ソウマ・ブラッドレイ
死より冷たいまなざし。
11人の強者が、たった一人の男を前にたじろいでいる。
しかし敵にもプライドがある。
「一勢にかかれ! 隙を与えるな!」
剣をかざした若き騎士の怒声に、賞金稼ぎたちが我を取り戻す。
ソウマを中心に、円を描くように陣形を取る。
「10人掛かりで攻撃か? 面白い」
恐怖心を押さえつけ、最後のプライドを奮い立たせて立ち向かう賞金稼ぎ。
対して不敵な笑みを崩さないソウマ。
「けっ! 気取りやがって。行くぞ!」
10人が同時に攻撃を仕掛ける。
切り下ろし、袈裟、逆袈裟、切り上げ、突き、下段斬り。
一呼吸での多段攻撃。その動作は、1秒のタイムラグも無いほどに訓練され、実践で磨き上げられたものだ。
これは避けきれない。少なくとも、エグゼはそう思った。
しかし。
「発想は悪くはないが、いかんせんスピードがないな」
賞金稼ぎたちの必殺の攻撃が完成する前に、ソウマは既に陣形から脱出していた。
技の起こり。後の先で動き始めてもなお早い。
「こ、このやろうっ!!」
男たちがソウマの声のした方に振り向く。
ソウマの姿を確認した時には、3人の賞金稼ぎが足元に倒れていた。
「まだ、やるかい?」
自身に満ちた笑み。
この場が森深く夜であることを差し引いても尋常ではないスピードだ。全員が狼狽するなか、ソウマは軽く手を振り上げる。
「逃げるなら今のうちだぞ」
そういって無造作に手を振るう。
「!!」
突風。大木をもなぎ倒せそうなほどの風が賞金稼ぎたちを襲い、最もソウマに近かった2人が吹き飛ばされ気を失った。
「ば、馬鹿な……」
たった一振り、手を動かしただけで戦士2人がやられた。
次元が違う。そこにいる誰もが息を飲んでいた。
「お、お前ら、何をしてる!」
若き騎士も完全に怯えていた。
「む、無理だ!」
一人、二人と賞金稼ぎたちが逃げ出す。
「気絶してる仲間くらい連れ帰ってやれよ」
めんどくさそうに、気絶した男たちを一所に集める。
「どうする? あとはあんただけだぜ」
ソウマが若き騎士に向き直る。
確実に勝ち目は無い。
だからと言って戦いもせずに逃げ帰ってしまえば、騎士の名と家に傷がつく。恐怖心とプライドの狭間に立たされた騎士は。
「うわあああああぁぁぁぁぁっ!!!!」
残された勇気を振り絞り、ソウマに斬りかかった。
「その意気やよし!」
ソウマもその強い意志に答える。
目にも留まらぬ超スピードで、ソウマは騎士の懐に飛び込むと、鎧のつなぎ目を狙い抜き手を放つ。
「ッ!」
声を上げるまもなく、騎士が崩れ落ちる。それを軽く受け止めたソウマは、ゆっくりと地面に騎士を降ろす。
「大丈夫だったか?」
声も出せずに固まっていたエグゼに声をかける
「こっちは大丈夫よ」
傍らにいたアラクネの少女が答える。
「よし、とりあえず追っ手がかからないところまで移動しよう」