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本編



初めてホラーを書きました。





「うーっわ、ヤバくない?めっちゃ足元ぬかるんでンだけど!」


「天気予報は晴れだったのに…やっぱ今日の撮影ダメなんだって!帰ろうよ!」


「ワッ!ぅわわわわ!なんか踏んだ!」


「落ち着けって亜李鈴、単に泥の塊踏んだだけだよ。…たぶん。野生動物のうんこじゃないといいな。」


「ぎゃーーー!!」


「うわw」

「最悪じゃんw」



「よし、この辺でいいな。」


俺は担いでいた荷物を下ろし、先を歩くみんなに声を掛けた。


いま、俺たちが何をしているのかといえば『撮影』だ。

俺を除いた四人は《東西南北探偵団》という名で活動しているムーチューバ―で動画配信グループ。俺は彼らの仲間ではあるけど撮影と編集が主な役割のいわゆる裏方。


メンバーの誰かが企画を発案したらそれをみんなで話し合い、予定を組んで撮影して編集して世に出すのが俺の役割。

要するに完成された映像を作って世間様に発表するまでが俺の仕事というわけだ。



□


「ねぇちょっとー、雨降るとかきいてないんだけど。」

「あー、山って天候が変わり易いからさぁ」


「おれメイク崩れてないよな?」

「大丈夫、めっちゃイケメンだよ。」


「つーかそんなことより寒くね?みんな低体温症とかには気をつけろよ?」

「一応カイロはありますよ。あとタオルも。夏の心霊企画に合わせて服装も夏っぽくしたの駄目でしたかね…」


「このスープってもう一杯もらってもいい?」

「どうぞ!ぁ、でもあんまり飲み過ぎるとトイレが…大丈夫そうですか?」

「…そんなに沢山は飲まないように気をつける。」


などなど。

夏らしい心霊企画でとある山の廃トンネルに行くことにはなったのだが車で行けるのには悪路と倒木のせいで限界があり、こうやって徒歩で山登りしているというわけだ。

平地では初夏とはいえうだるような暑さに車にはクーラーボックスを積んでいたが、万が一のためにと用意していた魔法瓶の熱湯が役に立った。


(流石は芸能人だなぁ。東出くんは撮影慣れしてるから想定外が起こっても余裕があるね。)

東西南北探偵団のメンバーである東出太陽は子役出身だ。現在もアイドル事務に所属していて研修生としてオーディションを受けたりドラマや映画の端役の仕事もしているためこういった現場(急な悪天候)でも愚痴ひとつこぼさない。

正直、クールキャラで一番文句を言いそうなイケメンが誰より順応性が高いってギャップ萌えだよなぁ。なんて思ったり。


…んで、一番文句が多いのはこの配信動画を始めた南海だ。アイツはとにかく明るくて場の空気を明るくさせるからみんなに好かれる。

かく言う俺も南海とは高校の同級生で、名前順の席が前後だったというだけで友達認定された薄い関係性からかれこれ7年の友人だ。

(南海はどんだけ文句を言っても憎めない雰囲気があるから不思議だな。)

まぁそれはたぶん、誰かを標的にした不満じゃないからだ。彼はいつも誰も責めない文句を垂れる。


叫んで騒いで最終的に泣くのはアリス、こと西口亜李鈴だ。

最年少で現役の大学生。

ビビリでコンプレックスの塊で引っ込み思案、根暗、マイナス思考な上にダサい芋い。そんな何十苦もあるのに南海の琴線に触れたのかメンバー入りして現在は配信動画主になっている。


そして《東西南北探偵団》のまとめ役でありリーダーになってしまっている斉藤北斗さん。

彼は最年長で27歳。

普段から穏やかで優しい人でみんな頼りにしているお兄ちゃん的存在だ。

…ただ、前職はタクシー運転手。その前は故郷の地元の役所職員であったのにもかかわらず、遅すぎる反抗期でプッツンして故郷も捨てて上京してきた経歴のある人だ。

穏やかで優しいからと甘え過ぎたらキレたときどんなことになるか予想がつかない時限爆弾。


ちなみに俺は仲間だろ!といわれはしているものの裏方なので、友人の南海と亜李鈴にはタメ口だけど芸能活動してる東出クンや斉藤北斗さんには敬語になってしまう。まぁ年上だからというのもあるけど。


今回の撮影には「和気藹々とした登山シーン」と「高まる現場の緊張」と「心霊スポットでの肝試し」という分かり易いグラデーションシナリオを用意している。が、必ずしもその順番で使うわけではない。メイン動画の再生数が良くても悪くても後日に裏側ショート編集したものを出すとメインを見に戻ったりするから後々の起爆剤に使用するかも。

