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流されて異世界へ

 

 降り注ぐ日の光に俺は目を覚ました。


 鳥の鳴き声にさざ波の音、鼻を駆ける潮風の匂い。


 体を濡らす海水の冷たさによって次第に感覚が鮮明になってきた。


「君、大丈夫?」


 そんな言葉をかけられた俺は、どこかの砂浜で目を覚ました。

 非常に頭が痛い。


 俺は何でこんなところで寝ているのか?

 とりあえず、声をかけられた人には心配されないように言葉を発した。


「はい、大丈夫です」

「良かった―。こんなところに倒れてるんだもん。下手したら食べられちゃうよ」


 そんな物騒な言葉を吐いたその少女は、手を差し伸べてきた。

 

 その手に捕まり、起き上がろうと力を込めた。

 どうも足腰がおかしく思うように体が動かない。

 ようやく立ち上がった俺に少女はさらに話を進めてきた。


「君、見たことない人だけど冒険者かな?」


 冒険者?

 ああ、旅人ということか。


 ――しかし、俺は旅なんかしていたか?


 砂浜にいるのは、夏休みで海水浴に来ていたからだ。

 その海水浴の途中、足が攣って溺れたまでの記憶はどうやら思い出したらしい。

 俺はそのあと、どこかの砂浜に打ち上げられたということか?

 だが、自分の体をよく見ると服を着ていた。


 ――正直訳が分からない。


「おーい、聞いてる?」


 その少女は目の前で手を振り、俺に確認をしてきた。


「ああ、ごめん。溺れて浜辺まで打ち上げられたみたいなんだけど、なんだか記憶が曖昧で…ここどこなのかな?」


 俺は目の前に広がる白い砂浜とエメラルドグリーンに光る海を見てそう言った。


「そうなんだ。――ここはパールの砂浜だよ」


 パール?聞いたことがない。

 でも英語でパールは真珠だ。

 もしかしてここはアメリカなのか?


「ここってアメリカなのかな?」


 そういった俺に彼女はポカンとした顔でこういった


「違うよ」

「じゃあ、フランスとか?あ~でも日本から流れ着くのには無理があるか。逆に中国とか香港とかだったりするのかな?」


 そんな俺の言葉を目の前の少女は首を傾げながら。


「そんな名前聞いたことないよ」


 そう言い放った少女は閃いたように言葉をつづけた。


「そっか別の大陸から来たんだね。私ここしか知らないから、ほかの大陸の名前はさっき言ってたアメ…なんとかっていうのかな?」


 その少女は成程、成程と頷いて俺に絶望的な言葉を告げた。


「ちなみにここはブルッガ大陸だよ」


 そういわれた瞬間、俺はここが知っている地球ではないことに気づき始めていた。

 だが認めたくない気持ちが先走り、つい言葉を発した。


「そっか、ブルッガ大陸っていうのか。もしかして君地図とか持ってないかな?」

「地図?私は持ってないけど、村長さんなら持ってるかも。よければ村まで案内しようか?」

「お願いしてもいいかな」

「うん、わかった。あっそういえば私はミスト。ミスト=バルーン」

「俺は蘭場らんば海斗かいと

「ランバカイト君ねよろしく」


 そういった彼女は握手を求めてきたので、その手を握り返した。


「ところで聞きたいんだけど、あれは何?」


 俺は握手をしながら彼女の後ろの方でカサコソと動き回る岩のような物体を見つめた。

 恐らく1mはあるであろうその岩はゆっくりとこちらに近づいて来ていた。


「ああ、ロックシェルの事?あれはね、こうやって倒すんだよ」


 そういった彼女は手を放すと、手をその岩に向けた。


dig(穿て) -- the spe()ar of ()thunder()


 その言葉を放った瞬間、閃光とともに彼女の手から雷で出来た槍が飛び出した。

 ロックシェルと言われた岩にその槍が突き刺さった瞬間、電流がその岩を包み込むようにうなりを上げ、岩の下から煙が上がった。


 その光景を見た俺は唖然するとともに、完全にこの世界が俺の知る世界では無い事を理解した。

 そして雷の槍はおそらくゲームとかで登場する魔法だろう。

 よくある異世界に飛んで魔法が使える状況に陥ってしまったみたいだ。

 

「さっきのって魔法なのかな?」

「そうだよ。海辺の魔物には雷魔法が一番だからね。でもそんなに驚かなくてもいいじゃん」

「俺にも使えるのかな?」

「うーんどうだろう?お父さんに聞いた話だと魔法にも相性ってものがあるみたいだから。でもこれならできるんじゃない?」


 そういった彼女は掌を見せた。


Light(光を)


 その瞬間、掌の上にビー玉くらいの光の玉が浮かび上がった。


「初級の雷魔法だから、詠唱さえできれば誰でもできるはずだよ」

「そうなのか?」


 誰もが一度は使ってみたい魔法がついに実現するときが来るとは!

 発音は英語だ。

 英語の成績が良かった自分がこんな簡単な発音が出来ないはずがない。

 興奮が高まる中、胸の高鳴りを抑え、深呼吸をし掌を上に向けた。


「Light」


 その瞬間、光が俺の掌の上に発生――することはなかった。


「あれ~おっかしーな」


 そういって彼女は俺の掌を見つめた。


「発音の仕方がいけなかったのかな?」

「そんなことなかったと思うんだけど…」

「もう一回やってみよう」


 そういって俺はもう一度掌に集中した。

 雑念があるからいけないのか?

 そうだ、イメージが必要なんだ。

 掌の上に光の玉…いや、光が出るようになればいい。

 光……光……よし!


「Light」


 眩い位に光る太陽。

 パールの砂浜でその太陽の光を跳ね返す、魔法の光を欄間海斗は手にすることはできなかった。

 異世界だろうと世界はそんなに甘くはなかったのだ。

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