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11.初仕事

露店を広げた広場は広く、中央には噴水もあった。


冬の時期噴水の飛沫が冷たいと苦情が多かったらしく水は控えめだが、夏場には逆に盛大に噴出して多くの人が涼を求めて広場に集まり、色とりどりの夏野菜や狩猟の最盛時期もかさなり品物も充実し大層賑わうそうだ。


まわりには私たちのように馬車で露店をしてる人や器用に大荷物を担いできて御座をひいて店を広げてる人もいる。

金物や刃物の砥ぎをやってる人、アクセサリーや雑貨を売ってる人、色とりどりの生地を売ってる人など様々で想像より多くの露店が出ていた。


一人気合を入れていると初日なんだから気楽にやりなと、ルビスに頭をポンポンと叩かれいい意味で自然と肩の力が抜けた。


「それで、パンの値段は決まったのかい?」


「うん、丸いパンとクロワッサンは100リーブ、バターロールは50リーブで売るつもり」


「う~ん、普通パンなんかは自分の家で作る物で食堂にでも行かない限り買うって発想はないんだけど、

このパンは私たちが知ってるパンとはまったく違うし案外売れるのかも知れないねぇ」


「売れなかったらゴメンね、がんばってみんなで食べようね」


「ハハハ・・・・」


と、微笑ましい会話を交わした後それぞれ持ち場につく。


さて、まずは下準備と、家から持ってきたまな板と包丁を出し試食用に数個ずつパンを一口サイズに切っていく、専用のパン切り包丁が欲しいが当然この世界にはない。

パンを潰さないように一生懸命に切っていると、ふと視線を感じ顔を上げてみると目の前に小さな男の子が立ってこちらをジーと見ていた。


「ボク、どうしたの?」


「おねぇちゃんそれなぁに?」


男の子が指差すのは売り物のパン。


「これはおねぇちゃんが作ったパンだよ」


「これがパンなの?」


こちらの世界のパンはナンのように平べったく、そのままでは硬すぎるので大概スープに浸して食べている。酵母を使いぷっくりと膨らんだパンを見るのは初めてだろうその子は、先ほどより食い入るようにパンを見つめている。

すると母親らしき女性が寄ってきて、


「ごめんなさい、商売の邪魔しちゃって、ほらいくわよ」


「えー、このパン食べてみたいー」


「パンなんて家で食べられるでしょ」


「あの!試食できるので食べてみませんか?普通の製法とは違う作り方をしてるのでいつも食べているパンとはまた違った味がすると思いますよ」


と、多少強引に会話に入り込むと子供はすぐに飛びつき、ただで食べられるなら・・・・と母親もパンを手に取った。ちなみに、試食という概念も無いらしく無料で味見が出来ると説明してやっと納得してもらえた。


「あら・・・おいし・・・」


「このパンあまーい」


「3種類あるのでよかったら食べ比べてみてください、好みのパンがあるかもしれませんよ」


それぞれ味と触感の違うパンに男の子はキャーキャーと騒ぎ、母親も注意も忘れて驚いている。

客は客を呼ぶもので、ルビスの露店に来ていた客も騒ぐ子供に何事かと寄ってきて試食をしては、こんなパンははじめてだと騒ぎ出しそれを聞いた通行人も集まりだした。


ついには購入するという客も出て値段を聞かれたので、


「はい、こちらのパンと丸いパンは『200リーブ』でこちらのバターロールというパンは『100リーブ』です」


と笑顔で答えると、横で見ていたルビスがズルっとこけた。


すると当然高いなという声が上がり、購入する気だった客も考え出した。


「今までに無い画期的な製法で作っていてとても時間と手間がかかっており、ご自宅で作ろうとするのは難しいパンなんです」


と説明するも客は渋ったまま・・・・まぁ当然である、実際高いと思う。

それでもすぐに立ち去らないのはこのパンの味に食いついた証拠でもある、それを確認し内心ではほくそ笑んでいるがそれを隠し、さも苦渋の決断のように、


「わかりました・・・・丹精こめて(ルビスが)作ったパンをこんなにも美味しいと評価していただいたのですから200リーブのパンを150、いや100リーブでこちらのパンは50リーブでお売りしましょう!」


そう宣言すると購入を考えていた客はもちろん食いつき、他の客もこぞって買い漁った。

とても一人では処理仕切れず見かねたルビスが手伝ってくれ、ピークを過ぎても客足は続きそう時間もかからず見事に完売した。

初日にしては上々すぎる結果に自分でも驚いていると、


「はぁ~凄かったねぇ、まさかあんなに一気に売れるとは思いもしなかったよ」


「うん私もびっくりしてる、何回か売りに出して口伝くちづてで評判が広がっていけばいいなと思ってたから・・・」


「しかし何だって最初に倍の値段を言ったんだい、元々100リーブと50リーブって言ってたじゃないか?」


「だって最初から100リーブだって言ったら少し高いかなって思うけど、200リーブですって言った後に下げれば安いと思うじゃない?お客さんは得した気分になれるし私はパンが売れて儲かる、ほらどっちも幸せ♪」


そう言うとルビスは口をポカンと開けて驚いていた。


ちなみに小麦粉の小袋が約1キロくらいで現在の市場で250リーブ、1キロの小麦粉で丸いパンだとおよそ20個出来て2000リーブ、バターロールも40個出来て2000リーブ、クロワッサンだと80個近くできるけどバターが多く必要だし数量が多いとかかる手間が凄いので数が多く作れずかかる諸費用はどれも同じくらい。

牛乳や砂糖、塩とバターの材料費を入れても平均すると500リーブかからず作ったパンで2000リーブになる計算になる、光熱費は薪なのでタダである。


ルビスにそれを説明すると、う~~んと唸りいっそパン屋でもはじめてみるかい?と言われたが丁重にお断りしておいた。


食文化改革でパンの改革に乗り出した当初からパンの製法を伝える団体は考えてあり、今日実際に売ってみて十分採算が取れると確信できたのでそろそろ本来の目的である『幸福にする』計画を実践することにした。




しかしサンタクロースさん、私に託されたという『幸福にする力』・・・・

いつまで経っても発動されませんが?

お陰で知恵を絞ってがんばっちゃってますよ。




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