まぁ素材はなんぼあってもいい。尺稼ぎになるし、いらなかったらカッとすればいいんだから。


しかしこれこそ「肝試し動画」をLIVE配信できない要因でもある。

配信動画は手軽に見て楽しむからこそ求められる価値がある。

万全を期して向かう道中を含めると丸一日かかる工程をダラダラ流していたら視聴者は飽きる。

しかも、それだけ我慢強く見ても結果が「何もありませんでした」で終わったら、ガッカリして登録解除されるかもしれない。いや、するだろう。俺ならするし。

そもそも配信動画は編集ありきなのだ。

だからこういう出張系動画は途中で休憩もするし最悪の場合は車中泊も視野に入れて準備してくる。



□



スタート地点からの撮影から2時間も上ってようやく目的の廃トンネルに到着した。

俺はカメラを抱えて先にトンネルの中でこちらに向かってくるメンバーの姿をを撮影する。

(このワンシーンがあるのとないのとじゃ臨場感が違ってくるからな。表題に使えるし。)

ポイントは真正面からではなく画角が少し外れたようにすること。そうすることで俯瞰した視点になる。



そして入り口から少し入った地点で、一旦メンバーが身を寄せ合い恐怖に耐えお互いを奮い立たせる、というアップ場面も撮ってからいよいよ長尺でカメラを回す。

目標はトンネルを抜けること。そしてその間に何もなくてもな(・)に(・)か(・)あ(・)る(・)よ(・)う(・)な(・)素振りなりをしてもらう。

特に今回のような動画では亜李鈴がキーパーソンだ。泣き虫でビビリの最年少というキャラクターが存分に発揮される。


でもビビリだから最初は後ろに位置してもらい前にはビジュが良い東出クンや賑やかしで好感度の高い南海が先を歩くような画面にして、トンネルの中腹あたりで


「…ねぇ、なんか聞こえない?」

「は?」


震える声で亜李鈴が言うのだ。

南海は振り返ってもらえればいい。東出君が緊張したように息を飲みながら自分の恐怖を押し殺している演技をすることで色々と補足が出来るから。


(いいぞ!亜李鈴シナリオ通りだ!)

心の中でガッツポーズを決めながらカメラのピントを途中でぼやかしながらいま歩いてきたトンネルの入り口へと向ける。


数拍の静寂の後、東出クンが「何も聞こえないけど?」と言い、亜李鈴が怯えながら「でも…聞こえたもん!」と騒ぐ。そして北斗さんが宥め南は場の空気を変えるように「先に進もうぜ、な?」みたいな展開になる、……はず、だった。


予定通りの数拍の静寂の中、

サーっと細かな雨が降りしきるトンネルの外からその雨を受けて歩いて来るような人がいる微妙な音がするような気がしてみんな振り返った。

トンネルの中は暗く懐中電灯の明かりだけが頼りだ。でも外はわずかに月明かりが射していて雨に濡れた地面が明るい。

(気の、せい……か?)

けれども、何かの形を縁取るような雨音は消えたのと同時に、トンネルの入り口から泥がこびり付いたような靴底で歩く足音が響く。


「…ひっ」

アリスは怯えて真っ先にリーダーの腕にしがみつき顔を伏せたが、他は現状を理解しきれなくてただ近づいてくる足音に硬直して身じろぐことすらできなかった。


ーズっべちゃ、ずッベチャ…

俺は何故かサンダルで雨の中を歩くような足音だとおもった。

俺たちは全員、山を歩くのだからと靴を履いているから余計にその足音が不気味にトンネル内に響く。


段々と近づいてくる音に、緊張していると――― 一歩後退った南海が俺にぶつかっておもわず「ぅおっ」と声が漏れると同時に亜李鈴の身体がヘナヘナと頽れた。


「むり…ゃだ…ぁ…」

腰が抜けて泣き出した様子に、南海と東出クンが頷き合って走り出す。


「逃げよう!」

「リーダー!亜李鈴のこと抱えて!俺も支えるから!」

「お、おう!」

「背中は俺が守る!」


シナリオにはない連係プレーで弾けるように駆け出した四人に一瞬呆気にとられたが俺も慌てて後を追う。

もちろん全員、足音がした方は避けて走った。


無我夢中で走り抜け車までたどり着いた時にはどうやってあの荒れた旧道の倒木を越えてきたのかも覚えてなかった。

たぶんその道中は回しっぱなしのカメラが覚えているはずだ。

それにメンバーも胸元に小型カメラを装着させている。


車内撮影用のカメラもあるし逃げ帰る道もおぼえてるな。…なんて考える俺は、車のエンジンをかける頃には冷静だった。

何だったら取れ高の計算しかしてなかったし、トンネル前に置き去りにした荷物の事も忘れていた。



□



「………まずいよなぁ~」


俺は翌日もあの廃トンネルに向かっている。

理由の一つは、荷物の置忘れ。そしてもう一つは、徹夜で確認した映像のすべてにあの足(・)音(・)が入っていなかったせいだ。


メンバー全員が聞いていたはずのあの不自然で不気味な『足音』が撮れていなかった。

これでは観覧数を稼げる動画になれるはずもない。みんなで感じた恐怖や臨場感が台無しになる。


だからこそ俺はリュックサックから旅館の売店で買った新品のサンダルを取り出し、昨日の雨で濡れ天井からは水漏れしているトンネルの中を歩き『音』を撮る為にマイクのスイッチをオンにした。

