プロローグ
村が夜なのに・・・こんなに明るい。
村が燃えている・・・その赤色に紅色が混ざる・・・。
「あたしの血か・・・ちくしょう」
あたしの頭から流れる血が眼に入り絶望の色を濃くする。
夕方までは平和な村だったのに・・・悔しがるあたしに影が落ちる。
「くっ」
「がっるる!!」
先程あたしを吹っ飛ばしたワイルドドッグという犬型の魔物がとどめをさしにやってきた。
逃げなきゃいけないのに体が思うように動かない・・・なのに体全体の震えは止まらない。
ただの村娘にすぎないあたしにはどうすることもできない。
ワイルドドックは抵抗できないあたしの首筋に噛みつこうと・・・
~・~・~・~・~・~・
「ふぁ・・・ねむ・・・」
あたし・・・アニタは夜が明けてない早朝から幼馴染のトムに村を見下ろせる丘にある大木までくるように言われていた。
「正直・・・レディの部屋の窓をいきなり開けて用件言うのやめてほしい」
そんな文句を言いつつ、井戸のある水場で顔を洗い、髪の毛の手入れを終え、二つの紐で髪をツインテールにする。
水の入った桶を覗きながら・・・茶髪で肩のところまで髪が伸びている身長145cm程の見慣れた活発そうな可愛い女の子・・・・・・まあ、自分が田舎くさいというのはわかっているんだけどね!!胸も微乳だしね!!
「あ、あたしだってこんな村人ルックでなければ・・・」
つぎはぎがなるべくわからないようにしている簡素な布の服・・・乙女としては服にお金をかけたいけど・・・リボンをケチるほどあたしはお金をなんとしても稼がないといけない・・・村人には”守銭奴のアニタ”という呼び名が定着しているが・・・キニシテイナイ
そんなことを考えているのはきっと頭が回ってないからだ・・・うん、そうに違いない・・・と「うんうん」頷きながら徒歩5分ほどの丘に向かう。
トムは珍しく緊張した様子で丘の大木に背を預けながらぶつぶつ何かつぶやいている。
「トム・・・あたしをこんなところに呼び出して何のようなの?」
不機嫌そうにあたしは言う・・・今日はあまり体調がよくなく、牛の世話をするぎりぎりまで寝ようと思っていたのに・・・。
「うわぁ・・・もう来たのかよ!!」
ちょっといらっとしながら「帰っていい?」と言ったら「いいわけあるか!!」と怒鳴られた・・・意味がわからない。
「少し待て・・・深呼吸するから・・・」
トムは息を吸って吐いてを繰り返す・・・そんなトムも村人ルックである・・・蒼い目にかかるくらいの蒼い髪に身長はあたしよりも20cmも高い・・・同い年・・・だが、なかなかに筋肉質である。
冒険者志望で村に魔物退治にきた冒険者に稽古をつけてもらっており、筋がいいとほめられていた。
「言うぞ」とトムはあたしの至近距離まで近づいてきた・・・ぶっちゃけ鼻息が前髪にかかっている・・・「・・・あたしも用件があるからさっさとしてくれない?」あとで頼もうとしていたあたしの用件を言おう・・・トムにこんなこと言うのは業腹なのだが・・・仕方ない。
「好きだ!!アニタ!!結婚してくれ!!」
朝日があたしたちを祝福するように照らす・・・わけがない!!
「だが断る!!」と腕を組んでドヤ顔をする。
「ふぇ・・・」トムは断られると思ってなかったのか・・・アホ面をさらしている。まあ、弟分としてはかわいい奴である・・・そんな奴だからこそあたしは・・・あたしの用件を頼めるのだ。
「トムの用件は終わったでしょ・・・あたしもトムに頼みがあったのよ・・・」
魂の抜けた顔で「あぁ・・・」と返事する。大丈夫だろうか・・・まあ、呆けているうちに言質をとってしまおう・・・。
「トムにはあたしの専属の冒険者になってほしいのよ・・・準備が整い次第・・・あたしたちはテムの町に向かうわ」
「?・・・俺達の成人の儀は一年後だろ?・・・・・・アニタが商人になりたいのは知っていたけど・・・」
成人の儀とは成人になったことを神様に報告する・・・まあ慣習みたいなものだ・・・村によって儀式は異なる。
「トム・・・実はテムの町での商売チャンスは今年しかないの!!だからあたしは急がなくてはいけないの!!母さんや父さんに内緒で!!」と手ごろな岩の上に乗ってトムの唇にキスする寸前まであたしの唇を近づける。トムは「あぅ」とか情けない声をだし・・・「アニタがいうなら・・・わかったよ」と俺が止めても勝手に行きそうだしと小声で言う。
「これで契約成立ね」と言うとあたしの唇をトムの唇にくっつける。
「・・・・・・」トムは放心しながら手をわなわなと震わせる。
きっちり5秒ほどしてから唇を離し、トムから数歩離れてトムの正面とは逆の方を向きながらあたしは指で唇の感触を確かめた。
「報酬はあたしの身体で払うわ・・・つまり、あたしからの依頼がないときに自分の食い扶持は稼ぐように・・・まあ、初期投資として冒険に必要な道具はあたしが用意してあげるわ・・・」
いくらなんでもトムに防具もつけず、さらには木剣であたしの護衛をしてもらう訳にはいかない。
必要なことは言ったかな?さて忙しくなることだし今日はぎりぎりまで寝るぞ~と”努めて平静そうに”村に戻るあたしだった。
「はぁぁああああ!!」という大きなトムの魂の叫びがあたしの後方から聞こえたけど気にしない・・・というか眠たい・・・「くわぁ」