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28.命名

元々ここは子供達の教室に使われている部屋らしく、小さいテーブルのような教卓がありそこから皆を見渡すと自分に突き刺さる沢山の視線に思わずウッと後ずさりそうになる。


目の前には子供用の小さい机と椅子に座る幼い子が興味深げにこちらを見つめる姿があり、その愛らしい姿に若干緊張を緩めつつもその隙間を埋めるように居並ぶ大人達と大きくなってきた子供達の視線に、コホンと咳払いしつつ


「え~皆様はじめまして、こんにちは。

私はフィールランド家の末子でミユキと申します、今回は院長先生からの依頼で当家が開発しましたパンの説明にまいりました」


此処へ来る前の事前の打ち合わせで今回の計画は私が提案したのではなく、あくまで院長先生が孤児院の窮状を打破するべく親しい間柄のフィールランド家に相談した結果もたらされたことである、ということにしてある。

だってやっぱりこんな小娘が提案してきたことだと知れれば不安にもなるだろうし、また1から皆に説明して説得するのは流石に骨が折れるしその過程でまた私の外見を晒すことにも成りかねないので、私から提案し院長先生に承諾してもらったのだ。

貴方の功績を私が全て奪ってしまうような結果になってしまいますが・・・と院長先生は恐縮していたが、私としては元々功績とも思っていないしこれ以上目立つ結果になるのは色々と遠慮願いたい立場でもあるので、どうぞどうぞと院長先生に功績という名の面倒事を押し付けてしまった。


これでこの世界では珍しい私の姿を見せる必要もなくなりホッと一息付けたのだ、だってこの先パン作りの教習の為に何度かは此処を訪れる必要があるしその度に珍獣を見るような目で見られるのも中々面倒なものがある、よかったよかったきっとルビス達もホッとして私を見つめていることだろう。


「え~では大まかな説明も済んだところでぇ、これからの皆さんにやっていただく作業分担について話したいと思いま~す♪」


特に問題も無く順調に進む事に緊張もほぐれ、多少言葉も明るくなってしまう。

あぁ、見て見て此処にきてやっと問題も無くスムーズに進展してるよ、きっとこれが済めばルビスとセリオスに頭をナデナデしてもらえることだろうと、チラリと2人の方を見やるとニッコリと笑顔を返されウヘヘと顔がほころぶ。


「パンの作業分担を大きく別けますと、『酵母担当』『生地作成、焼成担当』『販売、経理担当』の3つに別けられます。

『生地作成、焼成担当』以後は『作成班』と呼びますが文字通り実際にパンを作る人たちになります。

この作業は大変力の要る作業になりますので男性の方が大部分を占めますが、後々繊細な作業も生じますので何人かは女性の方も参加していただきます。

次に『販売、経理担当』の方達にはパンの販売とその売り上げの管理、そして毎日のパンの作製数の決定をしていただきます。

最初は広場での販売になりますが、追々店舗を構える可能性もありますし今のうちからしっかりとした経営管理の体制を構築しておいた方が後の混乱を防ぐ為にもいいと思います。そして今は作れば売れる状態にありますが人々にパンが行き渡たった後はしっかりと計画的に生産数を割り出し、古くなって売れなくなるパンを出さない必要がありますのでやはり今のうちから記録を付けていく必要があります」


とそこまで話すと皆ポカンとした顔をしている、難しかった・・・かな。


「最後に『酵母担当』ですが、これはこのパンの機密にもなる部分でありとても重要な仕事になりますので・・・・」


そこまで話して教卓から離れ目の前の小さな子達の目線に合わせてしゃがみこみ


「だから君達に酵母がちゃんと成長してるか見守ってもらいたいんだけど、いいかな?」


と聞くと自分達は蚊帳の外と思っていたのかキョトンとしていたが、ちゃんと自分達にも『やるべき事』が割り振られていると理解したのか


「うん、やる」


「あたしもやるー」


「ちゃんとみる~」


と目をキラキラさせて答えてくれたので、そっかじゃぁ任せちゃうねと言うと


「ちょ、ちょっと待ってください。子供達にそんな重要な仕事を任せるなんて、その酵母という物にもしなにかあったらどうなるんですか!?」


それまで院長先生の横で静かに聞いていたルイが慌てて言ってきたので


「酵母になにかあったら?

そうですねぇ・・・・・パンが作れなくなるかなぁ」


と顎に指を当て何気なく答えると、途端に大人達に動揺の波が起こりそんな重要な仕事を子供には任せられない反対だと騒ぎ出したので


「何も全てを子供達に任せるわけではないですよ、日中の間だけ遊びの合間に温度計を見てもらって基準値以外になっていたら大人に知らせてもらうだけですよ~」


との私の言葉にも、いいやダメだ大人が全てやるべきだと数人が言い始めた。

なんだよぉ、そもそもこの計画自体この小娘が立てたやつじゃんかぁと思いつつもそれは内緒だしなぁとウンザリしながら、次期サンタクロース候補としてはやっぱり子供達にも活躍してもらいたいしな・・・・と考えているとあることに閃き思わずほくそ笑みながら


「残念ながら酵母の管理には子供達の協力が必要不可欠なんです」


「な、なぜですか?」


とルイが不安げに聞いてくるので私は神妙な顔つきになり


「実は酵母というのは精霊の1種で、普段は眠っている状態なのですが発酵という技術でその眠りを解き精霊酵母の力を強くしてパンを作るときに力を貸してもらっているのです、そしてその眠りを解く時に酵母の近くに子供達の気配があると酵母達はそれに安心して安定して目覚めてくれるのです」


精霊という言葉に大人達はざわめき子供達はおぉ~と目をキラキラさせた。

その後それならしょうがないと大人達も納得し無事子供達の活躍の場は用意できた、そして私の行動によって今後このパンは精霊のパンと呼ばれるようになってしまうのだがそれはもうちょっと後の御話し。



まぁ今日はこれくらいにしといてやるかと、後日作製班の数人にフィールランド家に来てもらいパン作りの実習をすることを決めルンルンとスキップをしてルビス達の元へ戻っていくと、ニッコリと笑顔で迎えられアハハ~♪と上機嫌で抱きつこうとするとガッシと顔を掴まれ・・・・・・



「うっぎゃーーーーーー!!」


と私の悲鳴が部屋に木霊した。



なんで~???




ミユキの咄嗟の行動でパンが命名されてしまいました。


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