条件
「よくやったな、エグゼ、アーニャ。ティアラも来たのか」
ものの見事にソウマを無視して、たたらが出迎えてくれた。
「ミハエルの手下は、引き上げて行ったぞ」
喜びを露わにするたたらに、4人は暗い面持ちで、話をする。
敵の駐屯地を破壊し、兵たちは敗走を余儀なくされたこと。
『日を司る精霊』サニーと会話できたこと。
造魔と交戦したこと。
精霊と精霊石を求めて、ミハエルが強力な造魔の軍団を、このシスカの町に送り込もうとしていること。
そして、ミハエルが魔法を使えるかもしれないこと。
話を聞いていたたたらは険しい表情に、一変した。
「馬鹿者! 状況は悪化しているではないか!
私は兵を追い払え、と言ったんだ。さらに増やしてどうする!」
「しかし、収穫はあった。精霊と交信できた」
ソウマが初めて意見を挟んだ。
というか、今まで発した言葉はものの見事に、たたらによって無視されたのだった……。
「そんなことは貴様にいわれなくても、わかっている!
こうなってしまっては、仕方がない。早く剣を仕上げるぞ。今回は、エグゼ。お前のチカラも借りるぞ」
そう言ってたたらは側に置いてあった、巨大な鉄槌を手に取る。
「え? 僕、鍛冶なんてやったことないけど」
「それでも、お前がいないとダメなんだ。特に今回は、魔法に頼ることが出来ん。その代わりに、お前自身の念が必要なんだ」
まじめに話すたたらの顔は、心なしか、赤いような気がした。
「ソウマ」
たたらは気をとりなおして、ソウマに向かう。
「もしこの戦で、造魔以外誰一人死者を出さなかったら、貴様からの話し考えてやらないでもないぞ」
たたらは、誰一人、というところを強調して言った。
「それは、敵味方問わず、ということだな?」
「そうだ。敵の人間の兵であろうが、だ」
村の人間はおろか、敵の兵すらも、造魔以外は殺さない。
命のやり取りの場で、そのようなことが果たしてできるのか?
「いいだろう。その代わり、一つ条件がある」
「ものによっては、聞いてやろう」
「戦場に立つのは、俺一人。もしくは『大いなる精霊王の剣』を手にしたエグゼと二人。それ以外の助っ人や、戦力は出さないでほしい」
「ほう……。面白い。相手がどれだけの戦力を揃えてくるかもわからないのに、か?」
「そうだ」
「なっ!?」
エグゼは、激昂したように声を荒げる。
「馬鹿か、お前はっ! 確かに、4,5匹程度なら、負けないかもしれない。
しかし、今回よりも強力な造魔がどれだけいるかもわからないんだぞっ!? それをたった一人でだと!? 無理に決まってる!!」
エグゼの脳裏に思い出されるのは、かつて敗れた時の屈辱だった。
魔法が使えなかったとはいえ、歯が立たなかった。
無様に跪き、目の前で国が蹂躙されゆく様を、まざまざと見せつけられたのだ。
「一人で十分。他は足手まといだ」
きっぱりと、こともなげに言い切って見せるソウマ。
「いいだろう。私はそういうの、好きだよ」
「たたらまでっ!」
「しかし、この町が滅ぼされたり『精霊の寝所』を荒らされるのはかなわん。貴様がやられた時の対策も、こっちで、取らせてもらうぞ」
「もちろんだ。異存はない」
「楽しみにしているぞ。救世主殿」
「ソウマ、無茶だ! 取り消せ!」
なおも食い下がるエグゼに、ソウマは頑としてその意志を曲げようとはしない。
「戦士が一度口にした約束だ。絶対に曲げん。折れん。そして、必ずやり遂げる」
その強い決意に、エグゼはなにも言えなくなる。ソウマの瞳には、それだけのチカラが宿っていた。
「ふん。話は終わりだ、エグゼ。行くぞ」
意味ありげに笑い、たたらは、エグゼを連れて、奥の鍛冶場へと消えていった。
ソウマはなにを思うのか、腕組みをしたまま、その場で思案顔で立ち尽くしていた。




