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一時の休息

数時間後。既に深夜になってようやく足を止めた。

 成り行きで着いて来たエグゼだが、なぜか一緒に焚き火を囲いゆっくりとしていた。

──誰かと一緒に野宿をするなんてどれくらいぶりだろ。

「さっき、野うさぎを捕まえたんだ」

 そういってソウマは手早くウサギの皮を剥ぎ血抜きをした。毛皮を受け取ったアラクネの少女はその皮をなめしている。町に着いたら多少の路銀にはなるだろう。

「危ないところだったわね」

 アラクネの少女が話しかけてくる。

「あ、あぁ。君は?」

 そういえばお互い自己紹介もしていなかった。

「私は、アーニャ・クーネリア。こっちはソウマ・ブラッドレイよ」

「僕はエグゼ。エグゼ・トライアドだ。よろしく」

 ソウマはウサギをさばく手を止めず、話しかけてくる。

「しかし、なんでエグゼはアイツ等と戦闘になってたんだ?」

 ウサギはあっという間に食べやすい大きさにされ鍋で煮込まれていた。骨は出汁として使われ内臓はしっかりと処理したあとに肉の切り端をいれ、別のところで煙で炙られている。

「あぁ、僕も賞金首だからね」

 ソウマはそれを見ながら一枚のパピルスを取り出す。

 手配書。

 そこにはエグゼの人相描きなどの情報が書かれていた。

「エグゼ・トライアド。亡国の魔法騎士。生死問わず100万ローズ、ねぇ」

 アーニャは皮をなめし終え、お茶を入れるとエグゼにもコップを渡した。

「ありがとう」

 渡されたお茶を飲み、エグゼは一息ついた。

「お前さんも賞金首だったか。 俺たちが入った森にいるとは、タイミングが悪いな」

 肉が煮込まれ、さらに香草の類が鍋に入れられた。

「臭み消しにちょうどいいんだ」

 ソウマは鍋をかき混ぜながらそう言った。

「手馴れたものだね」

 エグゼが話しかけるが、答えたのは何故かアーニャだった。

「こういうところで変にこだわるのよね。この人の鞄の中、強壮剤ポーションとか入ってなくて、全部お茶やら香草ばっかりよ」

 アーニャはソウマの荷物を勝手に掴むと中をエグゼに見せてきた。

「本当だ……」

 他に入っているのは筆記用具とパピルスの束だけだった。

「長い旅だ。うまいものでも食べなきゃ体が持たない」

 山菜が入れられ、根菜類も煮崩れないタイミングで投入される。

「山や森に入ると塩なんてのは高価なものだからな」

 少量の塩それ以外は臭くならない程度にウサギの血液が入れられている。

 血液は貴重な栄養源だ。

「そろそろできるぞ」

 アーニャは食器を取り出すと、ソウマに手渡す。

「ほれ。顔色見ると、しばらくいい物食ってないだろ?」

 ソウマは野ウサギの煮込みをエグゼに渡すと、次にアーニャの分をよそう。

「ね、エグゼも。いただきます!」

「い、いただきます」

 妙な経緯はあったがそのおかげで久しぶりに、料理らしい料理にありつけたのだ。

「美味しい」

 それは王城に勤めて騎士をしていたエグゼも素直に美味しいと思える味だった。

「ここ最近は山菜や蛇くらいしか食べてなかったからな」

 誰かと囲って食べる遅めの夕飯は、緊張していたエグゼの身にも心にも染み入ってゆっくり解きほぐしていった。

「ソウマとアーニャは、レジスタンス組織の一員なのか?」

 お腹も満たされ、落ち着いたエグゼは疑問を口にした。

「王政グランベルトに対抗する組織の一つ『メリクリウス』のリーダーが最近変わった、と言う話は聞いたけど」

 ミハエルが国名をグランベルト、名づけてから2年が経ち、人も魔物も恐怖で押さえつける政治が始まった。この2年でミハエルに滅ぼされた村や町は、100を越えると言われている。