トンネルの中をまっすぐ歩いたり、蛇行したり、飛び跳ねもしたし擦り足でも…などなど四往復して音の収録は終え、置き去りにしてしまった荷物を担いで晴れた空の下で車に戻った。昨日の急な悪天候とは打って変わって快晴なのがちょっとムカつく。

(あ~でも雰囲気あるのは昨日の方か…うん、音取りだしいいか。)


と、自分を納得させつつも重たい荷物が肩に食い込んで痛い。


「はぁ…なんで俺はせっかくの代休にまで仕事してるんだろう?」


なんてぼやいてしまうけれど、そんなの生活のためである。本業は会社員でSEとして働いているがいかんせんの不況だ。社会人二年目の給料は安い。安すぎて就職祝に貰った祝儀貯金を切り崩すだけでは足りなくなって早々に副業に手を出したほどだ。

とはいえ、大学時代は映像研究サークルにのめり込んでいたからこそこうやって裏方という副業も出来るのだ。それに俺みたいな役者になりたい訳でも監督になりたい訳でもない、高望みしてないヤツの需要はこういうところにあるらしい。


(今頃は朝風呂からの昼ビールで旅行を満喫している予定だったのに…はぁ~…)


車を止めてある地点まで山道を下る足元は太陽が照るせいで蒸発する水の熱気がむせ返って気持ち悪く、木々の陰に入ると薄ら寒く感じて、いっそ昨夕の肝試しよりも不快になる。というか「アノ『音』さえ撮れていれば…」って苛立ちで旅行気分は台無しだ。

徹夜で映像を隅々まで確認したのに肝心の『音』がなにもなかったときの絶望たるや、最低だった。



「………しんど」


□



「あっ!牧野さんおかえりなさーい。」


宿泊している旅館に戻ると亜李鈴が迎えてくれた。近くのコンビニに行っていたらしい。駐車場で出くわしたのをこれ幸いとメンバーの私物が詰まった置忘れの荷物を運んでもらうのを手伝わす。


「よかった~!スマホ返ってきた~!」


嬉しそうに鞄を持ち上げる亜李鈴は実は高身長のマッチョだ。自分の性格を変えたくてジムに通っているらしい。だからこそビビリの小心者キャラが際立つわけだが。


「他のみんなは?」


「いま撮影中かな。もしかしたら終わってるかも?」


「LIVE配信のやつ?」


「ううん、ソッチは夜にするって。トークの撮影してる。」


いつもの定期配信用のなら四人揃って、ってのが定番だが今回は亜李鈴を抜かすようにしてあるのもシナリオだ。

基本が録画配信グループなだけあってこ(・)う(・)い(・)う(・)仕(・)掛(・)け(・)も後々に功を奏す。



「あー、旅館の浴衣でっぽいやつのほうか。夏ごろに配信予定の。」


「うん、そうそう。ちゃんと背景とかも小物で変えたりしたよ。」


「おっけー、一応は動画撮影しますよって言ってはあるし許可取りもしたけど後から揉めそうなのはナシにしたいからな。背景の衝立の見切れは天上だけにした?」


「場所と角度確認したよ。東出くんが何度もチェックしてたし大丈夫とおもう。」


…何でこんな会話になるのかっていうと、動画配信主は相手の保証が出来ないからだ。

契約書を交わすでもないヌルッとした口約束的な「動画撮っていいですか?」「いいですよ~」で了解を得ても契約書が無い。そして契約書がないからトラブルになりやすい。バズって高視聴率になった時にでもそうでなくとも相手に肖像権やなんやと主張された時に無断使用されたというトラブルになりやすいし、訴えられたら面倒臭いことになる。

なのでこっちの保険として「撮影してもいいですか~?」のくだりを動画撮影して保険をかける。



「なら大丈夫だわ。東出クンが一番そういうのに厳しいから。」


「やっぱ業界の人だから詳しいんだろうねぇ。俺なんか旅館の背景っていうかそんなので特定とかできないでしょってしかおもわないんだけど。」


「あ~なぁ、俺もそうだよ。隠せてればいいじゃんって。でも、東出クンは揉め事避けたいだろうし、直接本業に影響があるから気を遣い過ぎてるくらいが丁度いいんじゃないかな。」


「そんなに特定厨って人たち厳しいもんなの?」


「まぁ、多分ね。でも俺も一視聴者だった時には贔屓にしてた動画主のチャンネルの過去アーカイブ迄見直ししたりしてたし、ちょっとしたことで撮影時期とか場所とかは察せてたから、その探求心の強さがあったら特定したくなっちゃうもんなんじゃない?」


