17.武器
知識は力にも成り得る。
こと私にいたっては異世界の知識があることで、この世界においてのアドバンテージは優遇されたものと言ってもいいだろう。
しかし、私には決定的に欠けているものがあった。それは知識を活かす経験が決定的に不足していることだ。
今回のことは私の欠点が招いた致命的なミスと言える結果で、既に私個人の努力ではどうにもできない所まで深刻化しているといってもいい程悪化している。
最初のミスは人間の中において食欲が占める強さを甘く見ており、パンを食べた家族の反応に有頂天になり碌な体制を整えないまま販売したこと。
そしてそのミスを引きずりパンの評判がもっとゆっくりと広がると判断していたこと。まぁ、しかしいくらなんでも初日にあれだけの騒動になるとは流石に予想外すぎるのだが。
次にその場の混乱を治める為とはいえ具体的な日数を提示して今後の販売計画を示してしまったこと。この期日制限が問題の根幹でもあるのだが・・・。
そして一番のミスが、ルビスとセリスとの約束を破りその怒りを買ってしまったこと。
普段の生活はまったく普通、むしろ気遣いすら感じられる。
が!一度街へ行く許可の提示をするとルビスからはアイアンクロー、セリスからは過酷なお手伝いの刑のお返事が返される。
現在の私が出来ることと言えば、酵母の増産を進めることと大量に作ったパンをルビスに託し街で売ってもらうこと、家族から街の行政や商人の組織の知識を聞き学ぶことくらい。
やはり直接街に行き交渉して歩かないことには事態は一向に進展せず、イライラと焦りが募るまま早くも5日が過ぎ去っていた。
明日はルビスが街に行く日であり期日的にそれを過ぎると手遅れになる、その為昨日の夜に遅くまで打開策を考え今まさにそれを実行に移そうと獅子が獲物を狙うがごとく機会を窺っていた。
おにぃちゃん・・・・おにぃちゃん・・・・
「・・・ん?」
おにぃちゃん・・・・
通路の影に身を隠し小声でチョイチョイと手招きをする
「どうしたミユキ?」
しーーー!と口に指をあてチョイチョイチョイと手招きをして兄を家族から引き離す。
手の届く距離に来た兄をグイっと掴み、更に話し声が聞こえないであろう距離にまで引っ張っていき元の世界の漫画で仕入れた知識の、視線は上目使い小首をちょっと傾げ目はウルウルと潤ませ困った顔で両手は胸の前で合わせ、
「おにぃちゃんにお願いがあるの・・・おにぃちゃんにしか頼めないの・・・」
うぐぁぁぁ恥ずかしいぃぃぃぃ死ぬぅぅぅぅと悶絶しつつも表面には出さずこちらでは『可憐な少女』に見えるらしい自分の武器を最大限に発揮してみせた、
「どどどどうしたんだミユキ!言ってみろ、俺に出来ることなら何でもしてやるぞ!」
真っ赤になった兄がドモリつつも好反応を示したことにニヤリとなるのを必死に堪えた。
寝ずに考えても大した案は浮かばず、結局は第3者に立ってもらい仲介してもらうことにしたのだ。
最初はトルビスに頼もうと思ったのだが、実はトルビスもちょっと怒ってるらしく反対はせずとも賛成せずという立場らしく、しょうがなく兄に白羽の矢をぶち当てたのだ。
「あのね、おかぁさんとおねぇちゃんを説得するのを手伝って欲しいの!」
「ぅ・・・・」
くっ!やはり怖気付いたか・・・。だがしかし、
「もうおにぃちゃんしか頼れる人いないの・・・」
とソッと兄の胸にその身を預けた。
ぶふーーーーん!という音と共に盛大な鼻息が後頭部にかかりゾワゾワと背筋に悪寒が走るが我慢我慢と堪えながら、ダメ?と甘えた声で聞くと
「ま、任せろ、俺が責任を持って説得してやるさ!」
「ありがとうおにぃちゃん、だいすき~」
その後アハハハ♪とお花畑に行きかけてる兄の後頭部にチョップを打ち込みこちらに戻し、具体的な対策を話し合う。
この前のように私が広場に出て売るのではなくパンの販売はルビスに任せ、その間はチャオの店で待機してること、移動は馬車でおこない極力姿を晒さないこと、当然商店街でも買い物はしないこと、そして訪れる施設は1箇所にし、絶対に危険の無い施設でありいい返事が得られないときは大人しく帰ること。
「よし、じゃぁ早速説得に行こう」
具体的な対策は既に考えてあったのでさして時間もかからずにまとまり、善は急げと私が促すと少し考えた後に兄は交渉は明日の朝1番にしようと言ってきた。
「ええ~どうして?」
「俺に考えがある、大丈夫任せておけ」
怖気付いたんじゃなかろうか?と一瞬疑うも、ふっふっふと不敵に笑う兄にそうではなさそうだと考えを改めるもその意図が読めず小首を傾げた。
その夜、頼りないものの具体的に対策を立てられたことで5日ぶりに深い眠りに落ちていった。
だから兄の計画にはその時までまったく気づくことは無かった。
兄が活躍する予感。
でも名前が出てませんねぇ・・・。
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