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44.精霊のパン

前話より若干時間を遡ります。




|_ =)イロイロゴメンナサイ・・・

青い空から降り注ぐ柔らかな日差しを浴びながら、多くの者が思い思いに過ごす広場には、最近になって控えめにだがアーチ状に水を噴出し始めた噴水が鎮座している。


噴水を中心に放射状に広がる広場には、馬車や簡易の台などを使った露店が道行く人々の関心を引いていたが、中でもとりわけ1つの露店が賑わっていた。


さして大きくもない露店には、不釣合いな程に多くの客が詰め寄っていたが馴れたものなのか、したる混乱も無く次々に客が商品を購入しては離れていく。そんな光景を噴水の淵に腰掛けながら、1人の男が見つめていた。


目元が隠れる位まで伸ばされた前髪は、少々野暮ったい感じにも写るが、男が内包するモノを覆い隠すのに丁度いいためか、不思議と似合っていたりする。

少々キザったらしく片膝を立てて、不敵に口元は笑っているセテルの右手にはバナナクレープが握られていて少々残念な感じになっているのは本人は気づいていない。


早馬でもって本隊より先行してこの街に来たのが10日程前、到着したのが既に夕暮れが近かった為に同伴した捜索隊の1人と共に、その日はそのまま本隊の受け入れの為の準備で町長の下を尋ねたりした。

それが失敗だった。


翌日、子飼いの情報屋を呼び出し幾つかの情報を仕入れれば、ちょうど俺の到着する前日に数人の者が黒髪の少女を目撃していたという。その情報にほくそ笑んだものの、その後の調査においてその日の内にチャオ共数人と港町ココロギに向かって街を出ていたということに行き当たった。


其処まで掴んだのがその日の夕刻、既に街から出て丸2日が経っていた。完全に出遅れていた、既に目当ての人物は船上の人だろう。


これが到着した日に情報屋と接触し、その日の内に情報屋達を動かしていればまだ翌日にはココロギに向かえたかもしれず、足の遅いチャオ共の馬車に追いつける可能性もあったが船に乗られてしまえばどうしようもない。

いくつかあるチャオの里に入られてしまえば手の出しようが無く、そもそも何処の里に向かったかさえ現状では調べようがない。


こういうとき一族の結束が固いチャオは手強い、いくら情報屋を飼っていてもそもそも情報が漏れてこないのだ。


「ふん、まぁしょうがない、気長に待つさ」


まるでコチラの行動を見越したような対応に苦虫を噛んだような顔を浮かべるが、それも一瞬でアッサリとこの街で待つと今後の対応を決めていたセテルであった。

なにしろこの街には黒髪の弱点に(・・・)なりそうな者達(・・・・・・・)がいるからな・・・。


もっとも、既にこの街に探し人は居ないということを例によって捜索隊には教えない事で、今もせかせかと探し回る姿を見てちゃっかりと憂さを晴らしていたりもするのだが・・・・。





たった1つの出来事でこうまで環境が変わるものかと最近よく考える。

いつも何処かで感じていた蔑むような視線、住み慣れた故郷であるはずなのにどこか居心地の悪かった街。ずっと変えたいと思ってきた、一生懸命働いたしそれは他の仲間も思ってきたことだし皆真面目にやってきた。

それでも長年変えられない事に皆疲れてきていた。孤児院の経済状態も少しずつ悪化していてそれが更にどうしようもない袋小路のようで、年端も行かない子供達にすら不安の影がチラついていた。


そんな時に彼女は現れた。

毎日が忙しい、皆毎晩のようにぐったりと疲れ果てて寝床へと倒れこむ。それでも、ふとした事で夜中に目が覚めて隣で寝る仲間を見ればその寝顔には幸せそうな笑みが浮かんでいる。

今もまだ遊びたい盛りであろうに人手が足りない為、年中組みから2人程女の子が売り子として応援に来ているが、その娘達も含め皆嬉しそうに汗を流している。その周囲にはオマセな年少組の少女が売り子の真似事などしてキャッキャとはしゃいでいる。


その姿を見てキラキラと素晴らしい笑顔を向けるのは孤児院の大人メンバーの1人であるファイネだった。


素晴らしい素晴らしいよミユキちゃん、見て見てこの娘達の笑顔、やっぱり可愛い子は笑顔でなくちゃね!惜しむらくはミユキちゃんを最近見かけないことかな、どうしちゃったんだろう・・・。

元々体が弱いって言ってたからおねぇさん心配だなぁ今度会った時には会えなかった分もいっぱいハグしちゃおういいよねそれくらいいいよね流れ的にそれ以上進んでしまう可能性もあるけどしょうがないよねむしろ願ったり叶ったりというか狙ってるというかそもそも最初から決めてたというk(以後割愛


ウヘウヘと怪しい手つきで笑うファイネの周囲に微妙な空間ができつつも、概ね平和な空気であったのだが不意に訪れた招かれざる客に、辺りは一瞬で騒然となる。


突然響いた幼子の悲鳴と一瞬送れて聞こえた少女の悲鳴に、ハッと正気に戻ったファイネが見たのは年少組の少女のオサゲ髪を掴み上げ、半ばぶら下げるようにして引きずる貴族の兵士の姿だった。


