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童話とか児童書ジャンル

新しい種を運んだ日

掲載日:2026/03/26

※第41回ひだまり童話館 「またねの話」参加作品です。

 柿の木が切られた。



 里にある立派な屋敷。

 その()の塀から覗く柿の木は、毎年秋に、もっともにぎやか。


 たくさんの実が浅緑からだんだんと、ゆっくり赤く染まりゆく。

 深まる秋と共に変化して、夕日のように真っ赤に熟す。


 あまりに見事なものだから、通るたびに眺めていたら、ある日、邸内に招き入れられた。


 ちょうど都会(まち)から孫娘(まご)が来ていたらしく、僕は彼女と一緒に柿を御馳走して貰って。

 それから、おばあさんの部屋で、彼女と共に折り紙を習った。


 同じ形のパーツをいくつも折り、それらを組んで色鮮やかな鞠を作る。

 いろんな色を選んで、何枚も、何枚も。こたつの上に、ひたすら積み上げた。


 部屋隅のストーブではしゅんしゅんと、やかんが湯気を吐き出してる。

 僕の頬が火照(ほて)ったのは、きっとこの蒸気のせい。



 あれから何年も経ち 。

 習った折り紙は忘れ、あの女の子に会うこともなかったけれど、道を通るたびに柿の木は見てた。


 緑の葉を茂らせてる時は、あまり目に入らない。

 だけど、ひとたび秋が近づくと、枝を揺らすほどの実が鈴なりで、主役のごとく一気に輝く。


 今年も実が多く、それらが色づき始めたことを嬉しく思ってたところ。



 柿の木が切られた。



 まだ()れてなかった。

 もう少しで食べ頃という、その手前まで来ていた。

 

 いくつのも実が地面に転がり、伐採された幹が痛々しい。

 枝が塀の外に伸びるようになっていたから、老齢の身では管理しきれなくなったのだろうか。


 悲しく思っていたところ、次の日、また次の日。

 庭の木が次々と切られていき、数日も立つと、庭は平らな土と、重ね上げられた伐採木だけになった。


 ここまで来てようやく、館の主に何かあったのだと気づく。


 庭に、見知らぬ人たちがいた。

 都会から来たのか、このあたりでは見ない服の着こなし。スーツ姿の大人たち。

 その中に、あの時の女の子がいた。

 

 すっかり成長して、大人の女性になってた。


 一瞬だけ、目があった。


 ……気がしただけだった。



 彼女は僕に気づかず、スッと家屋のほうに向き直ると、二度とこちらに視線が流れてくることはなかった。


 もうあの柿を味わうことも、()を透かした葉が(きら)めくこともない。

 跡地を眺め、そして隣の休耕畑を見ると、いつの間に広がったのか、ススキが一面を覆っている。


 傾く陽がススキのふちを金色に飾り、揃って揺れるさまは綺麗なのに物悲しい。


 彼女と並んで座った和室は、すぐに跡形もなくなるだろう。

 やかんの音を聞くことも、ほくほくのコタツに足を入れることもない。


 あの時作った折り紙の鞠は、どこにやったのか。

 作り方すら忘れて、ひとりで折ることも叶わない。



 瞬瞬(しゅんしゅん)と月日は移り変わり、秋は冬へ、やがて春へ。

 土の下では虫やカエル、そしてヘビが。

 蠢蠢(しゅんしゅん)とうごめきつつ季節を待つけれど。



 秋と春は交わらない。

 ただ静かにバトンを渡して回るだけ。


 この家も代替わりをした。

 子孫は都会(まち)で、戻る予定もないのだろう。


 でも案外。

 更地にして、新しく(きょ)を構えるかも知れない。


 だから僕はひとかけらの希望を胸に「またね」と呟き、(きびす)を返した。



「あれ? コン様、お見回りお疲れ様です」


 里に来ていた若いキツネが頭を下げる。

 そんな彼を横目に、スニーカーから肉球に変わった僕の脚は、軽やかにススキに飛び込んで。


 金の尾を揺らして、山に向かって駆け抜けた。

 思い出の柿を植えるべく、種を一粒、口にしながら。


挿絵(By みてみん)




 お読みいただき有り難うございました!

 コン様は山で、そしてもしかしたら女の子は都会(まち)で、柿の種を植えるかも知れません…!

 あちこちでまた、美味しい柿が豊富に実ると良いなと。


(柿の木が()られたのは実体験です( ;∀;) これは別に何に例えてるわけではなく、通学路の木でびっくりしたのでついお話に取り入れてしまいまして。また、立ち木は「()る」の漢字があてられるのですが、わかりやすく「切る」を使いました。ショッキングな印象となりすみません)


 さて。ひだまり童話館11年継続、そしてこのたび「休館」とのことで、本当に長い期間お疲れさまでした!

 2021年に「"にょろにょろ様"のおはなし」で初参加させて以来、大変お世話になりました。

 なかなか参加出来ませんでしたが、年数回のこちらの企画はいつも心待ちにしていた大好き企画で、皆様に優しくしていただいた素敵な思い出でいっぱいです!!

 色とりどりのたくさんの童話たちでくみ上げられた歴史あるご企画。

 不定期でもまたタマ館長が開館してくださることを願いつつ、今まで有難うございました!


 そして常連参加の方にはお気づきかと存じますが「しゅんしゅん」は前回ひだまり童話館のテーマです。

 前回参加しそびれてたので、今回の「またね」と組み合わせました。

 さらに強引に「ヘビ」も一言出てます。「"にょろにょろ様"のおはなし」が「ヘビ」だったので、ヘビで始まりヘビで終わり、ウロボロスではないですが円環のように不滅の願いを込めて。

 種を運んだのはコン様でしたが(笑) キツネは変化への適応力を持つと言います。ひだまりの皆様に、素敵な未来が訪れますように!!


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【最近書いたお話】

『私、泣き寝入りしない主義なので!』
『あなたって忘れっぽいのね』
『私は平民、あなたは公女』
『円満離婚に持ち込むはずが。~『冷酷皇帝の最愛妃』』

【最初の参加作品】
『"にょろにょろ様"のおはなし』
― 新着の感想 ―
コン様なの、すごくほっこりしました。 山と都会に柿の木が実といいなあ。
秋の柿の木、最近はみかけなくなってきました。 この物語のように、代替わりをして伐られてしまったのでしょう。 子どものころは庭の柿の実を竹竿で取って食べたものです。 柿の小さな白い花と、緑い大きな葉っぱ…
拝読させていただきました。 このラストは予想できませんでした。 ほっこりしましたね。 時はうつろう。 大事な思い出のものもいつまでも残っていてはくれない。 でもひょっとすると新しい種が新しい思い出を作…
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