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19.その顔やめなさい・・・。

カタコトカタコトと規則正しく馬車は揺れていく。


家から街への1時間程の道程、決して長い時間では無いはずなのに馬車に乗り合わせる3人にはそれぞれ違う時間の流れが訪れていた。

御者台の後ろで寝ているセリオスにはあっという間の時間だろうし、隣で白い灰に成り果てているミユキにはそもそも時間の間隔すら無いのかもしれない。

そしてアタシには何とも長いようなそれでいて短いような複雑な流れが押し寄せていた。


一晩かかって日中の仕事をランタンの明かりを頼りにやり遂げた兄には、家族一同感心するやら呆れるやらだったがミユキを思ってこその行動に少しミユキとの間に距離があったように見えた兄にホッとしたりもしていた。

そして何故ミユキが灰になっているかと言うと、前日の兄への色仕掛け攻撃が実はバレバレでアタシとかぁさんに覗き見されて大笑いされていたと知ったからだ。

兄が寝入ったあとに聞かされたミユキは真っ赤になり、頭を抱え支離滅裂に自問自答や現実逃避を繰り返した挙句に『真っ白に燃え尽きたぜ』と呟いた後この状態になったままである。


そしてアタシはといえば灰になる前のミユキから聞かせれた今日の目的地の所為で、この何とも言えない複雑な心境に追い込まれているのだ。


「ミユキ、ミユキ・・・・いい加減に戻っといで」


「ミテタクセニ・・・・」


うわ~根に持ってるなぁと思いつつもどうにかなだすかして機嫌をとり元に戻すと


「ホンットにあそこに行くのかい?」


「・・・・わっからないなぁ~、なんでそこまで嫌そうな顔するかなぁ?普通に孤児院にいくだけじゃない」


「うぅぅ・・・」


そう目的地とは孤児院だった、孤児院・・・・。

いや、孤児院自体がどうということではないのだ問題はそこにいるであろうアイツが問題なのだ。

いやいや、アイツ自体が危険とかそういう問題でもなくアイツの前にミユキを連れて行くというのが色々問題というか、バレるというか・・・・。


「・・・・ルビスゥ、な~んか顔赤いよねぇ~どうしてだろうなぁ~」


「う!」


そうなのだ、この子は嫌になるくらい勘が鋭いことがあるのだ。


「ホレホレ、おねぇさんに話してごらん。さぁさぁ!」


「アンタ妹だろ!そのニマニマ笑う顔やめなさいよ!」


キャイキャイと騒いでいると後ろから、うぅ~ん・・・と唸る兄の声が聞こえ慌てて口を塞ぎ様子を見るも変わらずグゥーグゥーと寝入ってることにホッと胸を撫で下ろし、声を潜めながら話の流れを変える為に以前から気になっていた事をミユキに尋ねてみた。


「アンタさぁ、兄さんと今回のことがあるまでちょっと距離取ってたろ?

どうしてだい?」


「うぅ、直球で聞いてくるよねルビスって・・・。


ん~・・・・なんていうかね、接し方が分からなかったって言うのかな。

おとぉさんやおかぁさん、おねぇちゃんっていうのは知ってたし懐かしい存在なんだけど、おにぃちゃんって未知の存在というのか・・・。

もちろん可愛がってくれてたのは分かるんだけど、私の方からの返し方がわからなかったんだよねぇ」


なるほどねぇと返しつつ、でも結構頼りになる存在だよねおにぃちゃんって、うんうんと1人納得してるミユキに今後はもう少し打ち解けて行くだろうと安心し兄を振り返ると、その顔はニヤ~と緩みきっていた。起きて盗み聞いてたのかコイツと思いつつもがんばりに免じて黙っててやるかと、上手く会話を逸らせた事に満足して馬車を進めていった。




お得意さん回りをする前にチャオの所にミユキを預けることにし、店の近くまで行くと大通りまでチャオが出て待っていてくれた。3日前にパンを届けるときに事情を話してあったので気を利かせてくれたのだろう。


「じゃぁ悪いけど昼頃までよろしく頼むよ」


「えぇ、任せといてください」


兄にも残るかと聞いてみたが1人で露店とパンを売るのは大変だろうと付いてくる事になった。

パン自体はすぐに売れるのでそんなに時間もかからずミユキの元に戻れるだろうと、手を振り見送る2人を後にしお得意様の配達を終え広場へと向かう。


「ミユキに何か頼まれてたみたいだけど、何?」


「あぁ、帰りに商店街の魚屋で品物を受け取って来てくれって」


そういえば何か注文してたなと思いながら広場へと差し掛かるとその光景に兄が驚く。


「な、なんだあれ!」


「この前のときもそうだったよ・・・・あぁ、でもちょっと増えてるっぽいね」


広場には人が列になり並んでいる。

目当てはこのパンでありアタシ達の馬車が見えるとザワザワとしだす。酵母菌とやらが上手く増産できているらしく初日に比べれば遥かに多い量を焼いてきてはいるが、到底足りそうも無いのは一目瞭然で今回もまた買えなかった客の対応を考えると今からウンザリしてくる。

前回からキトン爺さんの所でもらった型で作った食パンも加わり、それ1つで他のパン数個分の量がある為売る側の負担も少しは減ってはいるが数が多くなっている分大変なことには変わりなかった。


「さぁ!勝負の時間だよ、期待してるからね兄さん」


「やっぱり戻っていいか?俺・・・・」


「・・・・ミユキが頼りになるって言ってたじゃないか」


「そうだった、妹に頼られたらがんばるしかないよな!」






・・・・アタシも妹なんだけどな。




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