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23.権力者

以前スパイスの名称を2種類明記してましたが混乱の元と判断したため

この話より統合させていただきました。

大通りから少し奥まった場所にあるチャオの家はとても静かで、普段は1人で薬草の調合や注文を受けた軟膏を作ったりして時間を過ごしている。

ミユキが持参した薬草料理も綺麗にチャオのお腹に収まり、新しく淹れなおしたお茶を啜りながら2人して縁側おばぁちゃんモードでまったりと寛いでいる。


「いやぁ、味も素晴らしいですが薬草の効能を消す事無く、しかも薬草の独特の風味さえも利用して料理に仕立てるとは・・・・・御見それいたしました」


「ん~、どちらかと言うと薬草の風味を使いたかった部分が多くて、効能とかはよく分かって使ってるわけじゃないんだけどね」


「以前からシナモンの香りは薬以外で使えないかとは思っていたのですが、このバターですか?これとの相性は素晴らしいですね、シナモンの独特の癖のある味とよく合っています」


「でしょう!バターも牛乳の成分を凝固させて作ってる物だから栄養価も高いし、色々な料理に応用が効くから大活躍してるよ」


などと取り留めの無い会話をして時間を過ごしていると、表の店舗部分の扉をコンコンとノックする音が微かに聞こえてきた。


お客さんかもしれないので見てきますねと席を立つチャオを見送り、お茶を啜りふへぇ~とだらけていると


「ミユキさんミユキさん!早くきてください」


「ど、どうしたの?」


慌てた様子のチャオに呼ばれ急いで店舗部分に顔を出すと、そこには大きな樽のような物を「よっこらしょ!」と床に置くセリオスが居た。


「ななななにこれ、どうしたの?」


「どうしたのって、ミユキが注文した物だろう

魚屋に行ったらこれで間違いないって渡されたぞ?」


「これが?」


セリオスに違うのか?と聞かれ慌てて樽に近づき中身を確認すると、なるほど・・・確かに注文した昆布だった。


ただしデカイ、デカ過ぎる!

私がスッポリと入れそうな樽にグルグルと巻かれた昆布がズドンと1本刺さっている。昆布の幅約1.5メートル長さは巻かれているのでよく分からないがそれでも数メートルはあるだろう、緑を帯びた綺麗な黒光りする昆布が一輪挿しよろしく樽に刺さって屹立する光景はなんとも感慨深く、まさか昆布の雄姿を見て「あぁここはやっぱり異世界なのね」と改めて認識するとは思いもしなかった。


「うん・・・・これで間違いないよ、ありがとうおにぃちゃん」


「そ、そうか?ならいいんだが・・・・」


微妙な空気を孕みつつも、要は乾燥させてダシさえ取れれば大きさなんて関係ないよねうんうんと1人納得していると、黙って様子を見守っていたチャオが恐る恐るといった様子で


「あの・・・ミユキさん、つかぬ事をお聞きしますがコレは何に使われるんですか?」


「ん?料理だよ。

強いて言うなら昆布料理かなぁ」


「あああぁぁぁぁ、やっぱりぃぃぃぃ・・・・」


「ちょ、待て待てミユキ!お前コレを俺達に食わせる気か?!」


「別にコレを直接使う訳じゃないんだけどね、醤油があればダシ取った後の昆布も佃煮にできるんだけどココには無いしなぁ・・・・

あぁ!しかも醤油がないと昆布ダシとっても活用の仕方がわからない!」


今頃気づいたーどうしよ~!と頭を抱えて悩みだしたミユキを他所に、コレを食わされるのか・・・・と項垂れる2人が居た。今回は肩を叩いてくれる人は居なかったんだけどね。






その後、ブツブツと1人考えに耽り出したミユキの横で特に接点も無い2人が気まずげにズズズ~とお茶を飲んで時間を潰していると、バターンと勢いよく扉が開かれる音と共にズカズカズカと店内を乱暴に歩いてくる足音が響き渡った。

