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人外娘さんと真面目にファンタジーしちゃう本  作者: 葛葉龍玄
亡国の魔法騎士

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サイクロプス、ヴィヴィアン

「上等っ!」

『陣形を開きなさい。左右から包み込み、全方位から仕掛ければ、一人では手が回らなくなります。数の利を活かしなさい』

 矢継ぎ早に指示が出されていく。

 大軍は淀みなく動き、左右へと広がろうとしている。

「させるかよ。行くぞ『深淵流•鶴翼双爪』!!」

 全身のバネを使い、大地から集約した力を両腕から放つ。

その技はスミカの村で山崩れを止めて見せたあの技だった。

 今まで腕を振るっただけで繰り出された衝撃波とは、比べることのできない程の威力を伴った烈風が、左右に広がろうとしていた造魔たちを襲う。

 その破壊力は、竜巻にも劣らない。大地を抉り、屈強な造魔をまとめて数十。いや、数百匹を切り裂き、無に帰す。

 これが魔法を使わずに、一人の人間が使える体術なのか。

 さらに広がろうと軍を動かしていたミハエルが、一瞬躊躇する。

 軍を左右に分かれさせるために、ソウマの邪魔が入らないよう、手練の造魔を数匹足止めに送り込んでいたのだ。

 しかし、刹那の時間稼ぎ。それすら果たせなかった。

『……。作戦を変更します。造魔、全総力を持ってソウマ君へ向かいなさい。他の者は、放っておいて』

 ソウマの底のしれない強さに、ミハエルは瞬時に作戦を切り替える。

 持久戦。

 とにかく、ソウマに休む間を与えず攻め続け、隙をこじ開ける。

 単純明快だが、戦力を分散させ無駄に犠牲をだすくらいなら、この男にはそれがいい。

「素早い判断だ。だが、それは悪手だ」

 空からは翼を持った造魔が。

 前後左右からは、スピード、パワーに長けた造魔が。

 地下にトンネルを掘れるものは下から。

 まさに、全方位から襲いかかる異形の者たち。

 しかし、ソウマは動ずる事なく、流れ作業のように敵を屠って行く。

 真上の敵を蹴り上げた脚で貫く。

 そのまま振り下ろし、その風圧だけで、前方にいた人狼数匹を切り裂き、さらに止まる事なく脚を大地に叩きつけ、地下に潜っている敵を蹴り潰す。

 その蹴りの衝撃で地面が大きくえぐれ、クレーターができた。

 急に足場を失い体制を崩す造魔数百匹。対してソウマは、中空へと飛び上がり、下方へ向かって蹴りを放つ。

「『深淵流・空牙くうが』!」

 たった今できたばかりのクレーターに嵌まった造魔たちが、ソウマの放つ技の前に、ことごとく消されていく。

 その間も、ミハエルはなんとか後ろの人間兵を人質に取れないかと隙を伺っているのだが、その隙を作ることができない。

「どうした、この程度かっ?!」

 ソウマが吠える。

 その間にも、腕で、脚で、造魔を薙ぎ払っていく。

 数だけはいる造魔だが、ソウマにはかすり傷一つない。

 牙、爪、尻尾、炎に弓矢や投石、爆薬、あらゆる武器。

 造魔はすべてを駆使しながらソウマを襲う。

 受け、流し、交わしす。

 流麗なほどの体さばきは、見ている者を魅了すらするほどだ。

「どうした、この程度か!」

 決して造魔が弱いわけではない。 

 造魔が10匹いれば、このシスカの町を制圧することも可能だろう。

 そのスピードは人の動体視力を軽く凌駕し、その体から発せられる攻撃は、一撃で城門すら大破させることができる。

 そして強靭な肉体は、鋼の剣をもってしても、傷一つ付けることはできない。

それほどの戦力なのだ。

それほどの戦力のはずなのに、目の前の男に毛ほどの傷を付けることもできないでいる。

『なるほど、人間の兵どころか、造魔ですら赤子扱いですか』

 ミハエルはつぶやく。 

 かつてのクーデターでは、魔法騎士団を圧倒した戦力を誇る、ミハエルの手駒の中でも最強の獣たち。

『そうすると、やはりヴィヴィアンの出番ですか……』

 すると、ソウマの目の前が不意に暗くなる。

 周囲10mくらいが影に包まれた。

 ソウマだけではない。

 その場にいた、造魔がみなその影を作った魔物を見上げる。

 最奥に居たはずの、サイクロプスがいつの間にか、眼前に立っていたのだ。

(この俺が、気配を感じないとは……)

 脅威的なスピードなのか、気配を断ち動く術に長けているのか。

 それとも……。

 一つ目の巨人が、手に持った鉄槌を振りかぶる。

「ばかな、仲間ごと殺す気か!?」

 ソウマの周囲には、もちろん今まで交戦していた造魔が多数いる。

 しかし、その造魔たちは自分達を巻き込み、殺そうとするサイクロプスの挙動など意にも返さず、ソウマを殺そうと攻撃を仕掛けてくる。

「こいつら、本当に意思がないのか」

 少し悲しそうに、ソウマが呟いた。

 そして、触れれば形も残らないだろう必殺の一撃が、ソウマに振り下ろされる。

 避けたとしても、その後ろにいる人間の兵たちが犠牲になるだろう。

「ちっ!」

 ソウマの舌打ちの音だけが、最後に残った。

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