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33.彼女の物語

王都テレストを頂に6つの領地でなる弱小にして小さな国家フォンブリキア。

巨大山脈に守られ肥沃な大地と豊かな森を有し穀物庫を潤し、連なる山脈から豊富な鉱石を掘り出し優れた鍛冶職人により武器や道具を作り出し豊かな漁場でもある港から船で他国に輸出し国庫を潤している。


ブルガリーテ家の領地は王都テレストに対して南に位置している。

しかしフォンブリキアの国土は中心に巨大な『穴』が空いており王都に行くには大きく迂回して行かなければならなかった。

直線距離にすれば2日掛からないのだがこの世界には空を飛ぶ交通手段は存在しておらず、左右どちらかの領地を通らねばならずそうなると素通りする訳にもいかず結局はそこで1日足止めを食い、4日ほどの日程を有するのであった。

これが商人なら1日早い3日強で済むのだがそれでも王都から買出しに出るには割に合わないらしく、食料供給率だけで言えばフォンブリキア1番にもかかわらず国王からのレバント伯への評価はそう高い物ではなかった。


そんなレバント伯が王都より国王直々の書面で召喚されたのが今から15日前、よほどの失敗をしたかその逆か・・・・いや、あの現状維持しかできない小心者のレバントがそのどちらもするはずがない。

なにかが起こっているのかとは思ってはいたが、中々面白い事が起こっているようだ。


ここは領主レバント伯の執務室、そこに勝手に入り込み一人テーブルの上に置かれていた機密扱いの書類を読み耽っている男がいた。

少し長めの前髪をかき上げながら愉快そうにクックと笑いセテルはなおも読み進めていく。

一頻ひとしきり怒りをぶちまけ自身を落ち着かせてから執務室を訪れノックの返事を待つことも無く中に入れば、そこにはレバントの姿はなかった。

何処に行った?と考えてみれば先ほど夜食を用意していた事を思い出し食事専用の部屋かと思い至ったが、面倒臭せぇ此処で待ってればいいだろうと柔らかなソファーでくつろごうとすると、ふとテーブルの上の書類に目が止まり躊躇する事無く手に取って読み始めていた。


それは先読みの一族とも黒の一族とも呼ばれる者達が関わっている物だった。

チャオ族が民衆側の者とするならば黒の一族は貴族側の者と呼べるかもしれない、どちらも怪しげな呪術を使うがチャオ族が災厄を払うのに対して黒の一族は国益に関する予言を行なう者達であった。

その予言は数日後の事であったり数年後、数百年後の事と一貫性が無いが今回の予言は数百年後しかも数ある予言の中でも最古の物に関するものであり、黒の一族の悲願とされる予言が今まさに成就されようとしているというものだった。


「しかもその場所がブルガリーテ領内だというのか」


そしてそれを裏付けるかのように相対するチャオ族が数多くこの領内へと移動を始めているとの報告も上がっている、彼の一族にも今回の予言に良く似た伝承という物が伝わっているらしく既に水面下で両陣営の争奪戦が始まっているようだ。


「黒髪の聖守護者現れ その守護を与えし者の望みを叶えん 富を求めれば巨万の富を 権力を求めれば世界を 力を求めれば竜すら平伏ひれふすだろう・・・・か」


クックック馬鹿馬鹿しい、いい大人達がそんな大昔の予言に振り回されているとは・・・・。

竜すら平伏すだと?馬鹿な、アレをどうにかできる者がこの世に居る筈が無い。

過去に一度だけ竜を見たことがある、傭兵時代に戦場になった草原の近くの山に住み着いていたらしい竜が、騒ぐ人間に怒りその戦場に突如飛来し暴れまわったのだ。

上空で羽ばたくだけの突風で人間が吹き飛び、口から吐き出される灼熱の息で灰になり果て、振り回される尾に挽肉のようにされる。

あれをどうにかできるとしたら、それはもう神と呼べるのではないか・・・・。




ノックもされずに突如ガチャリと扉が開けられた。


「う、セ、セテルか・・・」


「無礼かとも思いましたが、お食事の場にお邪魔するのも無粋なのでこちらで待たせていただきました」


「あぁ、構わんよ」


階段を上がって来る足音を敏感に察し、悠々と書類を戻し何食わぬ顔で扉の横に控えてレバントを出迎えたセテルが恭しく出迎えると書類を盗み見られていたとも知らず、深く椅子に腰掛け大きく溜息をついた。


「お疲れのようですね、王都でなにかございましたか?」


「いや、わざわざ王に直々に呼ばれる程の件ではなかったよ。

我が領内に遠い国の貴賓者きひんしゃがはぐれて迷い込んだらしくその捜索をとの事だった、中々に珍しい外見らしくてな程無く見つかる事だろう」


「ほぉ珍しい外見とは?」


「うむ、黒い髪をした者だということだ」


「黒い髪・・・・それは珍しいですね、我々もその捜索に?」


「いや、王都から数人派遣されてくる手はずになっている、その者達に一任しようと思っておる」


ふん、小心者の考えそうな事だ。見つからない場合はその者達の所為、見つかった場合は自分が協力したお陰ということか。


「しかし全く人手を出さないという訳にもいかないのでは?」


「ん、ん~・・・・」


「よろしければ私がその者達と同伴して捜索に協力いたしましょう」


「お、おぉ、セテルそう言ってくれるか。

お前が出てくれるなら安泰だ、任せたぞ」


「御意」


恭しく頭を下げながらセテルの顔には満面の笑みが浮かんでいた。




馬鹿馬鹿しい話だ・・・・だが、退屈なこの城に居るよりは余程面白そうじゃないか。

それにもしそんな力が有るのだとしたら、俺にこそ相応しい。



そして新たな物語が紡がれ始めた。




パンでヒィヒィ言っていた物語がいきなり大きくなっちゃいました。

しかもサブタイトルに彼女とあるのに例の彼女出てないし・・・。

2視点がルビスからセテルに移ってきてしまった・・・ルビス好きだったのに。

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