 その中で不満を持つものたちが反旗を翻しても当然だった。

「おう、俺が元TOPだった奴と一騎打ちで勝って、No.1になったんだ」

 血の気の多い組織である。

 ただ強いと言うだけでリーダーとなれる訳はない。

 こうして対峙してみてわかるが、ソウマには不思議と人を惹きつけるようなカリスマ性があった。

「他にも対抗組織はあるみたいだけどな」

 大小さまざまな対抗組織はあるが、メリクリウスはその中でも特に大きく名を響かせている組織の一つだ

「そういうエグゼはどうなんだ?前の国王の時の騎士だったそうだが」

 ソウマも疑問を口にする。

「王も王妃も。王女ですら守れなかった、落ちぶれ者だよ」

 エグゼは肩を竦めてそういった。

「魔法騎士って書いてあったけど、今は魔法は……?」

 アーニャが戸惑いがちに口を挟む。

「あぁ。まったく使えない。魔法が使えない僕は一般人レベルの力量しか持ち合わせていなかったんだ」

『黒のカーテン』と呼ばれる不気味な雲。いや漆黒のオーロラは、エルミナ大陸全土を覆い、全ての人間や亜人、魔物から魔法力を奪っていた。

 エグゼは騎士となってからの自分を振り返る。

 過信していた。伝説の聖エルモワール1世の再来とまで言われ、国中の人にもてはやされた結果がこれだ。膨大な魔法力を持っていたがゆえに、自身の剣技の研鑽を疎かにしていたのだ。

「なんか街の吟遊詩人が語ってたな」

 頭の片隅にある詩。

 稀代の英雄。最強の魔法騎士。100の軍隊をまとめ仕切る騎士団長。

 それが国民から見たエグゼの像だった。

「んで、エグゼは何で生きていられたんだ?」

 ミハエルにしても、万が一エグゼが魔法力を取り戻したら一番の脅威になることは間違いない。

 ならば、王都決戦の時に殺しておくべきだ。なぜそれをしなかったのか。

「それが分からないんだ。ただ……」

「ただ?」

「ミハエルは計算高く、悔しいが有能な人間だ。僕がここまで逃げてこれたのも、ミハエルがそうさせたからじゃないかと思ってる」

 あの時。地面に膝を着いたエグゼがミハエルに、殺せ、と言ったときにミハエルははっきり嫌だと言った。

「アイツがクーデターを起こす際、一番の障害の僕が苦しみ、嘆く姿を見たいとは言っていた」

「少し腑に落ちないな。それほどの男がたったそれだけの理由でお前を生かしておくとも思えない」

 しばしの沈黙。

「この大陸を支配するためは、エグゼにまだ生きててほしい理由があるとか?」

 顎に指を当てて考えていたアーニャが思ったことを口にする。

「なるほど。これから先のエグゼの行動に興味があるのか……」

 それならエグゼを生かしておいた理由もつじつまが合う。

「僕のこれから先の行動か」

 エグゼはエルミナ大陸の最西端にある、シスカという街を目指していた。

「なんだ、エグゼもシスカを目指してたのか」

 ソウマが驚きの声を上げる。

「僕も? じゃあ、ソウマとアーニャもシスカの街に行くつもりだったのか?」

 シスカの街は確かに有名だ。

 山の麓に作られたその街は、武器や防具、農耕器具などを作るための良質の鉱石が採れる。

 そして街には優秀な鍛冶師たちが、上質な鉱石を求めて集まってできた街だ。

「俺たちメリクリウスもな、組織が大きくなってきたぶん、武具が足りなくなったんだ」

 組織が大きくなれば資金もかかる。

 戦いには武器防具は必要不可欠。

 そして、今以上の仲間と賛同者、支援者を作らねばならない。

「そのために、鍛冶で有名なシスカの街にいい職人がいないか探しに来たのさ」 

 いい職人。その言葉を聞いて、エグゼが一振りの剣を手に取る。

 それはゴロツキから奪ったような粗悪な剣ではなく、華美ではないが確かに、最高レベルだと素人でもわかる意匠の剣だった

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