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15.心臓に悪い子だよ・・・。

誤字修正、内容の変更はありません。

昼食を食べ終え店を出たところでチャオと別れ、さてこれからまた街を見て回るかい?と聞いたが、


「ううん、いろいろ見て回ったらちょっと疲れちゃったかも・・・」


「そうだね、一旦馬車に戻ってからそれからまたどうするか決めようか」


頷きあい来た道を戻りつつも、初めての外出に馴れない初仕事も重なりミユキからは疲れが感じ取れる、馬車に戻ったら早めに家に帰ろうとルビスが考えながら歩いていると広場のほうからガヤガヤと声がしてきた。


なにかあったのかと念のためミユキを気持ち背に庇いながら進むと、どうやらアタシ達の馬車の周りに人だかりが出来ているのだと気づいた。

状況が読み込めずミユキと二人で戸惑っていると、目敏くアタシ達を見つけたキトンが駆け寄ってきた。


「おぅ、やっと戻ってきたか、大変なことになってるぞ」


「あ、あぁ、一体何があったってんだい?」


「ん~詳しくはわからねぇが、どうやらあそこに集まってるのはさっきパンを買ってった連中らしいぜ」


「え?」


よく見れば見知った常連の顔も見て取れ、そういえばパンを買っていってたなと思い当たった。


「もしかして・・・」


「ん?なんだいミユキ、何か心当たりがあるのかい?」


「心当たりと言うか、もしかしたらだけどさっき売ったパンに何か不備があってクレームにきたのかも」


クレーム?文句を言いに来たってのか?あのパンにおかしなところなんて有るはずがないじゃないか、と呆然として群集を見つめていると、ふいに、ルビスとキトンさんはココにいてねと言いつつスタスタとミユキが群集に向かって歩き出していった。


「ちょ、ちょっと待ちなミユキ!どこいくんだい」


「もしクレームだったらちゃんと責任を取らなきゃ、大丈夫そこで待ってて」


なおもスタスタと歩を進めていくミユキに大丈夫な訳ないじゃないかと内心で舌打ちしつつも、慌ててその後を追ったが追いついたときには群衆の中の一人に見つけられ、ワッと一気に囲まれてしまった。


「おい!あんた!」


「はい、なんでしょうか」


勢い良く駆けてくる人々に怯む様子も無く、最初に詰め寄ってきた男性にも背筋を伸ばし毅然きぜんと答えるミユキに驚きつつも、いつでも背に庇えるようにズイっと一歩踏み出した。いつの間にかミユキの横にはキトンも来ており眼光鋭く周りを牽制する。


「あのパンまだあるならもっと売ってくれ!」


「ズルイわ!私のほうが先に並んでたのよ、こっちが先よ」


「ワ、ワシが一番最初に買ったんだ、だからまたワシが一番に・・・」


「「「それは関係ない!!!」」」


我先にと言い合う内容に、どうにかクレームでは無いと理解できたものの、だからといってこれからどう対処したらいいのかわからずオロオロとしていると、


「大変申し訳ございません、独自の製法で作っておりますので数に限りがあり本日の分はお陰様で完売しております、また焼きあがるまでに時間もかかりますので午後からの追加販売もできかねます、ご了承ください」


深々と頭を下げつつも断固無理!というようなその雰囲気に気圧され、群集の熱も冷えていった。


「じゃ、じゃぁ明日にはまた売りに来るんだよな?またここで売るんだろ?」


「いえ、現状の体制ですと3日に1度、量は・・・もう少し多くは生産できますが、毎日の販売は不可能です」


「そんな!寝たきりのとうさんがあのパンなら美味いって食べてくれるんだよ」


「うちの子だって、普段は小食なのにあのパンなら美味しい美味しいっておかわりしてくれるのよ!」


またもや群集の熱が上がりだし騒然となりかけるも、パン!と大きくミユキが両手を打ち鳴らすとピタッと騒ぎが収まる様子にキトンと二人で呆然としていると


「今日が初日の販売にもかかわらずこんなにも多くのご支持を受けたこと深く感謝いたします。しかし現状すぐに量産体制を整えることは難しいのです」


その言葉に皆が落胆の溜息をつくが、


「ですが、2週間後にはある程度の生産量を確保し、1ヵ月後にはお客様の満足いただける量をご提供できるよう最善を尽くさせていただきます。それまでは出来うる限りの量を提供させていただきます」


ミユキが最初に言った今日はもう販売しないこと、3日に1回の販売であることはそのままだが、具体的な日数を提示して今後の体制を伝えた為か渋々ながらも納得して皆、帰っていった。

他の露天商の注目を浴びつつ馬車まで戻ると、ストンっとミユキが尻餅をついて座り込んだ。


「だ、だいじょうぶかいミユキ!」


「あははは・・・・だいじょうぶじゃないかも・・・・・こわかった~」


なおもハハハ・・・と引き攣った笑いを浮かべるミユキを見て、アタシは思わず半ば手加減を忘れてその頭に拳骨げんこつを落とした。

ゴチン!!という鈍い音と共に炸裂した拳骨に、


「い!いったーーーーぃ!!!」


と、頭を抱え、ぅぉぉぉぉぉ・・・・・と唸るミユキの肩を掴みグイっと引き寄せて


「なんであんな無茶したんだ!昨日一人で勝手に行動しないって約束しただろ、何かあったらどうするんだ!」


「・・・・・だ、だって・・・・」


「だってなんだい?!」


「・・・・・・だって、もしルビスに何かあったらおかぁさん達が悲しむと思って・・・・・」


それを聞いたアタシは一瞬カッと頭に血が上ったが続く消え入りそうな、ごめんなさいという言葉に長い溜息をついて頭を冷ますとギュッとミユキを抱きしめ


「アンタだってそうだろう?アンタにだって何かあったら同じようにかぁさん達は悲しむんだよ・・・・



お願いだから、もうこんな無茶は2度としないでおくれよ」



ごめんなさい、ごめんなさいと繰り返すミユキを抱きしめながら、実はアタシはとんでもない子を拾っちまったんじゃないか・・・・・と思いながらも、だからといって今更この子を手放す気など毛頭無く妹ってのは手がかかるもんなんだねぇと、優しく頭を撫で続けた。




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