「それって好きすぎて滅ってこと?」


「特定されて滅されるのはコッチだけどな。」


「……わぁ、それは困る。」



三人部屋と二人部屋に分かれていた部屋割りの、俺の簡易的な機材環境置き場になっている方にみんな集合して寛いでいた。


「あれ?撮影終わったのか。」


「6月用のはな。夕方からの旅行LIVEのやつは晩飯も撮影していいって許可取った。でも予定通り亜李鈴は外すから、俺たちはこっちで四人分用意してもらう料理食うな。」


「お~、おっけおっけ。四人部屋設定だし、亜李鈴のお休みで夏向け動画の匂わせになるからってことね。昼撮影の補強にもなるしいいな。」


トーク動画は固定撮影だから編集もそこまで難しくないし。


「そういうこと。」


ニコっと笑ったのは東出クンだ。

業界人っぽい~。(いい意味で)

だとしたら残り一人分の夕食は亜李鈴の腹に消えることになるので俺は余所で腹ごしらえをするってことか。

ま、別にいいけど。軽く飲みに行くつもりだったし、夕飯は地元の居酒屋で楽しめばいい。


「撮影終りの打ち上げは居酒屋でいいか?目星つけてあるんだけど。地酒が豊富で評価も高いんだよ。」


「「「いいねぇ~!」」」

「ってお前等そんなに食えるのかぁ?

「二十代前半はまだまだ胃袋は宇宙だぜ」

「マジかよ。俺なんか最近は…」


#####


居酒屋にて。俺は酒の勢いも借りて音声が捕れてなかったことを告白した。

んで荷物を取りに行きついでに「音」だけを撮影してきたことも。


「おせっかいだ、ってことは百も承知なんだが…別撮りした足音を追加しようとおもってる。正直こんなことはヤラセに近い。でも、あの時俺たちは間違いなく「足音を聞いた」っていうのも嘘じゃないし、…………ぶっちゃけ、あの動画そのままの正直な感想は、集団でビビってただけの訳の分からない「なんだこれ?」って仕上がりになってるから、UPしても駄回になるだけだとおもう。」


あそシーンだけを短く切り取っただけの素画像を見せたらば、みんな「は?なんで?」「なにこれ?」ってなってた。

うん、わかる。俺もそうなったから。


「俺たちのカメラにも音入ってなかったのか?」

「ちっとも。全滅だった。」

「まじか~」


「でも、ヤラセとも言い切れないよな。だって聞こえたんだし。」


「あー…それはそう。」

「俺は北斗さんの意見に賛成かな。音の別撮りなんてよくあるし、俺らの体験した感覚を視聴者に届けたいしあの感じを共有したい。お蔵にするのはもったいないよ。」

「たしかに。このままじゃ、ただ俺たちがビビッて叫んでるだけの動画だもんな。亜李鈴はどうおもう?」


「俺、ゥ…無理ぃ~……もうトラウマだよぉ」


デカい身体を縮めてメンバーの中で一番小柄な南海の背中の後ろにへばりついておっかなびっくり動画を確認しているマッチョ。めっちゃシュールなんですけど。

それはそれとして。


「……一応、撮った「足音」も聞く?」


んで再生したらば


「ひゃっ!!」


ビビった亜李鈴は飛び退いて座敷の仕切りの衝立を倒してしまった。


「うおぉ?」

「なんだぁ?」


せっかく角の目立たない席を予約してあった(個室が無い地元の居酒屋)のに、隣のお客さんに迷惑をかけてしまった。


「す、すみません!」


「あぁ、まあいいよ。ん?兄ちゃんら見ない顔だな?観光客かぁ?」


「ァ…はぁ、まぁ…」


(気不味いな…)

多少なりとメディア露出があるからこそ東出クンはサッと顔を伏せたが、おっさんはおっさんなだけに俺たちの事など知らないようで逆に

「おん?楽しい旅行だってのにケンカかぁ??」とおせっかいにも亜李鈴の援護を始めた。(酔っ払いめ…)


「デカい身体で負けンじゃねーよ。ほれ、やり返せって!」

「そーそー、男は強くなくちゃいけねぇぜ。」


「いや、あの、俺らは喧嘩とかじゃなくてですね…ちょっと怖い話をしてただけなんですよ。」


「怖い話でビビってただけかよ!ったく情けねぇな。」


「あ、俺たち怪談サークルで各地の話を集めてるんですよ~。それでここに有名な心霊スポットのトンネルがあるって聞いてきてて」

「ゥん?トンネル?あったかそんなの?」

「ほれ、アレだろ?猿山の。」

「あ、あぁ~そういやあったな、旧道の。」

「落石で不通になった道のやつか。んでもありゃトンネルがちいせぇもんで工事車が通れねえから使えなくなっただけじゃろ。反対側の道もあったし。」

「つってもあの山で猿なんて見たこともねぇけどな」


ガハハと笑うおっさん。

(ナイス北斗さん!!!マジ神!!!)

