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38.ミユキの在り方

立っていられない地震というものを初めて体験しました。

棚から物が崩れ落ちていくのを初めて見ました。

コンビニから食料品が消え、道には交通手段を奪われた人があふれていました。

それでもこうして家で拙い文章を書ける自分は全然マシな方なのでしょう。


1人でも多くの方が家族の元に無事に戻れる事をお祈りします。


夕闇が近づいてきた草原には草をむことを止め帰路に着く羊や牛達の影が長く伸び、山裾に隠れつつある太陽が空を赤に染め上げていた。


雲の端々が一日の終わりを惜しむように金色に輝くのをガタゴトと揺れる馬車の御者台で見上げながら、ミユキはチャオとの話しを思い返していた。

チャオに促されパートナーとして手渡された水晶を取り出してみるとその姿には大きな変化が現れていた、毎朝起きたときに見るのが日課になっており今朝も見た水晶には変化は無かったのだが、託された力に目覚めた為か3センチ程の大きさの透明な水晶に赤い色が淡く色付いていたその姿は一回りほど大きくなり燃える焔を内包するかのように真紅に染まっていた。


「おぉ、それぞまさしく世界に認められ力を得た証。

今この時より、我らチャオはミユキ殿を守護聖人として御身おんみを守り、その歩みが健やかなるようお仕えいたします」


チャオの長老はそう言うとミユキの前に平伏し、それに習い他の3人も平伏の礼を取ってミユキの前に臣下の誓いを立てていった。


「な、なにやってるんですか!やめてください、皆さん頭を上げて下さい」


「いえ、貴方様は世界に認められし守護聖人としてこの世界に降臨なさったお方、我らが伏して接するは当然の事」


「守護聖人ってなんですか!私はサンタクロースの代役で来ただけです」


「サンタクロースとは本来、世界の均衡を調節し正しき者には幸福を、悪しき者には罰を与える存在。

その言葉は世界の意思にも等しいお方です」


「そんな・・・・」


確かに元の世界でも日本ではクリスマスにプレゼントを配るイメージが強いが、世界各地にはそれと同時に悪しき者に罰を与えて回る伝承が多く伝わっている。幸福と罰を与える存在を別々の存在として双子という伝承もあったはずだ、そういえば私が感情を爆発させたとき、『彼』はもう1人の自分を生み出したと言っていなかったか?もしかしたらそのもう1人が双子という伝承になっているのかもしれない。


しかしそれはさて置きまずはこの状態をどうにかしないと、どんな理由があろうと断じて私は人に平伏をされる立場では無い、敬われるとか以前に私自身を見てくれてないようで我慢が出来ない。


「今すぐ平伏するのをやめてください!でないと私、チャオ族から逃亡・・しますよ。

それはもう力の限り、全力でもって逃げ回ります」


私の言葉にポカンと口を開けて長老を含む3人が呆気に取られていると、馴染みのチャオが長老達にミユキさんならホントにやりますよ、コチラが想像もしない方法で逃げ切りますよと


「本来ならこういう態度は許されないのですが、他ならぬ本人が拒絶してるのですから無理強いするのは逆に失礼に当たってしまいますよ」


そういうとスックと立ち上がりいつもと変わらぬ笑顔を浮けべながら


「そういうわけで、改めてよろしくお願いしますねミユキさん」


「はい、こちらこそお世話になります。

長老さん、私はチャオの皆さんを尊敬してるんですよ。貴方達の生き方はそれだけで私のお手本になります、どうか対等な立場で私に接してください」


守護聖人がどういうものか今はまだわからないがそれでも平伏などしないで欲しい。

だって平等な立場を望み見上げるでもなく見下すでもない同じ場所に立って共に笑い合える、その事を切に願う思いを叶えたからこそ私は認められたんだと思う。

世界に認められた自覚もないしそれがどういうことかもわからないけど、身近な人たちに認められたという思いが今の私を私らしくこうして立たせているんだと思うから・・・・


「私を認めてくださるなら、どうかミユキとい1人の存在として扱ってください」


ペコリと頭を下げお願いすると少しの沈黙の後、クスクスと忍び笑いが聞こえてきたと思ったら堪えきれなくなったのかチャオの全員が大笑いし出した事に今度はミユキが呆気にとられ、そんなに変な事言ったかしら・・・・とポカンとしていると


「いや失礼・・・・この者の報告通りの人で安心しました。

なるほど、そういう考えのミユキ殿だからこその守護聖人なのでしょうな。平等を願い自身すらもその枠の内に留まろうとする、強き力を得ても同じ高さで在ろうとする貴方の本質が選ばれた理由なのかもしれませんな」


「はぁ・・・・ありがとうございます?」


多分褒められてはいるんだろう、しかし未だにクスクスと漏れる笑いにどうしても素直に喜べないミユキなのであった。








ある種リズミカルに揺れる馬車の上から物思いに耽りながらボンヤリと空を見上げていると


「大丈夫かいミユキ?具合が悪いようなら一旦休憩するよ」


「え?あぁ・・・違う違う、ちょっと考え事してただけだから。

それにチャオも言ってたでしょ、倒れたのだって寝不足の所にパン作りでがんばった所為で貧血起こしただけだって」


「そうだけど・・・・・」


尚も心配そうに表情を曇らせるルビスに、心配させてしまって申し訳ないと思いつつもその優しさにチャオの別れ際の言葉が重く心に圧し掛かってくる。


『ミユキ殿が覚醒したことは黒の一族も既に感付いているはずです、出来るだけ早くに我々の里に来ていただきたい。

彼らからミユキ殿を守る為でもありますが初代チャオが残したサンタクロースの書も保管されております、これは守護聖人・・・・いやサンタクロースとしてこの世界に降臨した者以外は読むことは禁じらている書物ですので内容は存じ上げませんが、恐らくミユキ殿の今後に深く係わる物でしょう』


「大丈夫だって、パンもこれで一段落したし今日からはぐっすり眠れるから寝不足も解消されるって。

後はご飯食べてお風呂に入って寝るだけだから・・・・そうだ、ルビス一緒にお風呂入ろっか?」


背中流してあげるよ~と言うと何故か真っ赤になって


「いいいいや、疲れてるんだから一人でゆっくりお入りよ」


「照れなくたっていいのに・・・・・」


変なのとクスクス笑うとバツが悪そうにしながらも、それだけ言えるなら大丈夫そうだねと少し安心したように微笑みながら馬車を走らせていった。


嘘ついてごめんねルビス、本当は新しい悩みを抱えてしまっているの・・・・。


私を狙うという黒の一族、彼らは貴族に強い影響力を持っているらしく私の身を確保するためにその貴族達の権力を利用する可能性が高いこと、そしてその時にルビス達フィールランド家が抵抗した場合は家族の身にも危険が生じる可能性が高いこと。

そして・・・・・私の家族は私を守るためにきっと抵抗してしまう。


他愛も無い会話を交わしクスクスと笑い合いながら馬車は進み家に辿り着いた、暖かい家族と暖かいご飯、温かいお風呂と暖かいベットに包まれこの世界の一番大事な場所で私は幸せだった。



だから泣いてはいけない。




別れのときが近づいていたとしても。







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