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43.間幕

噴水の周りには多くの人々が集まり、手には様々な『ふぁーすとふーど』を持ち寄り楽しいひと時を過ごしている。


急激に増えた観光客に街の飲食店と宿屋は嬉しい悲鳴をあげている。

ミユキが考案した料理は商人達によって近隣の街や村々に伝わり、物珍しさと実際に食べた時の衝撃度によって瞬く間に評判となり、薬草料理を伝授された料理人達は競うようにオリジナルのレシピを考え出し、数多くの新しいメニューが生み出されていた。

中には評判の悪い物もあったがそういう物はあっという間に淘汰され、ミユキの手を離れた後も着実に街は賑わっていっていた。


そう、もう全てはミユキの手を離れて順調に動き出していた。


孤児院のパンも順調に売り上げて近々出店も視野に入れているらしいし、フィーリスの街の『びーきゅうグルメ』企画も既に組合で組織だって運営されている。


多くの人を巻き込み孤児院を再建し街の観光化を進めたミユキという存在など最初から居なかったかのように・・・・。


フィールランド家の家族の心に大きな影だけを残し、ミユキは消えてしまった。

たった一通の手紙だけを残して。


露店を広げた場所の横で、声を張り上げて客に売り込むこともなくただ御座の上で座り込み、静かにジッと地面を見つめている女性がいた。


「相変わらずシケタツラしてるな、売る気がねぇなら店ぇ閉めて帰えんな。

こっちにまで客が寄り付きゃしねぇ」


ズングリとした体型の初老の男性が、伸びた顎鬚を摩りながらノシノシと近寄りながら声をかけたきたが、御座の上の女性はチラリと視線をやるだけでまたジッと地面を見据えていた。


「ふ~やれやれ、嫌味を言われても反論する気力さえ無くなっちまったか・・・・」


まいったという顔でボリボリと薄くなった頭を掻くキトン


「嬢ちゃんがいなくなってそろそろ一ヶ月か・・・。一体何処にいっちまったんだろうなぁ?」


「・・・・・・」


キトンの言葉にピクリと肩を振るわせた女性、ルビスは痛みを耐えるかのようにその顔を顰めながら消え入るような声で弱々しい言葉を発した。


「ミユキは・・・・帰ってくる・・・・だってアタシらは家族・・・・なんだ」


「そうだな、嬢ちゃんはきっと帰ってくる」


そっと気遣うようにキトンはルビスの肩にその節くれだった手を乗せる。




その手からは嗚咽を我慢する微かな震えが伝わってくるのだった。





厩舎へと荒い息を上げる馬を誘導していく。


その馬体からは白い湯気さえ立ち昇り、少しずつ暖かくはなり始めたが、まだ春には遠いことを思い起こさせる。


水を汲みに厩舎を出たところで不意に声をかけられる。


「セリオス、街の様子はどうだった?」


「とうさん・・・・かあさん・・・・」


フィールランド家の裏に隣接する厩舎のところに、馬の足音を聞きつけた両親がそろって息子であるセリオスを出迎えていた。


「駐留していた奴等も、もう此処には居ないと見切りをつけて近日中には引き払うそうだよ」


「そうか・・・・」


「じゃぁミユキはこれで帰ってこれるようになるのね」


「僕達には奴等がミユキを追う理由もわからない、ミユキが居なくなった理由は・・・・わからなくはないけど、奴等が此処を離れたからといって早々にミユキが戻ってくるとは・・・・」


「あの子はさとい子だ、私達の安全が保証されるまでは戻ってはこないだろう」


「・・・・・・そう、そうね」


王の名の下に貴族が街に大規模な出兵をしてきたのは一ヶ月ほど前。


数十人に及ぶその集団はたった一人の人物を探す為だけに、ここフィーリスにやってきていた。

本体が到着する2日前にはその陣頭指揮を執る貴族が到着していたらしいが、更にその1日前にはミユキはたった一通の手紙だけを残しフィーリスから消えていた。


当初フィールランド家の面々は、何故ミユキが自らの意志で自分達の元を離れたのかが理解できず、手紙を届けに来たチャオを酷く問い詰め、彼が去った後には彼等チャオがミユキを無理やりにでも連れ去ったのではないかとすら考え始めていたが、翌日に街にやってきたという貴族が探している人物像がミユキにピタリと当てはまることで一つの考えに辿り着いていた。


ミユキは私達を貴族達から守る為に此処を離れたのだ・・・・と。


悲しかった、守るべき存在に逆に守られるしかない自分達。

彼女を守る為なら、たとえこの身がどうなろうとも守り抜いてみせるのに。

出合って間もない愛しい娘。出会って間もない可愛い妹。

大切な家族。


だからこそ理解できてしまった、ミユキにとっても私達は守るべき大切な家族だったのだと。


「さぁ!あんた達、さっさと残りの畑仕事を済ませてきちまいな」


「「え・・・」」


「アタシらがメソメソしてたらミユキが安心して戻ってこれなくなっちまうだろ!

できることをやる、アタシらにできることはミユキが安心して戻ってこられるように此処を守る事さ。


さぁさぁ、とっとと済ませてきな」


「・・・・そうだな、いくぞセリオス」


「了解、いってきます」






「だいじょうぶか?ルビス」


プルプルと震えが大きくなるルビスの身体に不安を覚えたキトンが覗き込むと、ガバッと勢いよくルビスは立ち上がり


「あーーーーー!こんなのアタシらしくない、ミユキは大丈夫、アタシがダメでどうする!」


パンッと両手で自らの頬を叩くと


「はい、そこのねぇさんウチの野菜は新鮮だよ。コレなんか今朝採ってきたばかりさ、いい色に熟してて美味そうだろう。」


さっきまでの傷心振りが嘘のように威勢よく大声をあげ始めた。

ポカンと呆気に取られていたキトンだったが、やおら笑い出すとそれでこそルビスだと満足気に頷いた。


「嬢ちゃん、安心して戻ってきな。ちゃんと此処に戻ってくる場所があんだからよ・・・・」


青く澄み渡った空を見上げながら呟いたその言葉は、広場に響くルビスの声に掻き消されながら静かに空へと溶けていった。







その空の色は彼女がここに降ってきた日の空の色に良く似た色だった。








_ -) 言い訳ですが色々あったんです。

    呆れるほど間が空いてしまいましたがすこーしずつ再開

    できたらいいなぁ・・・・。

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