流されて異世界へ2
異世界のバカヤロウ!
俺は心の中で何度もつぶやいた。
異世界に飛んだら魔法が使える。
そんな夢みたいな話が現実にあるわけがないのだ。
落ち込む俺にミストは、まぁまぁと慰めてくれた。
「もしかして君って魔法使ったこと無いの?」
「ないよ」
「それじゃあ無理じゃないかな。私たちは小さい頃から練習して使えるようになったから」
「やっぱ、練習が必要なのかな?」
そんな話をしながら砂浜を歩いていると、昔話とかに出てきそうな漁村が姿を現し始めた。
「あれが私の村、パール村だよ」
そういってミストは駆け出した。
俺は慌ててついていくと、村の入り口に衛兵だろうか?一人の男がたっていた。
その男にミストが話しかけ俺を指さすと、その男がこちらを見てきた。
「流れ着いてきたのか?よく魔物に食われなかったな」
「どうやら運が良かったみたいで」
「そうだろうな。近頃魔物が活性化しているんで、俺のような傭兵が村の入り口で魔物が入ってこないよう監視しているんだ。あと不審人物のチェックとかもな」
そういってその男は俺の身辺を軽く見ていた。
「とりあえず、危険そうなものは何も持っていないな。入っていいぞ」
「じゃあ行こうか!」
村の中に入っていくミストについていき、俺は歩き出した。
その村は老人や子供が中心で、ほとんどの大人がいなかった。
ミストにそのことを聞いてみると。
「日中は狩りの時間だからね。若者は働かないといけないのだよ」
「じゃあ、君も?」
「そう、さっき倒したロックシェルは村の重要な食糧だよ」
「えっ!あれが?」
「外見はまぁよくないかもしれないけど、意外と中身は美味しいんだよ」
いやいや、見た目かなり重要だろう。
エスカルゴみたいな感覚なんだろうけど、さすがに大きさが違いすぎるし。
何よりあれって肉食生物なんだろ?
そんなことを考えていると村の中心に位置する少し大きな藁で出来た家にミストは入って行った。
そのあとに続き、中に入るとミストが叫んだ。
「おばぁー!いる?」
すると中の奥の方で座っていた老婆が、目を開いた。
「なんじゃい騒々しい。叫ばんでも見ればわかろう」
「こんな暗い中じゃわかんないよ。それよりおばぁ、知らないところから流れ着いてきた人がいるんだけど」
「いったいどこからだって?」
老婆に尋ねられたミストはこちらに振り向いた。
「え~と、どこだっけ?」
「日本です」
「そうそう、ニホンってとこだった」
それは聞いた老婆は、はてと目を閉じ考え始めた。
しばらくすると老婆は目を開き、口を開いた。
「ニホン…聞いたことのない地名じゃな。それにお主から精霊の加護が感じられん」
「そっか、精霊の加護がないから魔法が使えないのか!」
成程とミストはうなずいた。
精霊の加護?
精霊というのはゲームとかに出てくるあれだよな。
その加護がないって、それってやばい事なんじゃ…
「加護がないと、何か良くないことでも起きるのですか?」
「それがのう…」
老婆の表情は険しくなり、俺は冷や汗を流した。
「わからん」
わからんってなんじゃそりゃ!
「精霊の加護がない人間など初めて見る。お主、本当に人間か?」
「人間です。でも俺はこの世界の人間ではないかもしれません」
「どういうことじゃ?」
俺は自分の世界に魔法の概念がないことと、大陸の違いについて老婆に説明した。
「成程、お主の世界にはこのブルッガ大陸という名の大陸が無いということじゃな」
「簡潔に言えばそうです。でも地域によって名前が変わる可能性も捨てきれません。ですから地図があれば見せてほしいとミストさんにお願いしたところ、村長さんの家にあるかもしれないと言われたので、こちらにお邪魔したというわけです」
「そういうことなら、お見せしても構わん。ミスト、後ろの戸棚の引き出しに入っておるから取っておくれ」
ミストは言われたとおりに後ろの戸棚から筒状に丸められた紙を取り出した。
その間に老婆は机の上にあったランプのふたを開けると、中にあった石を叩いた。
するとランプからは暖かい光がゆっくりとあふれ出してきた。
ミストがその紙を広げると見たこともない地形がその紙には描かれていた。
「どうじゃ?」
「俺のいた世界とは全然違います」
「では、お主は違う世界の人間というわけじゃな」
「そうなりますね」
老婆はふむと頷きながら口を開いた。
「もしかしたら、魔王が関係しているかもしれないのう」
「魔王!?」
言われてみれば魔物がいるんだから魔王がいてもおかしくはないよな。
それをもしかして、俺が倒さなくちゃいけないというのか?
