10.実は逞しい・・・。
バサバサと鳥が羽ばたく音に眠りから呼び覚まされる。
そろそろ起きる頃合だから丁度いいと思いつつ背筋を伸ばして体をほぐすと、いつもより若干スッキリした目覚めに思い当たる。
いつもより体が軽い感じがする、それに気分もサッパリとしたものになっている。
いつもと違う感じにルビスは昨日なにかやったか?と考えてみると、ふとパン作りのことが思い浮かんだ。
子供の頃から兄と一緒に転げまわって遊んでいたので女の子らしい遊びとは無縁だった、よく悪戯して騒いでは母に怒られたものだ。
歳を重ね落ち着いてきたものの基本体を動かすのが性に合っており、料理や洗濯より畑仕事のほうがよほど自分に合っていた。
それが昨日のパン作りはどうだ!
力任せにパン生地を叩きつけるのはおもしろく、体の中の余分なモヤモヤも一緒に叩きだせるような爽快な気分になれた、しかも!しかもである!
あの行為は料理であり母の前でやっても怒られない!そればかりかいつも口うるさく言われては逃げ回っている『女らしく料理をしている』状態なのである。
ニヤニヤと思わず笑みが出てこれもミユキのお陰だなと隣のベットをみると、そこには既にミユキの姿は無かった。
「おはよ~」
「おはよう。あら、今日はいつもよりはやいんじゃない?」
うん~と気のない返事を母セリスに返しながらも視線はミユキを探す。
キッチンにもミユキの姿は無く、どこにいったんだろうと思っていると外からまだ羽音がしているのに気づき、裏口の扉を開け外に出てみる。
そこには多くの鳥たちに囲まれ嬉しそうに笑うミユキの姿があった。
登り始めた朝日に照らされ多くの鳥たちに祝福を与えてるようなその姿は美しく、私に気づきおはようと笑うその笑顔にこの子が自分の妹かと誇らしげにウンウンと頷く姉馬鹿がいた。
収穫した野菜とパンを積み込み、前日に積み込まれた荷物を確認し軽い朝食を済ませた後、
「「じゃぁいってきます」」
「気を付けて行ってくるんだよ」
はーいと返事を返しぶんぶんと手を振る嬉しそうなミユキに微笑ましくなりながら、馬車を進めた。
家から街までは1時間程でなだらかな丘を越えればあとは一本道なので、その時間を使ってミユキの質問に答えることにした。
これから行く街の名前はフィーリスといい、レバント伯が収める領地に4つある街で2番目に大きな街であること、街の規模自体はレバント伯がいるザッカスの街には劣るが山一つ向こうには港町ココロギがあり反対側の平野の先には隣の領地が広がっている。立地的に恵まれておりこの国でも有数の交易都市として知られていることなどを説明していった。
「なるほど~、あと、物価ってどうなってるの?」
「物価?」
「うん、私この辺の物価というか・・・ぶっちゃけちゃうと通貨のことも知らないのよ」
この国の通貨を知らないことに驚くも、ミユキの容姿からここではない遠くの国から来たのかもと思い1から説明していった。
「最小単位はリーブだよ大体500リーブもあればそこそこの食事ができる、これがそうさ」
と袋から硬貨を出して手渡す。
5リーブ、10リーブ、100リーブ、500リーブ硬貨があり色は青緑をしている、1000リーブからは銅貨になり、銅貨10枚で銀貨1枚になる。更に銀貨10枚が金貨1枚、金貨10枚で白金貨1枚になるが庶民が暮らすには一ヶ月で金貨数枚あれば足りるだろう。
「なるほど・・・じゃぁこの小麦粉の袋はいくらで売るの?」
「それは一番小さい袋だからねぇ、今の時期だと250リーブってとこかな。
収穫時期になると200リーブくらいに下がっちまうけどねぇ」
ふむふむと頷いたと思ったらブツブツと呟きながら何事か思案しだした。
あーでもない、こーでもないと唸っているミユキに苦笑しているうちに街の門をくぐり、先に大口の客に商品を届けた後にいつも露店を広げる場所に馬車を着けると午前8時頃になっていた。
馬車から馬を離し近くの厩舎代わりに使っている木に繋ぐと先に繋がれていた馴染みの馬達に挨拶するように小さく嘶いてから桶の水を飲みだした。
10分ほどで露店の準備も終わり、馬車の横に御座を引きニコニコとそこに籠に入れたパンを並べるミユキを見て、ここでミユキに会ってからまだ一月くらいしか経っていないのか・・・と、あっという間に私たち家族の中でその存在が大きくなっていった妹に万感の思いを抱いていると、
「よっしゃぁ売るぞー!」
という気合の声に、アハハハ・・・・と乾いた笑いが漏れた。




