ソウマVSミハエル
機動力の高い騎馬隊が、ソウマを取り囲む。
馬の機動力と、頭上からのランスの攻撃。
しかし、この程度の敵は戦い慣れている。
ソウマは地面を蹴り、円を描くように蹴りを放つ。
ソウマを中心に、半径10メートル以内のものが、全て弾き飛ばされたソウマに近寄ろうとするが全てが吹き飛ばさた。
騎馬隊が全滅するまで、その暴風は止まることを知らなかった。
馬の機動力、さらにはランスで中距離、頭上から迫る攻撃。
もともと人間の持つ格闘技は、真下や上からの攻撃を苦手とするものだ。
しかし、そんなアドバンテージを物ともせず、この男はあの勇猛果敢で名を馳せる、王政グランベルトの騎馬隊を一網打尽にしてみせたのだ。
唖然とする指揮官。
他の兵士たちも言葉が出ないでいた。
その隙に。
だが、その隙など瞬きする程でしかない。
しかし、その間にソウマは指揮官の前に立っていた。
「やれやれ、前の指揮官よりマシかと思ったけど、そうでもなかったかな?」
「なっ?!」
指揮官が気がついた時にはもう遅く、矢より鋭く、鉄槌よりも強力な一撃が腹部に突き刺ささり、気を失う。
しかし、そこはグランベルトに仕える忠実な兵士たちである。
たとえ指揮官を失ったとしても、その志気をは下がることなく、副指揮官を中心に編隊を組みなおし、ソウマを殺すべく襲い掛かる。
スリーマンセルで攻撃を仕掛ける兵士たち。
そこに大きな隙など見られない。
そして気を配らなくてはならないのは、前面だけではない。
人間の兵士たちだけでも5万はいるのだ。
すべての方向から攻撃が来る。
しかし。
「遅いっ!」
何気なく振るわれた刺突が5人の兵士を行動不能にした。
さらにソウマは止まることなく突きを、蹴りを、繰り出している。
そのたびに屈強な兵士たち数人が戦闘不能に陥っていた。
兵士たちも、渾身の斬撃を放っていはいる。
剣を使い、弓を使い、斧を使う。
さらには、その動きを封じるために、ピアノ線より細く、鋼より強い特殊な糸の両端に重りをつけたボーラまで準備して、用いている。
これは御前試合ではない。
殺し合いで戦争なのだ。
兵士たちもただ綺麗に戦っているだけではない。
剣を使いつつ、蹴りを放ち、さらには目潰しを使うものまでいる。
しかし。
その全ては交わされ、いなされ、あしらわれかすりもしない。
数人がかりで攻めているのに、一撃も与えられないのだ。
「ば、ばかな!」
兵士の一人が声を荒げる。
兵士たちも凡庸ではない。
ミハエルに選ばれた精鋭たちである。
それが何たる体たらくか!
「数が多くて面倒だな……。『深淵流・獅子咆哮』!!」
大地から吸い上げられた大量の気が、足を伝い、両腕へとためられ一気に解き放たれる。
瞬間。
数百人の兵士が吹き飛んだ。
正に獅子の咆哮のごとき猛々しい突きは、大地をえぐり、その地形すら変えてようやく収まった。
「ひ、ひいっ!?」
圧倒的な戦力を見せつけられた人間兵など、物の数ではく、まるで単純作業かのように、ソウマが屈強な戦士たちを薙ぎ倒していく。
一振りの拳が。
振り上げた脚が。
放たれた衝撃波が。
突き刺さるような刺突が。
それは、いかなる神秘か。
その一つひとつが、強力な破壊力を帯び、数十の人間を必倒させる。
ーーこの大陸では、魔法が使えない筈ではなかったのかーー
その場にいる兵士たち全員が夢を見ているような目で、戦場を見つめている。
いや、中には羨望の眼差しを向ける物さえいた。
たったひとつの肉体が、数千の軍勢に匹敵する奇跡の如き現実。
少年の頃、毎晩のように読み返した冒険譚の主人公のような圧倒的な強さ。
見る間に、倒れた兵たちの山が築かれて行く。
その中にあって、命を落としたものは誰一人としていなかった。
「ま、こんなものかな?」
おおかたの兵士は気絶させられ、他の兵士も戦意を喪失していた。
息を切らすでもなく、新たな敵を見据えるソウマの前には、この大陸。いや、この世界どこを探しても見当たらないような魔物達が控えていた。
ーー造魔ーー
ミハエルが生み出した、新しい生物。
自我を持たず、ミハエルの命令のみを聞き入れる忠実なる下僕。
そして、幹部クラスの造魔は、ミハエルが直接操れるという。
まさに、ミハエルの分身となって、戦場に立ち、すべての造魔にダイレクトに命令を聞かせることができるのだ。
それが魔法なのかは、皆目見当もつかないが…。
今まで自分が倒した人間兵たちを、造魔から守るように立ちふさがる。
「お次は、あんたらかい? 少しは手応えがあるといいな!」
そう言うソウマの左手から、素早く一匹の造魔が迫る。
そのスピードは、常人では肉眼では追えないほどだ。
しかし、ソウマは片腕ではたき落とす。
「お前らに魂がないのなら、今回は、手加減しないぞ」
今叩きのめされた造魔が、砂となって消える。
今度は手加減無しで、最初から殺す気で攻撃を仕掛けたのだ。
先ほどまでは余裕のある風だったソウマが空気を一変させる。
人間なら、いや。感情を持った生き物なら、ソウマの放つ凍てつくほどの殺気に怖じ気づき、その身をすくませたことだろう。
しかし、造魔たちは怯む気配がない。
機械的に作戦を遂行すべく隊列を整え、ソウマに迫り来る。
『ソウマ君は、後ろにいる兵たちを気にして居るみたいですね。ソウマ君ではなく、その後ろにいる、人間たちを殺しなさい』
全体に命令が飛ぶ。
見抜いていた。
ソウマが人間兵を、誰一人殺していないことを。
気付いていた。
気を失った人間兵を、かばうようにその前に陣取っていた事を。
そして非情にも、自分の兵を殺せ、と命令を下した。