それを見てサッと血の気が引いたファイネだったが、次の瞬間には反射的に少女へと駆け寄っていた。


「なにをしてるんですか!その子を離してください」


駆け寄り痛がる少女へと手を差し出したファイネだったか、少女へと触れる瞬間いきなり視界が暗転した。

それは一瞬のことだったが気が付けばファイネは地面に転がっていた、そして襲ってくる頬の灼熱感にやっと自分が殴られたのだと気が付いた。


「五月蠅い、貴様達が黒髪の少女を知っている事はわかっているのだ!大人しく居場所を吐かぬか!」


背後に数人の兵士を引き連れた、お世辞にも好ましいとは言えない顔をした男が喚き散らす。身につけた防具だけは他の兵士より上等そうで、それだけが男が貴族階級者なのだろうと窺える要因のような男である。

イラただしげに騒ぐ男に離れた所にいたルイが慌てた様子で駆け寄ってくると


「お願いします、まずはその子を離して下さい。それにその件については何度もお話したとおり、私達は存じ上げないと説明したはずですし、責任者の方にもご納得いただいたはずです。」


「黙れ!他の者は騙せてもワタクシの目を欺く事はできんぞ!

どれだけ探そうと娘の居所はわからぬ、そして出てくる情報は怪しいローブの人物のみ。

お前達がそのローブの者と接触していたのは分かっているのだ!大人しく吐くがよい!!」


さもなくば・・・・、そう言うと口元に嫌らしげな笑みを浮かべながら腰から剣を抜き放った。

ゴテゴテと装飾過多な凡そ実戦向きな剣ではないが、それでもその隣でオサゲを掴まれている少女に向けられればファイネを含む周囲の者は息を飲んで黙るか悲壮な声をあげるしかない。


人質を捕られてはファイネもルイもどうすることもできない。ルイからの説明でミユキが黒髪の少女ではないかと薄々は感付いてはいたファイネだったが、例えそうだとしてもファイネや仲間達にミユキを売るような選択肢なぞ選べるはずが無かった。

だって既に彼女は私達の『仲間』なのだから。


そんなどうすることもできない状況に煮詰まっていると、何の前触れも無くフワリと白い光が舞い込んだ。


ニヤニヤとする貴族の前に突如として現れた一人の女性、純白のドレスに身を包み光に形を与えたかのようなプラチナブロンドの髪をその背に流し優雅に佇むその姿に、ファイネ達のみならず貴族や兵士達ですら息を飲む。


呆けたように佇む貴族の前に進むとスッと手を差し伸ばし、緩んでいたその手からオサゲの少女をスルリと解放すると愛おし気にその豊満な胸へと抱く。

そのまま泣きじゃくる少女をあやす様に優しく頭を撫でる。


「よしよし、もう大丈夫よ」


「えーん、コノハおねぇちゃんこわかったよぉ」


と、そのまま2人で場違いな雰囲気を作りながらスタスタと歩いて行く後姿を見ていた貴族であったが、ハッと我に返ると


「だ、誰だ貴様!なんの許しがあってワタクシの邪魔立てをするか、即刻その娘をこちらに戻せ!」


キャンキャンと騒ぐ貴族に鬱陶し毛に振り向きながら


「煩いよ、人間が定めただけのたかが貴族の分際で。

私が守護する可愛い子に手を出しやがって、殺されないだけ感謝しなさい。」


お母様が嫌がるから殺さないだけでホントだったら粉にしてやるのに、等と物騒な事まで呟きながらスタスタと歩き去る。


「ぶぶ、無礼者がぁ!きゃつ(ヤツ)を取り押さえろ、ここにひざまずかせろ!」


ことの成り行きを呆然と見送っていた取り巻きの兵士だったが、口角泡飛ばす貴族の言葉に動き出す。


「・・・・・相手しなさい」


ウンザリと女が一声漏らすと、信じられない光景が広がっていった。

露店に並べられたパンが次々に光り出すと、その光からポンッと小さな人間が生まれだした。人の頭程の小人達は二十人以上いるだろうか、ニコニコとしながら一列に並ぶと元気に


『あっそびましょ~♪』


そういうと一気に兵士達へと殺到した。キャッキャとはしゃぎながらヒップアタック、ドロップキックが炸裂する。兵士達は小人達に圧倒され逃げ惑い、貴族に至っては頭上から降ってきた小人に慄いたところを下から股間を蹴り上げられ悶絶していた。


回りで呆然とその光景を見ていた群集の中で男達がなぜか股間を抑えながら見守る中、兵士達が這々の体(ほうほうのてい)で逃げ出していく。その際、兵士数人に足を持って後頭部をザリザリとしながら引き摺られていく貴族が哀愁を漂わせていたのは、後日談でちょっとした笑いを誘っていた。




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