I to YOU
『ねえ。ねえ、目を覚まして』
「………ゥ……ン……ゥン……」
『ボクが見える?』
「……」
『ボクはユウ』
「……」
『えーっと……聞こえてる?』
「……ワタシ……ワタシは………」
『もしかして、自分の名前がわからないのかい?』
「うん」
『じゃあ教えてあげる。君はアイ』
「ア……イ………」
『そう、アイ。いい名前だ』
「……あ、ありがと」
『じゃあ行こうか』
「行くって……どこに?」
『そんなの、“どこか”に決まってるじゃん!』
「“どこか”って?」
『いいから、いいから。ほら、手』
「う、うん」
『アイの手はあったかいね』
「……ユウの手は冷たい」
『あはは。まあ、とにかく。行こうか』
「うん。
……ねえ、どのくらい歩くの?」
『それは君しだい。長いかもしれないし、短いかもしれない』
「わからないってこと?」
『君がそう思うなら、そうかな』
「どういうこと?」
『あはははは』
「笑ってごまかさないでよ」
『ごめん、ごめん。
じゃあさ、他に質問とかないの?答えてあげる』
「そんな急に……あ、じゃあ、ユウはどこから来たの?」
『どこからも来てないよ。ボクはずっとここにいる』
「ずっと?」
『そう、ずっと』
「寂しくはないの?こんなに暗いのに」
『平気だよ。“ここが真っ暗だ”ってこれ以外の景色を知らないボクにはわからないしね』
「でも、これじゃあ道も見えないよ」
『道は未知のものだから……なんてね。
でも、いいんだ、見えなくて。進むのはボクじゃない。ボクは待っているだけだから』
「……すごいね、ユウは。ちゃんと自分の意志を持ってて、カッコイイ」
『はは。お褒め頂き光栄だ』
「羨ましいな。ワタシもユウみたいになれたらいいのに」
『……どうして?』
「だってユウは、元気で明るくて、優しいし、それに強い。ワタシに無いもの全部持ってるんだもん!」
『君はユウになりたいのかい?』
「なれるの?」
『なれるよ。そのためには、君は外に出なければならないけど』
「どうやって?」
『君が望めば出られるよ。ここは君の内側の世界なのだから』
「ワタシの……世界?」
『そう。ボクも君に作り出されたんだ』
「え……」
『ユウは君が望む存在。君が憧れる存在だよ』
「なりたいワタシ?」
『うん』
「ここから出れば、なりたいワタシになれるの?」
『厳密には、その後に色んな人に出会わなければならないけどね』
「でも……ワタシは……」
『何をそんなに悩むことがあるんだい?望む自分になれるんだよ!』
「……でも……やっぱり」
『何で!?ボクみたいになりたいんだろ!だったら』
「でも!!ワタシが居なくなったら、またユウが一人になっちゃう!」
『……えっ』
「ここは暗いし怖いし寂しいよ」
『……』
「ひとりぼっちは……平気なんかじゃ、ないよ……」
『は、は……あはははは』
「ユ……ウ………?」
『ボクのことあんなに褒めてたくせに、アイだって十分強いし優しいじゃん』
「そんなこと……」
『そんなことある。だからさ、もっと自信を持ってよ。アイの中には、元気も明るさも優しさも強さも、ちゃんとあるんだから』
「ワ、ワタシはそんなにすごくないよ」
『できるよ。君ならきっとできる。たくさんの人に会ってユウになれる』
「できる……かな?」
『そのためには外に行かなくちゃ。そして、ボクに明るい世界を見せてよ。言っただろ?進むのはボクじゃない。君だ』
「……わかった。ワタシ、行くよ」
『うん。
……外の世界にはたくさんのイヤな事があるだろう。悲しいことや辛いことも、数えきれないほどあるだろう。だけど、絶対に忘れないで。世界はそればかりではないことを。君はそんな世界を変える力を持っているのだから。君の強さは誰よりもボクが知っている』
「ユウを信じる。ワタシはきっとユウになってみせる」
『うん。楽しみにしてる』
「じゃあ、いってきます」
『さようなら』
「ユウ、ありがとう」
『……頑張れ、ユウ』