表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/45

25.交渉(後編)

やっとストーリーが進展しそうです。

亀の速度で進んでおります、気長に見守っていただけるとありがたいです。

院長室のテーブルの上に持ってきた布を敷きそこにパンを並べていく。

最初に作った丸いパン、バターロールとクロワッサン、そして偶然手に入れた型で作った四角い食パン。

全てを並べ終え院長の顔を覗き込むと、驚きに目を見張っているのを確認しつつ


「これらのパンのことをご存知ですか?」


「実際に見たのは初めてですが、最近変わったパンが流行っているというのは聞いた事があります。

なんでも大層美味しいそうですね」


「ありがとうございます、実はこのパンは私が考案したものです。

そして今現在は家族の協力の下にフィールランド家で作って販売しています」


その説明にこれを貴方がと呟いた後、パンと私を交互に見つめている。


「大変失礼な事をお聞きしますが、この孤児院の経営は苦しい状態なのではないでしょうか?

見たところ建物の状態も良くありませんし、子供達の栄養状態も万全とは思えません」


「ちょっと!ミユキ」


ルビスとセリオスが慌ててたしなめるが私はジッと院長先生を見つめ続けた、院長先生も目を細め私を見つめ返すがふぅっと深い溜息をつくと


「仰るとおりこの孤児院は財政難に瀕しています」


「院長先生!そんなことを良く知りもしない人に仰るなど・・・・」


ルイが慌てて嗜めるがスッと手をかざし隠してもしょうがないことですしと、それに貧しい事は恥ずべきことではありませんよと優しい笑顔で諭すとハイと返事をしもと居た場所に下がっていった。

そして私に向き直ると真剣な表情になり


「そんな事をお聞きになってどうするのでしょう?

まさかそのパンを今後私達にお恵み下さる・・・・とでも仰るのでしょうか?」


その言葉尻に含まれる微かな怒りに私の背中にツツっと冷や汗が流れる。

孤児院の経営難を指摘されたことに怒りを覚えているのではないだろう。きっと彼の怒りは私の言葉を子供達への蔑みと哀れみと取ったのだろう。

ここからが正念場だ・・・・以前のような判断ミスは許されない。


「いいえ、私は貴方達へパンを提供しにきたのではありません、最初に言った事ですが私は貴方達に助力をお願いしに来たのです」


「助力・・・と言いますと?」


その言葉に私は今までのことを掻い摘んで説明しだした。

この酵母パンを作り出し有頂天になった私は生産体制も整わないまま売りに出し、そして予想より遥かに早くパンに人気が出てその混乱を収めるために販売体制の期日を明言してしまったこと、フィールランド家だけではとても追いつかずこのままでは希望者にパンが行き渡らないこと


「元々この施設の人たちにパンの技術を伝えて生産を任せるつもりで試験的に販売して採算が得られるかを検証するだけのつもりだったのですが、私の判断ミスにより院長先生の承諾を得る前にこちらに頼らざる負えない状況にしてしまいました。

お願いします、パンの生産を手伝っていただけないでしょうか」


そこまで説明し深々と頭を下げお願いすると


「ちょっと待ってください、私達にこのパンの製法を伝えるというのですか?」


「はい、もちろんそれによって得られる収入は全てこの施設の運営費に充ててくださって結構ですし、今後施設から巣立っていく子供たちで希望する人は個人でパンの販売をすることも構いません」


私の説明に院長先生だけでなく後ろのルイもポカンと口を開けている。

その後パンの販売で得られる収入の説明をするとその利益率の高さに驚かれ、逆に不審がられてしまった。


「大変興味深いお話ですが・・・・お話しを聞く限りあまりにも貴方に利益が無さ過ぎる。

私達がそのパンを作りその利益を全て頂けるというならば、逆に貴方方のパンは今のようには売れなくなります、どう考えてもこの話は貴方にとって不利益としか思えない」


「元々パンで利益を得ようとは思っていませんでした、ただ私が食べたかったから・・・・家族に食べて貰いたかったから作っただけです。

ですが、作ってみてこのパンはこの施設にとって有益なのではと思い至り試験的に販売しただけなので最初から計画的には何ら私に不利益は生じません」


「そこです。なぜそこでこの孤児院の存在が貴方の中で生じたのですか?

貴方にとってこの孤児院の運営に関わる必要はなかったはずです」


蔑みや哀れみの感情を無くしては・・・と目で訴えられ、私は最後のカードを切ることにした。


スッとローブに手を掛けパサリとそのフードを下ろし隠していた顔と髪を曝け出した。


「ミユキ!」


「いいの、ごめんね。でも必要なことだから」


見たことも無い白い肌に黒い髪、その異様とも取れる外見に家族以外の息を呑む雰囲気が感じ取れるが、それら一切を無視し


「ご覧になっていただければ判るとおり、私は家族と血が繋がっておりません。もう2ヶ月近くになるのかなぁ、私はルビスにこの街の広場で拾われました。

もしあの時ルビスに拾われて優しく家族に迎え入れられなかったら、私はこの施設に来ていたかもしれません。

いいえ、この外見ですからもしかしたら此処まですら辿り着けなかったかもしれませんね」


そこまで話し下ろしていたフードを被りなおす。


「ですから私にとってもこの施設は無視できない存在なんです」




長い沈黙の後、そうですかと呟き


「辛い事を話させてしまいましたね・・・・申し訳ありませんでした」


「いいえ、今は幸せですし血の繋がりを気にする暇もないほど充実してますから」


そうですか、と先ほどとは違い笑顔で納得しわかりました、お手伝いいたしましょうと承諾が得られルビスとやったぁ!とはしゃいでいると、ふと思い当たることが浮かび


「院長先生、先ほど私には利益が無いと仰いましたがちゃんと利益はありますよ」


「ほう、どんな利益ですかな?」


「パンがみんなに行き渡るようになれば私は街の皆とおかぁさんに怒られなくて済みます!」


ニッコリと笑う私になるほど、それは確かに利益ですなと院長先生にも笑顔があふれた。




お気に入りが30件超えちゃってます。

恐悦至極で内心ドキドキしちゃってます。

少なくとも30人の方々が読んでくれていると言う事ですよね。

ありがとうございます、がんばります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