12.街の住人(前編)
早々にパンを売り切り御座と籠を片付けルビスの露店を手伝っていると、ふいに知らない男性が現れ親しげに声をかけてきた。
「おぅ、ルビス今日はエライ繁盛してたじゃないか、なんか変わったモン売ってたらしいが何売ってたんだ?」
「あぁ、じぃさん騒がせちまって悪かったね。今日は家で作ったパンを売ってたのさ」
縦よりも横に伸びた感じのズングリとした初老のおじいさんが、薄くなった頭髪とは逆に盛大に延びた顎鬚に手をやりながらズンズンと近づいてくる。
深い皺が刻まれてはいるが眼光鋭く精悍な顔は老いても逞しく、職人が放つ一種独特の堅牢さを感じさせた。
「パン、パンなんて売りモンになんのかい?」
「ハッハ、ウチのパンは特別でね、他の何処にも無い誰も作れない代物なのさ」
自分もパン作りに参加したためだろうパンを自慢げに語るルビスに思わずクスクスと笑っていると、
「ん?この子は誰だい?」
「あ、はじめましてミユキといいます、ご挨拶が遅くなってすいません」
と声をかけられ慌ててお辞儀をすると、
「ミユキはアタシの妹さ、この子は体が弱くてね日の光にあまり当たれないから今まで街に連れてこれなかったのさ」
「ほう、それでこのローブってことかい、俺はキトンってんだよろしくな」
病弱にされてしまったがローブを脱げない理由を明かすわけにも行かない為その設定で押し通す、その後キトンさんは鍛冶師で今でこそ槌は持たないものの昔は名工として名を馳せたらしいこと、今はルビスの隣で跡目を継いだ息子が打った刃物や金物を売り、その刃物や昔自分で打った物の砥ぎをしていると説明を受けた。
「まぁ、俺のことはいいさね。ところでその特別なパンとやらはもうねぇのかい?よかったら俺にも1つくれねぇかい?」
「残念だけどもう全部売れちまったのさ、今度来るときにはじぃさんの分も持ってきてやるよ」
そうかい、と少し残念そうにするのを見てお昼用に持ってきていたサンドイッチに思い当たりキトンさんに勧めて見ると、
「あんたらの昼メシだろう、そりゃぁ悪くて流石に貰えねぇよ」
「いいんです、私こうやって街に来るの初めてなのでお昼は何処かで食べたいなって思ってたんです。
ね、いいよねルビス?」
「あ~そうだね、それもいいかもしれないねぇ。
そうなると弁当が残っちまって勿体無い、よかったらじぃさん食ってくれないかい」
キトンさんは遠慮しながらも悪いなぁと言いつつ私が差し出したパンを受け取る。
丸いパンに横に3分の1ほど切り目を入れてバターをたっぷりと塗り、レタスとトマトに良く似た野菜を挟み、猪肉の燻製を薄くスライスしたものも一緒に挟んだ最近のフィールランド家お気に入りのサンドイッチを受け取ると、驚きつつもぺロリと二人前を平らげルビスと私を驚かせた。
「いや美味かった、こんなに美味いモンを食ったのは初めてだ。
これでお礼をしなかったとあっちゃ末代までの恥だ、たいした物は無いが何でもいい好きな物を持っていってくれ」
と半ば強引にキトンさんの露店に連れて行かれ、さぁさぁどれでもいいぞと勧められ遠慮しているとルビスがとっととアタシはこれ~と選び出し、なんでぇお前もか!いいじゃんかケチ!とやり合ってるのを見て呆れていると、ふと四角い箱の様な物に目が止まった。
「なんでぇ嬢ちゃんはそんな物がいいのかい?」
と言われコクコクと頷くと、それは息子が作った物だが作った本人も使い道を考えておらず場所塞ぎの邪魔者なのだと説明を受け、逆に貰ってくれるならありがたいと4つあった全てを手渡された。
食パンの型に丁度いい金型を貰い両者笑顔で分かれてホクホクと馬車に戻った。
するとルビスが今日は早いけどこのまま露天を閉めて街を見て回り、その後どこかで昼食にしようと言ってきた。
「いいの?まだお昼まで結構ある時間だよ?」
「あぁ、パンを買った客がついでに野菜なんかも買って行ってくれたからね、この時間に閉めてもいつもより売り上げが多いくらいさ」
そういうことならと、手早く露店を片付けキトンさんに声をかけてから二人で街に繰り出した。
広場の露店は移動に向いている野菜や小物類が多いので今回はパスをして、ちゃんと街で店を構えている商店が多くある通りを重点的に見て回ることにした。
そこで瓶詰めにされた植物性の油を見つけたので購入することにする。
家にあるのは動物性のラードでずっと作りたかったマヨネーズを作ることが出来ず帰ったら早速作ってみようと思いながら次に魚屋に寄ってみた。
「岩から生えてる薄い板状の海藻なんですけど・・・」
と昆布のことを身振り手振りで説明すると、
「あ~板草のことかな・・・・・今はないけど必要なら取り寄せてあげるよ。
でもあんなもの何に使うんだい?」
加工して食べると言うと驚かれたが板草自体は漁の網に絡まり邪魔なので、定期的に採って駆除するくらいなので代金は輸送費くらいでいいと言われ6日後くらいには仕入れできるからと代金を先に払って店を後にした。
その後いろいろと見て回るもスパイスを取り扱ってる店は無くガックリと肩を落としていると、
「そうだ、軟膏を買っていかなきゃいけないんだった・・・。
ミユキちょっと薬屋によるよ」
と連れられ薬屋に行くことになった。
商店街から外れ細い路地を進んでいくと看板すらない民家のような家に辿り着いた。
よくよく見ると横に『薬』とだけ素っ気無くこちらの文字で書かれている扉を開けて中に入っていくと、机に突っ伏して寝ている一人の女性がいた。
「またアンタは寝てんのかい。ほら客が来たんだからさっさと起きな!」
「んひゃぅ!」
ペシっとルビスが頭を叩くと変な声を出しながらムクリと頭を上げた。
「痛いじゃないですかルビスさん!」
「叩いたんだから痛いのは当たり前だろ、それよりちゃんと仕事しな。
ほら頼んどいた軟膏受け取りに来たよ」
はいはい、と口を尖らせながら棚をゴソゴソとやりだす。
軟膏を受け取りルビスから妹だと紹介され挨拶をすますと彼女は自分はチャオ族だと名乗った。
オチも何もない・・・・
しかも前編とか・・・・
ホントすいません。