うまいこと誤魔化して話もズラすの天才過ぎる。←これが社会経験値の差か。


「え?猿山?俺たちが聞いてたのは間根トンネルなんですけど。」


「おう、間根山であってるぞ。ただ俺たちがちっせえ頃はよ、じーちゃんばーちゃんに「あっこの山で猿と目を合わすな」つってよぉ言われてたんだわ。んで猿山って呼んどる。」

「山ゆーても丘くらいのもんじゃし町中にあるから猿なんておらんけどな。てっぺんからの景色はええぞ。夜景が綺麗でデートスポットよ。」


そして相手の話に乗りながら最後はお礼とお詫びを言い戻って来ると、会計を頼んだ。

この臨機応変さとスマートさはカッコイイなとあらためて見直した。男惚れしそう。



だけども宿に戻れば

イイねって肯定されつつ居酒屋で酔った勢いでみんなが各々の意見を出した結論は「加工しない映像」というポリシーうを歪めて「再生回数の多くなる動画を作る」というとこ。


「加工したら本物じゃなくなるんだぞ?」

「べつにいいよ、だって嘘じゃないし。ってかあのまま出した方が嘘っておもわれるじゃん?おおげさだ~とかって。」


「それはそうかもしれないけど」


というか、俺もそう思ったから加工しようとおもったわけで。

(でも、なんか、目的も動機も同じなのになにかが違うな…)

再生回数欲しさに提案しておいて、いざメンバーが賛同してくれるとモヤッとする心。

俺って何様?

目的が達せられそうになると反発したくなるこの気持ちは青臭い矛盾だ。わかっているのに…俺は提案を喜ばれたことよりも後ろめたさで居心地が悪くなってる。



□


「っつってもやるんですけどね~」


カタカタとキーボードを打ちながら音源ファイルに別収録したあの足音を追加する。

通しで聞き直し映像との親和性も確認してから保存した。


「そういえば、人影とか女の声とかも加工できるならしてとか言ってたな…」


なんとなくな人影は画像加工で出来はするけど「女の声」はあなぁ……無料の音素材を使うとバレバレだからって俺もスリッパ音を収音したわけだから難しい。

…でも、どうせ加工をやっちゃうなら完璧に仕上げたいってのは、解る。


「なにか、言葉がいいな。あー、とかう~とかのありきたりなのじゃなくて…、意味深なセリフっていうか。…聞き取れる二倍遅だと間延びするから1.5…1.3倍で遅くすれば声もアリかも。ああ、でも…メンバーの声は使えないか。他に頼んでネタバレも避けたいし…。」


あと、何故かあの足音は男(・)だ(・)っ(・)た(・)とおもっているから、女の声を使うことに違和感があるのだ。


ってことで、裏方な俺のことなど誰も知らないからこそ自分の声で様々なセリフや一言を考え付くだけ録音していく。

仕上がりの音声は何とも不気味だった。耳障りの悪い声も不確かな音だけでなら「…ィう…えは…ぁ…っ」って聞こえるけれど「見つけた」という自分の声を歪ませ加工しその音源をファイルに追加した。


ヘッドフォンから聞いた声は速度調整したせいで俺の声とは到底思えず、背筋がゾッと粟立つ。

(自作自演なのに怖がってんなよ、俺ぇ…)

ちょっと恥ずかしい。


「でも、一旦はこれで作業は終了ってことで。は~…他のも編集作業あんのに手間取ったせいで押してるんだよなぁ」


あの撮影旅行の三日のせいで地味に配信動画のストックが減り、地味に影響がある。東出クンは舞台オーディションで撮影が出来なかったし、南海も実家の用事で数日空けたりしたのもあって個人配信用のストックが枯渇しかかっているのだ。

かといって自分たちで撮影してもらったものをそのままっていう事も出来ないので、必然的に裏方の俺の時間が削られている。


正直なところ出来高払い的な、再生回数が収益になってそこからお金を貰ってる立場だからこそ手は抜けないし抜きたくないのが俺だ。最近はいっそもうコレだけで食っていけそうだし僅かながらもこっちの収益貯金も溜まってきているからフトした瞬間には会社を辞めようかとも思ってしまう。…でも、なぁ。でも、なんだよ。固定給を手放すのって、怖いじゃん。しかも会社員って社会の一部ってカンジがしてその肩書だけで安定するし。

(ムーチューバーです。ってだけじゃ南海もマンションの契約難航してたし…。)会社員の俺が保証人に入ったからどうにかなったところもある。

メンバーとはいえただの裏方である俺から会社員という肩書をとったらどうなるのかは、不安しかない。


「は~…せめてニ年いや三年は無職でもやっていけるだけの貯金はないと、だよなぁ。」


いまのところ通帳の残高は合計すればそれなりの額はある。だがもしも収入をすべて絶たれたら切り詰めた生活をしても二年がやっとだ。人間って生きるだけで金がかかる生き物だから、しょうがない。



(あ~もう、やめやめ!こんなこと考えてたってしょうもないっ!)

