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MagiaLostFantagia  作者: 葛葉龍玄
亡国の魔法騎士

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22/24

房中術とは

「……。話はまとまったな。今、見張りの者から連絡が入った。

 グランベルトの旗を持った兵が、こちらに向かっている。

 俺があえて迎撃はせず、そのままこちらに向かわせるようツクヨミの街の責任者には伝えた。

 進軍スピードからして、この町につくのは3日後。

 それまでに準備を整えておけ」

 かなりのスピードの進軍である。



「3日後か。なら、2日後に、町の前の草原で迎え討つ。

 エグゼは、それまでに『大いなる精霊王の剣』を、仕上げてくれ」

 腕組みをしたソウマが、静かに言う。

「わ、私はなにをしたら……」

 あわてて、アーニャが声を発するが、ソウマは片手でそれを制する。

「たたらとの約束だ。手を出すな。俺一人、もしくは、剣を手にしたエグゼの二人でやる」

「そんな……」

「俺を信じろ!」

 有無を言わさない、ソウマの言葉にアーニャは口をつぐみ、うなずく。

 圧倒的に不利な状況が覆るわけでは、もちろんないのだが、ソウマが言い切ると自然となんとかなる気がする。



 それほどの信頼を寄せられるなにかが、ソウマにはあった。

「先ほどは途中でこっちに来てしまったが、改めて行くぞ、エグゼ。

 お前は、トレーニングなりなんなりしておけ。施設は好きに使わせてやる」

「ありがたい。久々に身体を動かすか!行くぞ、アーニャ!」

「はぁ?私、つかれてるんだけど…」

 ごねるアーニャの襟首を掴み、ソウマ二の句も告げさせず、家の外へ出て行った。

「お前はもう少し空気を読め!」

 と言い残して……。

「騒がしい奴らだ」

 悪態をついた、たたらの頬は真っ赤になっていた。


「ところで、たたら。僕は、剣を作るにあたってどんな手伝いが出来るんだい?」

 エグゼがいつもの笑顔で話しかける。

 先ほどの話の続きは、するつもりがないとの意思表示でもあった。

「まぁいい。追い追い意思がついてくることもあるだろう」

「まずは剣を作る上で、前回と違うのは、私が魔法を使えない、と言うことだ」

 剣を作る一振りひとふりに、絶大な魔法力を込めて鍛えていた。

 それが今回は使えない。

「しかし魔法を使えないのは、僕も一緒だ。腕力という面においても、もちろん技術的な面でも、僕がたたらの役に立てるとは思わないんだ」

 それは率直な意見だった。



「で、でもあれだ。私が女で、貴様が男、という利点を生かせば、一つだけ、魔法を使わなくても、前回以上の力を、剣に込めることができる」

 たたらが、元は東方の国の出身でその国から伝わるチカラだと言う。

「この星の生きとし生きるもの、全てが持っている、『気』というものだ。根本は全く違うが、魔法力のようなものだと思ってもらって構わない。

これを使い、剣を作る。ただ、私はこの『気』を使うのが、あまりうまくないのだ。そこで、それを飛躍させる方法が、ある。



 そしてその方法は、私一人ではできない。そ、そこで、お前に手伝ってもらいたいんだ」

 言いながら、だんだんと歯切れが悪くなっていくたたら。

「なるほど。で、ぼくはなにをすればいいんだい?」

 真っ赤になってしまった、たたらは、しばらく俯いたまま、沈黙してしまう。

「ここ、これを読んで勉強しろ!

 わた、私は湯を浴びて、寝所に行っている!準備が出来たら来いっ!」

 机の上に置いてあった、一冊の本をエグゼの顔に叩きつけると、たたらすごい勢いで、部屋を出て行った。

「なんなんだ、一体……」

投げつけられた本の表紙を見て、パラパラと中を読んでいく。

「ぼう、ちゅう術……?」

~注釈~

 男女の交合によって不老長生を得ようとする養生術。本来,男女の気を交えることで体内の陰陽の気の調和を図り,

 あわせて精気の消耗を防いで健康を保持し長寿を得ようとする古代保健医学の一分野で,

 主として性交の際の禁忌や技法を説く。その起源は古く,前漢の《漢書》芸文志には,すでに房中八家の書が記載されており,

 また、近年湖南省長沙の馬王堆漢墓から出土した帛書はくしよ《養生方》には後世の房中術書の原型的記事が見られる。



 たった一夜の逢瀬を越え、エグゼとたたらの間には深い絆が結ばれ、二人のその体内には、強大な気が渦巻いていた。

 深夜。なんとなく眠れずにエグゼは窓から外を見上げる。 

 赤い月と青白い月の双月が、互いに満月になっていた。

「なんだ、エグゼ。起きていたのか?」

 眠れなかったのはエグゼだけではなかったらしい。

「たたら、僕はもう一度戦うよ。なんとしてでもミハエルだけは僕が倒す」

「エグゼ……」

 しかし、やはりその感情の奥にあるのは、自己犠牲だった。

 たとえ自分が犠牲になろうとも、ミハエルだけは倒す。 

 ミハエルを倒し、王政グランベルトを瓦解させた後のことは考えてもいない。

 それがエグゼの決意であった。

 もしそれでもエグゼが生きていたら、どうするのだろうか?



 新しい国で生きていく決意は見られない。

「エグゼは、戦いが終わっても生き延びていたら、どうするつもりなんだ?」

 たたらの最も素朴な疑問。

 たたらも、仲間のみんなも、エグゼを殺させるような真似はしない。

「……。明日もある。休まないと、ね」

 エグゼはその問いには答えてはくれなかった。 

 考えていないのか、想像もつかないのか。

 その気が、ないのか。

 そう言って、エグゼは再びたたらと同じベッドにはいる。

 エグゼの背中に、たたらが優しく寄り添う。

 夜が明けたころには、二人は静かな寝息を立てていた。


 夢。

 夢を見たいた。

 それは、平和な大陸で過ごす夢。

 アーニャも、たたらも、ティアラも、みんなが幸せになる夢。  

 ソウマも自分の国に帰って、エグゼは。

 エグゼは見守り続けるのだ。 

 精霊使いが深く精霊と結びついた先に起こる、結末。

 それは伝説でも数多く見られ、いまだに語り継がれている。

 正しくそれは、エグゼの身にも起きた。

 そんな夢。

 それは事実となるのか、その結末を回避できるのか。

 今、それを知る者は誰一人としていなかった。

 ただ、平和になった世界にエグゼの姿はなかった。

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