「近頃、魔王が何やら画策しているという噂があってな、それが何かお主に影響を与えたのかもしれん」
「じゃあ、俺はその魔王を倒さなくちゃいけないということですか?」
「いや、その必要はないじゃろう。賢者たちが討伐に向かう準備を進めているという話じゃからな」
俺が行かなくてもいいんならよかった。
魔法も使えないし、こんな状態で言っても殺されるだけだ。
でも、賢者?
勇者じゃなくて?
「魔王を討伐に行くのは勇者じゃないんですか?」
「勇者?なんじゃそれは。討伐に行くのは賢者たちじゃ」
「賢者って魔法を極めた人みたいなもんですよね?」
「簡単に言えばそうじゃな」
賢者っていえばよくゲームで出てくる魔法使いや僧侶の上級職。
でも魔法には強いけど、体力無かったり防御力が低かったりしないのか?
「何か勘違いしてるみたいだけど、賢者様はめちゃくちゃ強いんだよ」
「そうなの?」
「賢者ってのはね、七属性のうち一つを極めた者がなれる最大の称号なんだよ」
「でも、魔法でしょう?身体能力が高いとかっていうわけじゃ…」
「そんなことはないよ。火の賢者様は世界最強の剣士でもあるし、水の賢者様はカウンターの達人だしね」
要するに魔法だけを極めただけでは賢者になれないということか?
もしかして魔法剣士みたいなものか。
「それが属性の人数だけいると」
「そういう事じゃ。7賢者は世界の秩序を守り、英雄として崇められておる」
「ちなみに今この大陸にいる魔王はスィッタだよ」
この大陸に魔王がいるのかよ!
ってことはラスボス手前の農村かここは?
だから、あんな魔物が普通に浜にいるんだな。
でもちょっと待てよ。
この大陸って言ったよな?
ということはまさか!
「一つ聞きたいんですけど、この大陸以外にも、もしかして魔王っているんですか?」
「当たり前じゃろう。一人の魔王がわざわざ海を越えて支配しようなど考えるか?」
「ということは地図を見る限り大陸は7つあるから7人魔王がいるってこと?」
「いいや、この地図の真ん中にある一番小さな島は聖地でな、唯一魔王も魔物もいないエデン島と言われる場所じゃ。だから残りの6大陸に一人ずつ魔王がおるから全部で6人の魔王じゃな」
どんな無理ゲーだよ。
賢者7対魔王6って俺が生きてる間に決着つくのか?
そもそも、賢者だけで戦ってたら負けるんじゃないか?
「ちなみにそのスィッタって強いんですか?」
「そりゃ強いに決まっておろう。スィッタはドラゴン属の王じゃよ」
「ドラゴン!?あのでっかくて翼が生えてて火を吹くやつですか?」
「大きさはともかく、火を吹くのは知らんぞ?ドラゴン属の強さは剣では傷付けられぬ鱗に、強靭な足による速さ、さらには空を飛べる三大種族の一角であるということじゃ」
なんだろう、俺の思っている創造と全然違う気がするんだが。
とにかく、ドラゴンは聞いた限りでは危険ということだけは共通認識でいいみたいだから覚えておこう。
「わしから話せることはそんなところじゃな、これ以上の情報は城下町に行かねばわかるまいて」
「その城下町というのはここからどのくらいかかるのですか?」
「うーむ馬車を使えば2日ぐらいじゃが、この村には馬車などありゃせん。歩いていくなら早くて4日といったところかの」
「ちなみに行く途中にはあの貝みたいな魔物もいるんですか?」
「あれは、海辺の魔物だからいないよ。城下に行くには街道を通るわけだから、獣型のライガーとかキノコゴブリンとかかな」
「ちなみにそいつらは強いの?」
「うーん私は簡単に倒せるからそんなに強いとは思はないけど・・・君、剣使える?」
「剣?というと両刃に柄が付いているあの」
「そうそうそれ!ライガーはわかんないけどキノコゴブリンなら何とかなるんじゃない?」
何とかなる程度なら確実に無理だな。
剣なんか握ったこともないし、剣道だって授業でちょっとやった程度。
そんなんであんな魔物なんて倒せるわけないしな。
「ちょっと城下には行けそうにないな」
「ふむ、数日待てばどうにかなるかもしれんな」
「どういうことですか?」
「数日前に傭兵団の一員がここを通ったのじゃ。なんでもここから東のムーランの森にハーピーがいたそうでな。それの討伐指令を受けたそうでな、うまく退治でもしてれば数日後にはこの村によるはずじゃ」
「成程、その傭兵団についていくことが出来れば城下まで連れて行ってくれると」
「要はそういうことじゃ」