次回メンバーに会うときに確認してもらって、その後は配信の日時を決めってってやることは沢山あるんだから。




□



最低でも毎日5時間の睡眠時間確保は俺のポリシーだ。

会社員として働いている以上、社会人として仕事に支障をきたすわけにはいかない。だからこそ睡眠は大事でこれ以上削ればパフォーマンスが悪くなる。


「風呂…は、もういいか。」

明日の朝にシャワーだけ浴びてパンツも全部変えてデオドラントすれば一日くらいは大丈夫。

…なんて、そういう時間を削ってる。


洗濯だけは全自動で乾燥までやってくれる良いやつを買ってあるのでいつも清潔だ。だから匂わないはず…。

上下の色もデザインもちぐはぐなペアが狂ったスウェット部屋着でインスタントな食事をして栄養はサプリメントで補う。寝る前30分はスマホも見ないし暗くしたベッドで横になって温感アイマスクをして静かに過ごす。


(あ~…きたきた)

ドロッと全身が溶け始めるような、身体がベッドに沈む感覚。

多分この感覚を形容するなら「微睡む」ってやつだろう。

自分の感覚がぼやけて夢に落ちそうな、眠ってしまう寸前の、でもまだちょっとだけ意識はあるようなとき。


―――ガチャ、

ドアが開く音が聞こえた。


(え?)

ドキッとして心臓がギュッと縮こまる。

あれ?俺って玄関の鍵を閉め忘れた?


なんでなんで。心は焦ってるのに身体はもう休眠状態なのか動かそうにも動けない。


カチン。

ゴソゴソ…カタ、タッ、と、と、と、と…


玄関のカギを閉めて靴を脱ぎ短い廊下を歩く音がする。


―ドサッ


『……ぁあ~、しんどっ』


と、と、と、ボファっ、ゴゾゾ…ボフ、パキッ、ゴクゴクゴク…

『ァは~…』

トン。

と、と、と、と、と…ガララ、バスッ!


カチッ、ブゥゥン…


(あ?あれ、これ…俺だ。)


聞きなれた音の羅列。

玄関から入って来る動線もそうだし、ため息を吐きながら言う声も俺だった。

平日の会社勤務終りに毎日聞いている音。

ルーティーン化した作業。

ワンルームの狭い部屋だからこそ歩数も変わらないし、帰宅後に荷物を置いて冷蔵庫からペットボトルの水をとって飲む動作もパソコン前に移動して椅子に座るまでの自分の姿が見なくとも目に見えるようだ。


(それにしても変な夢だな…)

自分の日常をこんな風に夢で再現するなんて、寝てるのに寝た気がしなさそうだ。


微睡みながらの俺が言えることは、「今日のカップラーメン不味いから他の味にしとけ。」ってことぐらいである。

興味本位でご当地限定に手を出すもんじゃない。味覚がそもそもご当地じゃないんだから。


□



「なんか…怠いな?」


頭痛とまではいかなくとも、頭が重くて体もだるい。

朝目が覚めてからずっとこの調子だ。


夢見が悪かったせいだろうか?

別に悪夢ではないけど、自分の日常を宙に聞いてイメージするってのは不思議な感覚になる夢だ。


(幽体離脱って、あんなカンジなのかな)

俺はベッドに寝転んでいるのに、音の様子で自分の日常を感じるという不可思議な夢をあれから頻繁に見るようになった。

夢の中の俺はいつも疲れている。


ただ、夢は夢でもメイン職業である会社員の俺が社外に持ち出せる情報は何もないのに頭を抱えながらパソコンに向かっている姿をいつからか背後に立って眺めてる。に、なったせいか…疲れる。寝てるのに寝てないカンジだからかな。

