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29.トラウマ

本日は抜けるような快晴也。


孤児院での交渉と説明を終えて意気揚々と家に帰り、セリスに問題も無く無事パンの生産に目処が立ちましたと報告し頭をナデナデされニヤケそうな顔を押し殺し、実はルビスに八つ当たりクローをされて頭が痛いのとの報告もし


「アンタはなにやってんだい!!」


「ぎえぇー!」


とセリスによる制裁クローをルビスにお見舞いしニヤリとした翌日。


家の裏手の広めのスペース、井戸と水桶や洗濯干し場、近くの山から取って来た木々を割って薪にしたりにも使っている場所にトルビス作の昆布干し用の柵が太陽に向かって斜めに立てかけられている。

本場では砂利を敷き詰めた上に長いまま干すのだが今回は適度な大きさに切ってから天日干しにしている。本当はあの超巨大昆布のまま干せれば圧巻の光景だったのだが洒落にならないので諦めました。


うんしょ、うんしょと柵に昆布を並べていると後ろからトルビスに呼ばれ


「何?おとぅさん」


「・・・・・コレ、ホントーに食べるのか?」


「今回はコレ自体は食べないよ、干した後に煮てダシをとるんだよ」


ダシ?と聞き返されスープみたいなもんだよと説明すると遠い目で昆布を眺めながら


「なぁミユキ、何事にも挑戦してみるのは良い事だとは思う。だがなコレは流石に挑戦するまでもなく結果が見えているんじゃないのか?」


コレ?と昆布を指差すと、うんソレと頷かれ


「真っ黒い草だぞ?そんな物から取った煮汁なんか真っ黒で使い物になんかならないだろう。

悪い事は言わん今からでも遅くないぞ止めとけ、な?」


あ~またか・・・・と半ば諦めたような呆れたような顔でトルビスを眺める。

実はパンやシチュー、アップルパイの他にも幾つか此方には無い物を作り出していた。バターもそうだがその他にもマヨネーズとケチャップそしてワインを利用してワインビネガー、大豆を蒸して藁に詰めた納豆・・・・は納豆菌が違ったのかちょっとモザイクなしには見れないモノに仕上がったので闇に葬ったが料理の基本になる調味料系を自作してきていた。

そしてそれらを順次食卓に並べてみているのだが、そこで私はあることに気がついていたのだ。


初めて食卓に並んだ料理はトルビスは絶対に一番最初には手をつけない!である。


普段は男らしく家族からの信頼も厚く何かあったときの最終的な決定を持っているトルビスであるが、ナゼか私が作り出す『未知なる料理』に対しては酷く臆病な反応を示している。なんかしたっけかな私?


「皆に食べさせる前にちゃんと味見をしてるんだから、酷いものができたら食卓に並べないからだいじょうぶだよ」


「そ、そうか・・・・?

ん~なら、まぁ・・・」


と渋々納得し、じゃぁ畑の仕事に戻るからと言い置きそれでもチラチラと此方を振り返りながら去っていくトルビスを眺めているといきなり横から声をかけられ


「あの人のアレも困ったもんだねぇ」


「うぉわ!」


と飛び退く私を意にも介さず、実はねと前置きしてセリスが説明を始めた。毎回気配無いんですけどおかぁさん・・・・。


「あの人のお父さん、まぁ死んだ爺様なんだけどね。色々と発明するのが好きな人でねぇ、何か発明するたびにあの人を実験台に使っては毎回失敗して何回か死にかけてるから未知なる物に対してトラウマができちゃっててねぇ」


10歳位の時には既にあのトラウマができあがってたよ・・・と呆れたように呟くセリスの言葉に、トルビスにそんな過去が!と同情しつつも新たに得た情報が私の好奇心を強く刺激してきた。


「へぇ~10歳位から知り合いだったんだね・・・・幼馴染同士で結婚したんだねぇ」


とそこまで呟きハッと頭を過ぎる予感に慌てて体を引くと、今の今まで私の頭が在った場所にセリスの手が伸ばされていた。


「なんで避けるの?」


「避けるよ普通!」


「いいから、こっちへきなさい」


と微笑まれた私が逃げたのは当然の行為であり、その後ギャーギャーと騒ぎながら追い駆けっこをしたあと勝手口からキッチンへと逃げ込んだ私を渋々諦め去っていった。

怖かった・・・・この世界に来て一番怖かったかも・・・と思っていると


「なにやってんのアンタ達は・・・・」


「エ、エヘヘ・・・家族のスキンシップ?」


と頭をポリポリしながら微笑むとセリスが諦めて去っていった原因達が呆気にとられて私を凝視していた。

現在ルビスによるパンの生地作製講座真っ最中のキッチンに飛び込んだのだから非難されてもしょうがない訳だが、命の危険を回避する為だったから致し方ないのだと、心の中で言い訳をしておいた。


「そ、それでどう上手くいってる?」


「ん、あぁまぁね、みんな力が有り余ってるような奴ばっかりだから張り切ってやってるよ」


ルビスにクイっと顎で促され、どれどれっと覗き込むと慌てて作業に戻った孤児院から来た受講生達がドッシンドッシンと生地を叩きつけ始めた。

既に最初に作っていた生地は焼成も済みオーブンから出されて横に置かれており、今作っている分で3回目なのだそうだがバテル事無く続けられている事に頼もしい事だと安堵し、焼き上がったパンも私達が作ったパンと遜色ない物に『合格』というと受講生達にもホッとした空気が生まれていた。


そしてここでナゼ私ではなくルビスが講師役をやっているかというと、体力的な物もあるが実は既にルビスの方がパン作りの腕は私よりも上なのだ。生地を叩きつける作業が気に入ったらしく進んでやっているうちに才能もあったのだろう、メキメキと腕を上げ明らかに私が捏ねたものより美味しいものができている。

好きは物の上手なれとはこの事かと納得して講師役を譲ったのだ、だって今日来ているメンバーは私が経理主任兼全体責任者に指名したルイに作成班で選抜されたケント、イトマ、ファイネ、そしてマイセルの総勢5名だったのだ。


そうマイセルさんが来てるのですよ、ルビスにいい格好させてやりたいしねぇ。




昨日は人が多くて紹介されそこなったけど、今日は逃がさないぜ!ウヘヘ




ミユキ・・・戻っといで。



お気に入りが50件超えてました。

最終的に50件行ったらいいなって目標だったのでびっくりです。

ありがとうございます。

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