9.第2計画
さてさて、その後一週間ほど試行錯誤を繰り返しどうにか安定してパンを作れるレシピを確立し、天然酵母の育成と保存もトルビスが作ってくれた暖炉の余熱を利用する保存箱で解決した。
「新しくバターロールとクロワッサンっていうパンも作ってみたの」
「いつのパンよりいい香りがするな」
「小さくてカワイイ形ね?」
「こっちのはフワフワで甘いのね」
「クロワッサンっていうのはサクサクしてて不思議な感じだなぁ」
新作のパンも好評でこれなら新たな計画も実行できると確信し、そそくさと行動に移った。
「ル~ビス、ちょ~とこっちに来てくれるかなぁ~」
「な、なんだいミユキ・・・」
微妙に身構えるルビスをいいからいいからと、キッチンに連れ込む。
そこにはセリスが待ち構えており問答無用でパン作りにルビスを強制参加させる。
複雑な工程のパンのレシピを聞いて辟易していたルビスだが、実際にパン生地をこねる作業になると水を得た魚のように嬉々として張り切りだした。
「うはははーおりゃー!うりゃー!」
と、ドシンドシンと生地を叩きつけている。
見る間に生地はできあがり、スッキリとした顔のルビスが誇らしげに額の汗を拭っている。
多少セリスがこめかみを押さえ、これでいいのだろうか・・・と悩んでいるが、私としてはホームベーカリー機ルビス号を得たことでニマニマと笑いが漏れ出していた。
私の計画とはパンの販売である。
小麦粉として売るよりこの世界には無い天然酵母パンという付加価値を付けた方が目新しさもあり効率がいいのではないかと考えたのだ。
もちろん養ってもらっている家族への恩返しもあるが、個人的にも使える軍資金を確保したいのだ。
その軍資金の使い道とはもちろん食文化改革第2弾、新しい調味料&スパイスの確保である。
パンから推察するに発酵食品自体が乏しいと思われ、味噌及びその過程で得られる醤油などはほぼ絶望的で、ならばせめてダシを取れる海産物として鰹節の類産物、昆布あたりがないかと目論んでいる。
なぜ海産物かというと塩が比較的安価で取引されているからである。
直接海に接してるわけではないがそう険しくない山を越えたところに港町があり、豊富な穀物とで安定した物々交換がなりたってるらしい。
スパイスに関してはそれほど大きな期待はしていない、あったら儲けもの程度に考えているが理想は胡椒の確保になるだろう。
そんなことを考えながらも、こねあがった生地はどんどん成形されていき2次発酵を経て香ばしく焼きあがっていく、その大量のパンを眺めながらポツリと二人が呟く、
「さすがにちょっと作りすぎじゃないかい?」
「そうだねぇ、この量は食べきれないねぇ」
「いいのいいの、これは私たちが食べる分のパンじゃないから」
と、私が作業の手を休めず答えるとしばし考えたあとルビスが不思議そうに
「じゃぁこのパンどうするの?」
「明日は街に行く日でしょう?その時に売ろうと思って、あ、もちろん私も街に連れて行ってもらって一緒に売るからね」
と答えると慌ててルビスとセリスが反対してくるので街でパンを売るのに何か許可がいるのだろうかと思い聞いてみるも、どうやら反対されているのは私が街に出ることのようだった。
何でダメなんだろうと聞いてみるも、どうも理由がはっきりしない。
私とルビスで何で?どうしてもと!と押し問答が続くも理由が分からないので納得もできずにいると、しばし考えこんでいたセリスがちょっと待ってなさいと言い奥のほうへ何かを取りに行った。
多少ムキになり言い争ったことで気まずい空気になり黙々と作業を続けていると、戻ってきたセリスから1枚の服を渡され着てみなさいと促される。
それは深いフードの付いたローブのような服で、フードを被るとスッポリと顔の中ほどまで隠れるほどだった。
「ミユキ、あんたの容姿はここらじゃ目立つんだよ。街に出ると何が起きるか分からないからね、それを着てお行き。あと絶対に一人にならないこと!必ずルビスと一緒に行動すること!いいね?」
「まぁ、いつまでも家に閉じこもってるのも可哀想だしね・・・・。いい子にしてるなら連れて行ってあげるよ」
そこまで言われてやっとここでは特異な容姿に映る自分に気づき、ムキになっていた自分が恥ずかしくなり思わず俯いてしまう。
「ごめんなさい、ありがとう。いい子にしてるから連れて行って」
気恥ずかしさにボソボソと小さな声で謝罪とお礼を言うと、セリスに抱きつかれ頬をスリスリとされルビスには頭をグリグリと撫でられた。
その後慌ててオーブンを開けるも、焦げすぎたパンは翌朝の馬と鳥達のエサになった・・・・。