とはいえ徹夜で吐きそうになる疲労感とはまた別だから寝てはいるんだろうけど。

身体は元気なんだよな。

熱もないし風邪症状もない。食欲もあるし、なんだったらいつもより食べ過ぎなくらいだ。

怠くてやる気はないのに食欲だけが馬鹿になってる。



◇◇◇



「…ぅえ、胸やけヤバい。」


目が覚めると、吐きそうで吐けない気分でべッドから起き上がった。

だけど、足を床に下ろす寸前に床に広がる食い荒らしたピザの残骸に愕然とした。


「…………は?ぇ、なに?」


自分で食べた覚えなんてない。

なのにこのありさまはどういうことだ。


「うぇっげぷ」


吐き気を催しげっぷが出るとピザの匂いがした。まぎれもなく自分が食った証拠のような気がした。

走って洗面台に行き鏡の前に立つと、俺の口の周りは汚れていたし、信じられなくて触るとぽろぽろカスが落ちていく。


「なんで…?」


胸が苦しいのにまだ、腹は減っている。



◇



「よっ!久しぶり」


「あ、え?なんで…南海?」


チャイムが鳴って玄関を開けると、南海が立っていた。


「なんでって、最近のお前ちょっとヘンじゃん。心配してんだよ。」


「おれが?なんで?」


「いや、そんな顔色悪くして心配しない方がおかしくねーか?」


「……かおいろ」


「うん、みんな心配してんぞ。だからホラ、お土産つーか差し入れもめっちゃ持たされたし。北斗なんか心配性だからアレもコレもつって重てーんだわ。」


勝手知ったる間柄だからか南海は遠慮なく玄関に入ってきた。

荷物をドサッと置く。


「…なぁ、お前ほんとに大丈夫か?」


「え?」


「だってこの部屋…どっちかっつーとおまえって潔癖っぽいっていうか完璧主義なとこあんじゃん。なのにこんな、ゴミだらけじゃねーか。」


いわれて振り返ると、俺の部屋はゴミだらけだった。

無造作に積み重なったゴミ、ゴミ、ゴミ。足元には空のペットボトルが転がり、流し台にはカップラーメンのカラが重ねられていくつもあった。


(あれ?なんでだ?…いつの間にこんなことになってんだ?)


「やっぱ東出クンがいってたみたいになってんのか?精神的にアレになると過食嘔吐しちゃうとか…そういうことか?」


「へ?」


「なんかアイドル目指す子とかに多いらしくてさ、お前が最近たくさん食べる割にどんどん痩せてくし顔色も悪くなっていくの見ててそうなんじゃないかって心配してたんだよ。…俺ああいう病気って女の子がなるもんだとおもってたから、まさかとおもってたんだけど。」


チラチラと部屋の惨状を気にする視線に、むしろこっちが居た堪れない。


「あ~えっと、吐いてはいないから大丈夫。ただ最近どうも食欲が抑えられなくて…それになんか怠いのもあって掃除もサボったりで…」


そこらにあったコンビニの袋にゴミを詰め込んでいくが言い訳にしか聞こえないだろう。でも何もやらないよりはマシだ。


「それほんとか?」


「ほんとほんと!」


「じゃぁ、いいけど。掃除手伝うし、俺にも袋ちょ-だい。」


「あ、え、いや…あ~、うん、た、助かるよ」


誰かに手伝わせるなんて恥ずかしいけど、このまま帰したら余計に疑われそうだし、なんでだか南海にはいてほしかった。

無自覚だったこの部屋の惨状が自分でも怖かったのかもしれない。

黙々と部屋の片づけをしてマンションのごみ捨て場に持っていけば部屋は随分とスッキリした。


「空気の入れ替えもしようぜ。」


「あぁうん、頼むわ。」


部屋がスッキリするとここ最近ずっとモヤモヤと怠かった気分が晴れる。

(さて、俺は床を…)


「痛っ!」


「どうした?」


「や、なんか静電気…?窓開けようとしたらチクってした。」


「夏なのにかよ。」


「俺もはじめて。さっき袋にゴミとか詰めてたから帯電してたのかな?」


「そういうもんなのか?」


「動画配信の初期の頃は、実験系が多かったしな。人毛のエクステと人工毛のとで下敷きの静電気でどれだけもちあがるのか~、とかやったりしたよ。」


「なるほど。」


血が出るような怪我じゃないことは確認して床をクイックルワイパーせ磨き上げていく。いつの間にか埃がこんなにも溜まっていたらしい。反省だ。


「さて、掃除も終わったことだしメシにしよーぜ。」


「出前でも頼むか?」


「ふ、ふ、ふ。めっちゃ持たされたお土産には東出北斗亜李鈴の手作り弁当~!テッテレッテッテッテ~♪」


拭いたテーブルに並べられる重箱サイズのタッパーにはおにぎりとおかずがぎっしりだ。


「なんか、運動会ぶり…かも。こんな量の弁当。」

「俺も~」


「ん、ってか。南海は作ってないのか?」


「俺はスマホで撮影してた!」


「おぉ…それはそれで助かる。いいな、料理動画も。一定数そういう需要はやっぱりあるし、コンスタントに再生数が稼げるジャンルだし」


「そ~だろぉ?やったね俺たちのプロデューサーのお墨付き貰っちゃったぜ!(はぁ?プロデューサー気取りかよウゼエ…)」


「え?」


「ん、どした?」


「いや、あ、…うん。」


――なんだ。いま一瞬だけ南海の声に重なって違う声が聞こえた気がした。

副音声みたいな二重音声になって。


(気のせい…だよな。)

だって南海があんなこと言うわけないし。


「俺のおすすめはさぁ、この海老スティックフライ!ほら昔ケン〇ッキーにあったアレを再現しててさ、衣にコーンフレーク使っててザクガリで美ン味いのよ!!お前も好きだったじゃん?」


「お、お~…スゲー。楽しみだなぁ」


空笑いで相槌をうって弁当に箸をのばす。本当に美味しい。美味しいのに、なんでだかボンヤリした味に感じた。



◇





「………あぁ゛~~~~~~~っ」



俺は、いま、夢を見ている。

悪夢だ。


悪夢だ。


悪夢であれ。

でなけりゃ俺はイカれてる。


ヌルッとした血の感触。鉄錆びの生臭い匂い。おもってたより赤い鮮血。


鉈を振り回して老夫婦を滅多切りにする「俺」。


『あ゛~~あ゛ああぁ~~~~っ!』


ホームセンターで買った鉈と鋸を両手に持って振り回す。

(意味がわからない。なんだこれ。)


