35.交錯する意思(前編)
悩んだ末、力の説明の件を編集いたしました。
以前とは本質が変わっております。
チャオ族が身に付ける物の多くには呪術の触媒になる物が含まれている。そのもっとも顕著な物がチャオ族の印ともなっている肩から掛けられている朱色の紋様が描かれている布である。
そして今、倒れ行くミユキを見つめていたチャオがその布に触れながら呪術を行使しはじめた。
監視対象 覚醒確認 意識消失中
遠話と呼ばれる術式を行使し付近に待機している同族達に思念を飛ばしていく。遠話とは言っても短い単語を数回に別けて送るモールス信号に近いものだったが、その分通話距離は広く街ひとつ分は軽くカバーでき訓練されているチャオにはそれで十分であった。
黒一族未確認 監視続行
返される遠話に了解と返し意識をミユキに戻す。
「やっぱり貴方は目覚めてしまったんですね、できればそのままで・・・・」
一瞬だけ窺えた表情と共に溢された言葉だったが、最後まで紡がれる事なく次の瞬間にはその顔からは表情は消されていた。
途切れる事のない客を相手に声を張り上げているとキトンが駆け寄ってきてミユキが倒れたと聞かされ、慌てて御座の上に寝かされているミユキの元へ行くと頬を濡らし蒼い顔で意識を失っているその顔を見て心臓が止まりそうになった。
さっきまであんなに元気そうにしていたのに・・・・いや違う、本当は気付いていた。
今日のミユキは朝からどこか元気が無かった、それでも明るく振舞い孤児院に行ってからは「あちょー」だの「うにょー」だのいつもの変わった掛け声をあげながらパンを捏ねる姿に安心して、マイセルを伴ってキトンの跡目を継いだ息子の所へと金型を取りに行ったのだ。
マイセルと2人だけの時間に朝から緊張していたのだろう、ミユキの異変に気付きながらも舞い上がっていたアタシはそれを見逃した、その結果がこれだ。
「ミユキ、ミユキ。しっかりおし、ミユキ」
ただ名前を呼び濡れた頬を拭ってやる事しかできない自分が情けない、こんな時でさえローブのフードを取ってやる事すらできない自分は酷く無力だった。
ここはこの国の頂、王都テレスト。
その王城の一室に設けられた明り取りの窓も無い部屋、明かりも消され真の暗闇に閉ざされた部屋の中心に瞑想する者がいた。
微動だにする事無く瞑想は続けられていたが、やがて静かに俯いていた顔を上げると
「聖守護者様、無事覚醒されました。
これより始祖マツシタ様の予言に従い、これ以降は先読みの一族の名を返上し正式に黒の一族として行動を開始します」
「畏まりました」
声と共にひとつ小さな明かりが灯される。ユラユラと揺れる頼りない小さな蝋燭の明かりだったが、暗闇に馴れた目にはそれでも目を顰めるほどでパタンと閉まる扉の音を瞑目したまま見送りながら
「ふふ、俺の代で聖守護者様が降臨してくれるとは正しく天啓也。
必ずやチャオ共より先に我らがこの地にお迎えしましょうぞ」
グッと拳を握り締めながら語る男はようやく馴れた目をゆっくりと開いていく。蝋燭の明かりを宿すその瞳はこの世界には存在しない漆黒の夜の色をしていた。
微かな浮遊感と共に光に溶け込んでいた意識もその輪郭をハッキリとしたモノへと変えてゆく。
ここは何も無い空間
ゆっくりと目を開けてゆく
ただ白い景色が広がるだけの場所
そして目の前に居るであろう『彼』に合わせて視線を上げてゆく
「久しぶりですね、新しき紡ぎ手よ」
「色々と言いたい事も有りますが・・・・そうですね、まずはお久しぶりです」
ペコリと頭を下げお辞儀をした後『家族』譲りのニッコリとした良い笑顔を浮かべつつ、まずは貴方の言い分をお聞きしましょう、さぁどうぞ♪と促すと
「ず、随分と逞しくなりましたね。まぁ元々あの状態で3年以上も自我を維持した精神力を見込んで頼んだのですから、この結果も当然の事なのかもしれませんね。
では、あの時語らなかった事を語る事にしましょう」
そんな遣り取りを交わした後、静かに『彼』は語り始めた。
「私が貴方に託した力は『幸福にする力』ですがその本質は『運命に介入する力』でもあります。
世界に満ちる運を左右できる存在として私達はあり、この力の本質は望む望まずに係わらずに対象に大きな影響を与えてしまいます、ですから力を使うに値するかはその世界自身が決めるのです。貴方はあの世界に認められたのですよ」
「でも最初に『幸福にする力』は単体では意味を成さないって、『幸福になろうとする意思』と合わさり始めて『幸福』になると私は聞かされました、でも今の話しでは運命を操ってしまえば相手の意思に関係なく幸福を与える事だって・・・・」
「そうですね、しかし望まぬ幸福が果たして本当に幸福と呼べる物なのでしょうか?
望まぬ者に大金を授けてもそれは幸福とは呼べません、どんな理由であろうがその意思を示した者に授けてこそ初めてそれは幸福と成り得るのです」
でも・・・と尚も納得しきれない私に『彼』は優しく微笑みながら、いずれ貴方にも判る時がきますよ、それは運命の輪から外された私達に残されたたったひとつの『運命』なのですから・・・・と。
後書きを後日自分で読んでて情けなくなる言い分けっぷりでした。
猛省しています。
少しでもいい作品になるように今後も少しずつ改稿します。




