大精霊との契約へ
森を走る。ただひたすらに。
背には、出来上がったばかりの剣がある。
あらたな『大いなる精霊王の剣』を携え、エグゼは先日行った、『精霊の寝所』に急いでいた。
この先にいる、『日の精霊サニー』と再び契約をかわさなければならないのだ。
その時は2日近くかかった道のりを、今は数時間で踏破しなければならない。そうしなければ、戦が終わってしまう。
「エグゼ、こっちを通ろう! 私たち妖精が使う、秘密の抜け道だよ!」
ティアラがエグゼを誘う。その先にいる7大精霊の元へ。
「ここから先、私は行けないから、エグゼだけで行って。私は、先に町にもどってふたりの無事をいのってるよ」
ティアラは、下唇を噛み締め悔しそうに言うと、エグゼに背を向ける。
何もできない。何のチカラにもなれない。無力が、恨めしい。
「ティアラ、ありがとう!」
そんなティアラのこころの内を見透かしたように、エグゼが微笑む。
ティアラは無力なんかじゃない。
その存在自体が、今戦っている戦士たちのチカラになるのだ、といわんばかりの笑みだった。
たったそれだけのことで、ティアラの心が軽くなる。
「負けないで、エグゼ!」
小さな、でも大きな応援を背に、エグゼは『精霊の寝所』へ急ぐのだった。
「待ってたよ〜、エグゼ」
森の中の開けた原っぱに、先日と同じようにサニーは佇んでいた。
しかし、その表情は、この間と違い決意に満ちていた。
『日を司る大精霊』であるサニーにとって、戦さは得意なものでは、決してない。
爽やかな朝の、希望に満ちた活力を与え、1日を健やかに過ごすための加護を授ける。
生きとし生けるもの、全てに平等に降り注ぐ、まさに陽の光のように穏やかで優しい精霊なのだ。本来は。
しかし、一度その力を戦に使えば、この世の全ての水分を枯渇させ、砂漠に変えることも、強力な日差しのごとく、生物に致命的なダメージを与えることも可能なのだ。
恐らくサニーは、エグゼが再びこの地に訪れるまでに、様々な葛藤をしながらも決意したのだろう。
その力を、戦争のために使うことを。
「覚悟はいい〜? 今までの契約とは、訳が違うよ?
今まではエグゼの魔法力で私を自由に呼び出して、エグゼの魔法力を使って、この世界で実体を得ていたの。
でも、今はそれができないのぉ。私たちレベルの大精霊が『聖地』でもない場所で、実体を保つには、とてつもない程大量の『存在するために必要な力』が必要なの」
つまり、サニーと同等の精霊。7代精霊以上の存在は、代償なしにこの世界に姿を現すことができないのである。
そして、それを可能にする方法。
「それは、この世界で、肉の身体を得ることなのぉ」
「この世界で、肉体を? どうやって、そんなことが……」
「エグゼ、あなたの身体を借りるのよぉ」
「僕の、身体を……?」
「そぅ。貴方と私の魂を一つにして、能力を使うのよ」
魂ごと一つに。
それは、スミカの町で、ノームが歪な魂と一つになっていたようなものか。
そうなった時、その存在はエグゼと呼べるのか。
「大丈夫。必要ない時は、また私は貴方の魂から離れるわ」
「で、でも、一度離れたら、呼び出せないんじゃ?!」
魂の結合が離れ、エグゼという肉体を無くしたら、サニーはまた精霊界に戻るしかない。
精霊界に戻ってしまった精霊を再びこの世界に呼び出すための魔法力は、もうない。
「大丈夫。たたらは、貴方に精霊石で球を作らせなかった? 普段は、私はそこにはいるわ」
「これか……」
そして、出来上がった新たな『大いなる聖霊精霊王の剣』には、その球がはまるような窪みが7つある。
「この球に私たち7大精霊が入り、この剣に取り付ける、さらにこの剣を媒介にして、私たちと貴方の魂を繋げるの。そうする事によって、魔法が使えていた時よりも、精霊の力をダイレクトに、ほんの寸分のタイムラグも無く使う事ができるわ」
でも。とサニーは付け加える。
「気をつけなきゃ行けないのが、私たちと、魂を結合させ続ける事」
今までよりも、タイムラグ無く精霊の力を自分に反映させやすいが、精霊と魂を生命を一つにするにあたって、デメリットがある。
「魂という枠組みの中にあって、人間の魂より、精霊の魂の方が強いのよ。長く、私たちと魂ごと結合してると、エグゼの魂は、私たち精霊の魂に、取り込まれてしまうの」
取り込まれる。それとも、別のなにかになるのか。
「そうなると、君たちの力を借りるのは、最後の手段にした方がいいのかな?」
もしくは、その状況に応じた精霊のみと結合するか。
「この方法は、出来れば教えたくなかったし、使って欲しくなかったわ……」
「大丈夫だよ、サニー」
悲痛な面持ちのサニーに相対して、エグゼはいつもと変わらない、陽だまりのような笑顔を浮かべる。
「せめて、ミハエルに一矢報いるまでは、僕は死ぬつもりはない。たとえ、この魂が砕け散ったとしても、ね」
言葉と表情が釣り合わない。
心のどこかが、欠けてしまっているのだろうか。
今日までのエグゼは、笑顔の意味を忘れる程凄惨な日々を送ってきたのだろう。
「じゃあ、契約をするよぉ。今までより深い、魂の契約を……」
サニーが、グッと近づいてきたかと思うと、エグゼの意識が不意に途切れる。
そのまま、エグゼの精神は深い闇の底に沈んでいった。