VRを見ているような接近の臨場感があるのに心が追い付かない。


「田鶴子っ逃げれぇっ!!」


「ふざけんな!ババアも殺す!どうせお前だろ?ジジイにいらんこと吹き込んで仕送り留めさしたのはよぉ」


片手に持ってた鋸を投げ捨て逃げる老婆の後ろ髪を掴んで叫ぶ。


「俺はぁっ!ぜんぶお前の言うとおりに生きてやった!大学にだっていった!だけど友達もいない楽しいこともない毎日誰かに嗤われて見下されてっこれのなにが幸せだ!?この嘘つきがよぉおおおおおっ!!!」


振り回したら老女の首がゴキッと鳴って人形のように抵抗しなくなった。


「はぁ?死んだんか?」


「おま、お前えぇぇ…っ!!」


ジジイが這い蹲っている姿が愉快だった。

死んだ女房に縋って泣く姿は笑えた。


「ひゃははははっ!」


あんまり面白いから憐れんでジジイの首を鉈で切ろうとしたけど切れなくて、鋸で落とした。んで、せっかく愛し合ってるならとチンポも切ってババアのまんこに入れてやった。


「はは…あの世で出来た子も俺みたいに出来損ないだよ、ばーか。ざまぁみろ。」


ヒッヒッヒと引き攣った笑いで天井を見る。


「ぁ――――――腹ぁ減ったなぁ」




空しいと腹が空く。だから満腹になる以上に食べなければ満たされない。

見慣れたコンロには冷えた味噌汁が、炊飯器には米があった。冷蔵庫には作り置きや食べ残しのおかずがあり、買い置きの食べ物は幾らでも沢山あった。

獣のように食い漁り、満杯になったら吐き、それでも空腹は堪えきれずにまた食い漁る。

戸棚も仏壇も食い物がありそうなところは暴いてひっくり返す。


それでもおさまらない空腹に

「外の、納屋…食いもんあったよな。」


フラフラ裏戸を開くと不自然に塀の上に籠に盛られた柿があった。


「へはっ、こーんなところに美味いもん隠してよぉ。いっつもそうだった。あいつら俺には優しくなかった。」


触れるだけで崩れる熟柿をグチャグチャに貪ると「ヒックっ」しゃっくりが出て吐き気がした。あぁまたか。

その位におもったけど吐きながら前のめりに倒れ手足がしびれて動けなくなっていた。


「おごっ…げぷっ」


吐しゃ物が喉の奥をせき止め呼吸もままならない。


(違う違う違う!俺はこんな終わり方をする男じゃない!ずっと天才だって、神童だって言われてたんだ…っ!)


起き上がろうと必死になったらうんこが尻から溢れた。

ズボンの中から肌を伝う生温かさに絶望した。


「ぐぇあっぷ、…ひぎ…っ」


藻掻けば藻掻くほど足を伝ったうんこは履いていたスリッパに溜まって足裏で踏む。立とうとして縺れる。


「へぎ、ィ……ご…っ」


生臭い鉄錆びの匂いの血と、ゲロと糞尿に塗れた死に様が「俺」の最後の記憶だ。

こんな死に様だ。

俺はこんな死に方をしたんだ。



近所のジジババが葬式を出した。

その時に話していた俺の死因は猿被害用の毒入り柿を食った自殺だってよ。


 ーなぁ、俺はこんな死に方をしたかったんじゃない。こんなはずじゃなかったんだ。

わかるだろ?

なぁ。


なぁ。


なぁ?


……

……


「おっ……げぇ…ッ!」


ドッと強く心臓を潰されるような衝撃に「俺」は目覚めた瞬間にゲロを吐いた。


「さいあくだ…」


二日酔いでもないのに頭がガンガン痛い。

最低な夢を見ていたような気がするけど気分の悪さだけが残って覚えていないのは幸いかなんなのか。


「それにしても…腹ぁ減ったな…」


冷蔵庫には水かお茶かスポーツドリンクしか入っていない。

生まれて初めて飢えるような飢餓感をスポーツドリンクが多少は満マシにしてくれると実感した。


「……デリバリー頼も。」


徒歩五圏内のチェーン牛丼屋のメニューを選ぶ。ベッドカバーは汚れたから全部外した。丸めてベランダに置く。

素枕は裏返して掛布団は逆さにすればいい。

待っている間にネットバンキングの残高を見た。


「はは、お(・)れ(・)ってこんなに金あるんだ。」


ジジイババアの仕送りじゃそりゃあんなボロイ集合住宅に住んでたわけだよ。


「ははははは。」


なぁ。

先にお前が俺の真似をしたんだ。

だから俺がお前の真似をしたっていいだろう?






ーーー

終り。



うん!私ホラー書く才能なかった!ごめん!

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