40.歩き出す先
諸事情により長く更新が滞ったことをお詫びいたします。
更にまだ以前のような更新は出来ない状態にあります。
出来る限り更新していきたいとは思っています、申し訳ありません。
各種様々な薬草の匂いが立ち込める部屋で円卓を囲んだ4人のチャオ達が、それぞれ眉間に皺をよせ何度も繰り返し半ばうんざりとしながらも、それでもやはり話し合わなければいられない話題を進めていた。
「一体いつになったらあの方は我等と共に街を出られるのだ!
今こうしている時でも黒達が攻めて来るかもしれないのだぞ!」
「王都から派遣された捜索隊は未だザッカスの街に留まり捜索活動をしているとのことです。
今すぐに・・・・ということはまず無いでしょう」
「それにしても・・・・時間が無い事はお伝えしたはずでしょう?
なのに準備をするどころか、街を歩き回りパン騒動に続いてまた街中を巻き込んで何やら始めたそうではないですか」
「そうだ、俺達があれほどご忠告したのにまたあんなに目立つ行動をお取りになって・・・。
奴等に此処に居ますと伝えてるようなものだ!」
「それは・・・・しかし、ミユキさんは聡明なお方です。ちゃんとあの方也の考えがあっての行動だと私は信じています」
むぅぅぅと3者が唸っていると、それまで黙っていた4人目が1つ息をついた後、
「報告書を見る限りミユキ殿とフィールランド家の繋がりは我等が当初思っていたよりも遥かに強い絆になっているのだろう、そのことがミユキ殿の判断を鈍らせているように思うのだが・・・」
「はい、そうかもしれません。しかし逆にだからこそ家族を貴族達から守る為にこの街を出る事に頷かれたのでしょう」
「ご降臨なさってまだ2月も経っておられないだろうに、それだけの期間でそこまでの関係を築けるものなのか?」
「その点は私も驚いていましたが、ミユキさんとルビスさんの間柄はまるで昔から一緒にいた者のようで、本当の姉妹のようでした」
他のご家族との関係も押して然るべきでしょう・・・・と彼等の不思議な、それでいて羨ましいような絆を思い自然と笑みを浮かべていると、皆も何か感じ入る所があるのか眉間の皺を緩めていた。
それを見てこの街に住み着き一族の中で一番長く彼女を見てきたチャオは、ふとある事に気がついた。
確かに彼女は聖守護者サンタクロースとしてこの世界に降臨し、その力で世界に流れる運命を操り『幸運』を導くだろう。しかし、彼女はまだ『力』に目覚めたばかりで恐らく1度としてその『力』を行使してはいないのだろう。
だが既に、彼女の周りは幸せにあふれている。
フィールランド家に保護されたことはミユキにとっての幸運であるが、ミユキを迎えたことでフィールランド家には幸せが満ちている。ミユキが考案した料理やパンがもたらす利益という財政的な物だけではなく、元々欠けていた場所にカチリと収まるように自然とミユキは溶け込みそれだけで家族の中に温かい幸せが生まれてきている。
そしてミユキが街に来たことで騒動もあったが、住民には酵母パンという新しい物が普及しそれに携わったことで孤児院と住民との距離が縮まり、孤児院にいたっては廃院の危機まで乗り越えてしまっている。
そして今も自分の足で歩き回り多くの人達と語り合って知識を分け与え助言をし、より多くの存在に変化をもたらしている。
あぁ、そうか・・・・私が、ルビス達がこんなにも彼女に惹かれるのはそういうことかと、1人納得しクスクスと笑っていると他のチャオ達が訝しげに眺めていた。
モヤモヤと長く頭に張り付いていた疑問が晴れたことで上機嫌なチャオはそんな視線も気にせず、円卓の上の皿に残る自分の分のクレープに手を伸ばしパクリと食いついた。
3種類のクレープを人数分買って来ていたが既に各々残り1個になっており、それを見た他のチャオ達も無くなっては大変と慌てて手に取って食べ初めていた。
そして彼等は気づいていなかった、ここ数日ミユキの考案料理の試食をし更に食堂でもそれらの料理を食べ歩いていた自分達が、未知なる味覚の欲望に負け暴飲暴食の果てにプックリとしてきていることを。
「さてと、それじゃ私はチャオ達の所へ行ってくるよ」
そう言いつつ長く座っていた事で固まった体を伸ばしながらミユキは立ち上がった。
このままルビスとの取り留めの無い会話を続けてもいたかったが、広場の入り口から此方へ歩いてくる見知った人影に気付いたので区切りを付けて出歩く事にしたのだ。
「ん、じゃぁアタシも一緒に行こうか?」
「何度も通った道なんだし1人で大丈夫だって、それに毎回早くに露店を閉めてたら馴染みのお客さん来なくなっちゃうよ?」
「うっ・・・・、それもそうだね。わかった一人で行ってきな、ただし気をつけて行くんだよ!」
過保護なんだからと呆れつつも、ちょうど背後に聞こえてきた足音に
「はぁ~い、じゃぁそういうこで、後のことは頼みますねマイセルさん♪」
「ん?どういうことかはわからないけどルビスの事は任されるよ」
さり気無くルビスの視界から歩いて来るマイセルさんを隠して立っていたミユキの影から、ヒョッコリと顔を出して自然に会話に加わってくる。
クリクリとした柔らかそうな癖っ毛に少し下がり気味な目が合わさり、ジャニーズ系な顔立ちが笑顔を浮かべればルビスの顔は一気に真っ赤になりそれを見たマイセルさんはクスクスと更に笑顔を強くする。
この2人、この前のプチデートの時に何か進展があったらしくパンに託けて孤児院に会いに行ったり、こうしてマイセルさんの方が露店まで会いに来たりしていた。
ルビスに何があったか尋ねてみてもシドロモドロと誤魔化されるので、孤児院に行った際マイセルさんが1人の時に捕まえて問いただすと、
「ルビスは体ばっかり大きくなっちゃってねぇ、男女間の事はからっきしだったからゆっくり待とうと思っていたんだけど、君が背中を押してくれたことで近づいて来てくれたからね・・・・・」
どうやら臆病なルビスが距離を作り、それをマイセルさんが両手を広げて待ち構えている所を私が後ろからルビスをズドンと押したらしい。
見事両想いだったらしいが若干策士的なマイセルさんの様子に、早まったか?と思っているとポンっと頭に手を置かれ
「心配しなくても大丈夫、僕は一途だからね」
何しろ10年待ったんだから、とニッコリ笑ってきた。
待ちすぎだろう!と心の中で突っ込みを入れつつも想いは本物とわかったので、ミユキはよろしくお願いしますと頭を下げたのだった。
「んじゃ邪魔者は退散いたしますね、帰る時間までには戻ってくるよ」
アワアワとするルビスとニコニコとするマイセルに手を振り、ミユキはチャオの家のある方へと歩き出していった。
その先に新たな出会いが待っていることをミユキはまだ気付いていなかった。