程なくして皆が居る住居スペースの扉が開かれると見るからに不機嫌そうなルビスが入ってきて空いていた椅子にドッカリと座り込んだ。


「どうしましたルビスさん、なにかありましたか?」


「どうしたもこうしたもあるかい、何だって今日に限って貴族なんかがこの街をうろついてるんだい!」


「貴族がいたんですか?珍しいですねぇ」


「ハッ!あんな奴等居なくて結構。いちいち鼻につく態度取りやがって目障りでしょうがないね」


「お前の貴族嫌いも筋金入りだなぁ・・・・」


「・・・・・貴族って何?」


「「「はい?」」」


先ほどから話題に出てくる貴族という言葉に私が疑問を口にすると、3人が揃ってポカンと口を開いた。

もちろん貴族という存在は私も知っている、特権階級者であり権力者であり世襲制により代々その権力を維持し続ける者達である。

知っていてあえて聞いたのは私の知る「貴族」とこの世界に現在実在する「貴族」との差異を知る為だ。

どうしても私が思う貴族には中世に実在していたあちらの世界の貴族の独裁的で贅沢主義者のイメージが強く、こちらの貴族に対する公平な初期イメージが偏りかねないので知らない振りをして説明してもらおうと聞いてみたのだ。


「貴族を知らないんですか?ミユキさん」


「うん、私の居たところには貴族って居なかったから」


「良い所だねぇ・・・・一度行ってみたいもんだよ」


「貴族が街に来ているそうですし、少しは知っておいたほうが良いかもしれませんね」


こちらの貴族も世襲制の権力者というのは変わりなく、「公爵」「侯爵」「伯爵」「子爵」「男爵」の各順位がありその下位に一代限りの準貴族として「騎士」の位があるらしい。

貴族の男子も騎士になるが爵位騎士として別格に扱われ、平民兵が功績を挙げて騎士に取り立てられても明確に別けられているが下位の貴族相手なら対等な振る舞いもできる。

そして少なくともこの国の貴族は、無理な重税を取り立てたり国庫を私物化して贅沢三昧をしたりはしてないらしい。

しかし政治に関しては隣国は軍事的にも領土的にもこの大陸最大で、この国は肥沃な大地と有り余る食料と資源で本来なら侵略対象筆頭候補なのだが、国境にあたる巨大山脈で完全に分断されており近くて一番遠い国と揶揄されるほどで貴族達は安心しきって腑抜けきっているということだ。


「この街を治めるのは伯爵の爵位を持つレバント・フォン・ブルガリーテ伯になります」


「ということはフィーリスの街はブルガリーテ領にあるってこと?」


「ええ、その通りです。

レバント伯はとても思慮深くお優しい方ですよ」


「チャオは会った事あるんだね」


チャオですから、と笑顔で返された。なるほど流石は国境無き医師団部族、領主様にも簡単にお目通り叶っちゃうわけか。


「あぁぁぁ!もう貴族のことはいいよ、ミユキも大体は分かっただろ」


「そうだね、じゃぁ時間も勿体無いしサクッと孤児院に行こうか♪

ルビスも早く行きたそうだし?」


「うっ・・・・」


「なんだお前、そんなに孤児院に行きたかったのか?

ちょっと前まではマイセルが居るからって うぐぁ!」


寝ていたため馬車の会話の流れを知らないセリオスが、口を滑らし相手の名前らしきものを吐露すると同時にルビスのボディーブローが深々と突き刺さり悶絶するセリオスに


「ななななに言ってるんだ兄さん!マイセルと顔を合わせるのが恥ずかしいから行きたく無いだなんてあるわけ無いじゃないか!」



真っ赤になって否定するルビスの肩を、生暖かい笑顔の私とチャオでポンポンと叩く。




可愛すぎるよルビスちゃん♪





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