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6.カワイイじゃないか・・・

ギシッ、ギシッと微かに軋ませながら馴れた階段を降りていく。


その後ろをペタペタと足音をさせながらミユキと名のった少女がついてくる。

今更ながらに少女が素足であることに思い至り室内とはいえ冬の寒さにさぞや寒かろうと、チクリと心に棘が刺さるが部屋に戻るよりも降りたほうが早いし暖かいと判断し罪悪感を抱えつつも歩を進めた。


歩きつつも先ほどのミユキの言動を振り返る。

ルビスが朝の収穫をし馬車に積み終え、街に行く前に自室に寝かしている少女の様子を見ようと部屋に戻ると、くだんの少女はベットの上で上体を起こし虚空を見つめていた。


少女、ミユキの姿を見た瞬間なぜかルビスは扉の影に隠れてしまった。

なんで隠れてるんだアタシ!?と狼狽しつつも視線はミユキから離せなかった。


意識が戻り動いた為か寝ているときより薄っすらと頬にも血色けっしょくが戻り唇も紅を引いたように色づいている。

その唇の色が一層肌の白さを際立たせ覗き見している後ろめたさもありルビスの鼓動はドキドキと早くなっていった。


「よし!」


と掛け声と共に大きくうなずき両手で握りこぶしを作るミユキの髪がサラリと揺れる。

それは光を吸い込むかの様な深い深い夜の色。


ミユキを連れ帰り母と二人で小麦粉の汚れを洗い落としてその漆黒の髪を見たとき思わず息を呑んだ。

今まで生きてきた中で黒い髪など見たことも聞いたことも無い、それは母も同じだったらしく二人で顔を見合わせたものの、汚れを落とし終えたミユキは夜が抱かせる負のイメージとは真逆の神秘的なものすら感じさせるものだった。

背の中ほどまであるその髪は重さを感じさせない細さでサラサラと流れる。

白い肌と黒い髪、少女になったばかりの体に細い手足、微妙なバランスで成り立つその姿は絹糸でできた人形のようにも思え、思わずその胸を見て規則正しく上下するのを確認してホッとしたりした。


「うひひ、冷たい冷たい」


聞こえてきた声にハッとなり意識を戻す。

それからの光景は奇妙としか言えなかった。


冷たいと言っては喜び、立ったり歩いたりで感動し、走ったり飛び上がったり、寝転がって腕で体を上下に動かしたり、キャーキャーと転げまわってはしゃぎ回っている。

何をやっているんだ?

何の意味があるんだ?

何であんなにカワイイんだ!?


「心配してたけどそれだけ動き回れるなら平気そうだね」


気づくとルビスは扉の影から出て斜に構えながら声をかけていた。

ビクリと体を震わせ怯えたようにこちらを振り向く姿に、もっと近くで見たいと自然と歩み寄っていた。

目の前に立つと改めてその小ささに驚くが、私を見つめるその顔にドキリとする。


小さな顔に大きな瞳、夜空のような漆黒の瞳には無数の星のようにキラキラと光が宿り薄く開かれた唇に誘われるように無意識に手を伸ばすが、ビクリと強張る動きに我に返り自重気味に頬を掻いた。


不用意な行動を隠すように振った会話に、まるで貴族のような返答を返され困惑し、まさかどこぞの貴族のご令嬢かと内心冷や冷やしながらも名のりあい、その後更に深々と頭を下げられ貴族が私等庶民に頭を下げるわけがないと・・・・そうさ・・・・あいつらがそんな殊勝な態度を取るもんか!


「あの・・・・?」


思い出された怒りにギリッと奥歯を噛み締めていると、不意に後ろから声をかけられ我に返ると目の前には扉があった。


「どうかしましたか?」


心配げに見つめられ自分が扉の前で突っ立っていたことに気づき慌てて扉を開けながら、


「あ・・・あぁ、すまないね、ちょっと考え事をしてただけさ。

寒かっただろう? 早く中で暖まりな。


かぁさん、ミユキが・・・例の娘が起きたからスープ温めておくれよ」


誤魔化すように一気に話しミユキが室内に入ると、それまで交わされていた会話は止まりシン・・・と室内は静まりかえった。


テーブルには父と兄が毟り取ったパンを口に入れる途中のまったく同じ姿勢でミユキを見つめて固まり、母は千切った野菜をのせた皿を持ったままミユキを見つめていたが数瞬の後にはタンッと勢い良く皿をテーブルに置くと、まぁまぁまぁと言いながらそそくさとミユキに近寄っていった。


「いきなり起き上がってだいじょぶなのかい? 顔色は悪くなさそうだけど、どっか痛いとことかないかい?


・・・って、こんなに冷たくなって! 足も素足じゃないか!


ルビス! あんたなにやってんのさ!」


いきなり向けられた怒りに困惑しながらも、さっき刺さった棘もあり言い返せないでいるといつの間にか当然のようにミユキをハグしている母に半ば呆れるも、当のミユキが嬉しそうに微笑んでいるのでちょっとムッとしつつもやはり言い返せない。

チラッと視線を移し父を見れば、その顔は近所の爺さまが孫を見る顔に良く似たデレっとしたもので、隣の兄は耳まで真っ赤にしている。

いい加減その格好疲れないか?二人とも・・・と思いつつ、更に頬グリグリも加わった母と変わらず嬉しそうなミユキを見て一人思う。



なんというか、恐るべしミユキ・・・・。

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