魂の繋がり
「あら?」
たたらの家に戻ったソウマとティアラ(寝てる)は、今で手持ち無沙汰なアーニャと出くわした。
「ソウマ、その体の光……。ティアラの特殊能力かなにか?」
ソウマをちらりと見たアーニャはポツリとつぶやいた。
「傷を治す。妖精の……。魂の欠片?」
アーニャが六つの目を細め、ソウマをジッと見つめる
アーニャの能力。
それがどんなものなのか、本人も説明しずらいらしいのだが、「物事の本質を見極めること」ができるらしい。
その人物の生命の奥底で起こったことすら、彼女の複眼は見えてしまう。
この時ソウマの身体に、ティアラの能力が付与されたことを一目で看破したのは、この能力のためだ。
そしてソウマは、このアーニャの能力こそ、ミハエルの展開している、魔法を使えなくしている『黒のカーテン』を打ち破る秘策だと考えている。
「魔法とは違う、妖精に備わる能力かしら? それなら、大概の傷は瞬時に癒せそうね」
「さすがだな。見た目になにか、違いがあるのか?」
「ソウマの見た目には変わりはないわよ。ただ、その奥の魂に、普段ない光が見えただけ。で、それがティアラの魂と同じ色をしてたのよ。
そのティアラの色を詳し〜く見てみると、なにかの能力だ、っていうのがわかるの!」
この辺からは、もうソウマとティアラにとっては、想像の世界でしか、なくなってしまう。
「わぁ! あーにゃちゃんは、バカヂカラだけじゃないんだね!」
いつのまにか起きていたティアラが無神経なことを言う。
「ティアラ。私のこと、なんだと思ってたの?」
「バカヂカラのあらくねさん!」
なんのためらいもなく答える。
ちなみに昨夜うまい酒をかけてエグゼ、ソウマ、たたら、アーニャで腕相撲をしたところ、みんなの予想を覆し優勝したのはアーニャだった。
「……逆に、ここまではっきり言われると、清々しいわね。まぁ、いいわ。戦場、見に行ってきたんでしょう?」
アーニャはソウマのほうへ、居住まいを正すと、本題に入った。
「あぁ。山に囲まれた平原で、戦いやすそうな場所だ。迂回してこの町を目指すとなると、相当遠回りになる上に、労力も半端ないだろうな。
そんなことで、兵や馬を疲れさせ、時間を食うぐらいな、正面突破した方がマシだ」
「罠とかは、仕掛けないの?人死にが出ないような罠なら…」
「いや。これは、たたらから俺への挑戦だ。受けるなら、この拳一つでやってやるさ」
「……そんなくだらない見栄を張って、負けたりしたら承知しないわよ! だいたい、私だって、あなたがどれだけ強いのかまだ分かってないんだから!」
アーニャが、ソウマの戦いをみたのは、ただ2度だけ。メリクリウスの当時のトップとの一騎打ちのときと、先日のスミカの村救出の戦いのときだ。
一騎打ちの時は、攻撃力、守備力の総合力で、メリクリウス内では右に出るものがいなかったケンタウロスの彼女を、一撃の元に打ち倒した、あの拳。
その破壊力は、筆舌に尽くしがたいものだった。
彼女が持てる限りのチカラと技を用いた渾身の攻撃を、真正面から打ち破ったあの技。
アーニャの瞳には「なにも」映らなかった。特別な能力などなく、単純なる戦闘力と、研ぎ澄まされた武技で、打ち勝ったのだ。
たかが、人間が。
あそこまで己を鍛え上げた、魔物を。だ。
そしてスミカの村の鉱山で山崩れを消し去ったあの技。
アーニャが見たソウマの戦いはこの2回だけだが、この男なら、たった一人でもミハエル率いるグランベルトに勝ち得るのではないか、と思わせる一撃のだった。
「エグゼとたたらは、ずっと鍛治場にこもりきりか?」
「えぇ。ずっと、たたらが剣を叩き続ける音が聞こえてるわ。でも、剣を作るに当たってエグゼは役立たずなわけだけど、一緒に鍛治場に居て、なにをしてるのかしら?」
「今朝のあの感じだと、エグゼが側にいることに意味があるんだろう。なにか見えなかったか?」
「……二人の魂に繋がりが見えたけど……。それは中のいい者同士なら、誰にでも見えるものよ。街中とかでも、よく見かけるし。それよりは、強いかな? って思ったけど……」
それは、絆と言い換えてもいいものだろう。しかしまだ幼いアーニャには、それが友情なのか、男女の愛情なのかの区別がついていなかった。
「それ以外にも、二人の気の高まりが感じられた。魔法力は使えなくても、あの膂力を使えば、それに匹敵するチカラで、剣を鍛えることができるだろう」
「その、「魔法」と「気」の違いが今一わからないのよね」
「俺も魔法は使えないから違いは、はっきりとはわからないな。ただ、この大陸に来て、俺が『気』を使えているということは、なにかしらの違いがあるんだろう。ま、この戦が終わったらエグゼにでも聞いてみるか!」
「そうね。……でも、私もティアラも」
アーニャは深いため息をついて。
「この町が存亡の危機に瀕しているのに、ただ待つことしか出来ないなんて」
グッと腕に爪が食い込むほどのチカラを込め、歯を食いしばる。
「な〜に! 俺が勝つ事を祈っとけ! それが、最後の力になる!」
ソウマは底抜けに明るく、悔しがるアーニャの肩を叩いた。
「祈る、ってそんな!なんの役に立つのよ!」
「俺の役に立つのさ」
一転、真面目な顔つきになるソウマ。
「闘う俺のために祈る人間がいるという事は、その戦で俺が負ければ、傷つく誰かがいるという事だ。なら、俺は負ける訳には行かないんだ。どんな窮地に立たされようが、どんな傷を負おうが、な。
俺に託されたその想いこそが、俺の最後の力になる」
「ソウマ……」
「と、そういう事だ。おれの双肩には、この町の、この大陸の未来がかかってるんだ。負けはしないさ!
それに、例え俺が負けても、エグゼがいる。再び『大いなる聖霊王の剣』を手にし、大精霊を使えるようになった英雄がな」
ソウマが鍛治場の方へ、視線を向ける。
それにつられるように、ティアラとアーニャも鍛治場へ。その奥にいるエグゼに視線を送るのだった。




