットの出番かなと思っていると、あたしの少し先でトムとワイルドドック5匹・・・いや、残り2匹との戦闘が終わりつつあった。



「こいよ!!犬っころ!!」とトムが挑発するとそれに触発されたわけでもないだろうが・・・残りのワイルド二匹が「がぁっ!!」と口を大きく開けトムに飛びかかってくる。


 トムは避けようとせずに上手くわずかな動作でミスリルの左腕の篭手とミスリルに包まれた胴体の右わき腹辺りで二匹のワイルドドッグの鋭い牙を受け止め、「はぁ!!」と素早く右手に握っているミスリルの剣でワイルドドックの頭をねる。


「さてと・・・剥ぎ取り♪剥ぎ取り♪」


 戦闘が終わるとあたしの出番だ。と解体用のナイフを手に持って鮮度のいい計五匹のワイルドドッグの皮を剥いでいき、心臓の辺りにある魔石も忘れずにぐりっぐりっと抜いておく。一応旅は順調だ・・・あと残りの行程こうていは半分くらいだ。


 トムはあたしの解体中・・・辺りを警戒しつつ、「これ・・・絶対実力じゃないなぁ」とぼやく。


「運も実力の内、装備も実力の内よ・・・ようは将来装備負けしないようになればいいんだから・・・それにレベルにあった装備をするのがセオリーみたいに聞いたことあるけど、お金を用意できるならいい装備にしたほうが絶対いいと思うのよね・・・将来の買い替え額の合計考えるとね・・・。それにミスリルなら鉄や銀装備なんかより軽いし・・・ふむ、初心者向けにミスリル装備貸す商売は・・・いろいろと問題ありそうだけど、一考の余地ありそうね・・・駆け出し冒険者の死亡率は7割だし・・・。」

ともはや独り事のようにいいながら解体作業を終える。もちろん、服に血がつくようなヘマはしていない。生きた鶏をさばくのに比べたら朝飯前だ。


「そうだよな・・・装備負けしないようにいっちょ頑張るか!」と左手で頬叩いて気合を入れている。その様子を男の子だなぁ〜という感じで見ていると地平線に日が落ちかける――そろそろ夕暮れだ。


「それじゃぁ、トム。少し移動してからご飯休憩を取ったあと・・・あたしを背負って町に向かうこといいわね?」


「いや、本当に大丈夫なのか?魔物が近づいてこなくなる魔石なんて聞いたことないぞ?20体くらい倒したからレベルは多少上がってるだろうけど・・・駄目な場合対処できるかどうか・・・」と心配そうに聞いてくる。道中に説明したのだけど・・・まだ納得してないようだ。


そんなトムの目の前にポシェットから黄金色の”石”を取り出してみせ「本当よ・・・行商のおっさんが”たまたま”未開の森の部族が分けてもらったそうよ。あたしを信用しなさい」と自信満々な受け答えをする。少しの時間も無駄には出来ない・・・強行軍さえ辞さないつもりだ。



「はぁ・・・わかったよ」とトムはしぶしぶ納得した。



(「あれ?もっと渋るかと思ったんだけどなぁ」と思いつつ、先程倒した魔物の血の匂いで他の魔物が来ないように移動を開始する。毛皮を入れたリュックやあたしとトムには匂い消しの草を乾燥して粉状にしたものを振りかける・・・はぁ、この匂い嫌いなんだけどなぁ・・・と心の中で愚痴る。







 晩御飯を食べ終えたあと、トムに背負ってもらいつつ一路――再び町へと向かう。黄金色の石はトムの頭上に浮かび上がり・・・明かり代わりになりつつ、いくら動いても定ポジションでいてくれる。この石は・・・本当はその辺りで拾った石でしかない。何故魔物避けになるか・・・それはあたしの手に入れた『黄金の契約ゴールド・コントラクト』という能力によるものだ。この能力は捧げたお金分だけで願い事を叶えてくれる能力だ。ちなみにこの石を作るのに昨日の買い物で残り少なくなったなけなしのお金――8050G(銅貨80枚、銭貨50枚)が2050Gに減ってしまった。まあ、投資と思って割り切るしかない。この近辺の魔物とはそれほど強くないからこの程度で済んだけど・・・これからの旅のことを考えるとお金の使い道は良く考えないといけない。



――ちなみにトムにおんぶしてもらっている・・・つまり肌が触れているのだからおんぶ代としてトムの借金増やそうと思ったのだけど・・・「鎧の所為でじかに触れている部分が少ないから却下だ!」と言われてしまった。残念。


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