相対する
「なにかわかったか? アーニャ?」
ソウマがアーニャにたずねる。
「あれは……」
言いにくそうに口ごもる「確かに魔法、だったわ……」
「そんな! わたしたち、魔法つかえないよ!?」
ティアラが大声を出すが、アーニャの返答は変わらない。
「敵さんだけ魔法が使えるのか? それとも他に可能性が……」
思案したソウマだが、すぐになにかに気が付いた。
「なにかくる!」
敵の軍隊を退け、『精霊の寝所』の入り口で待機していたソウマが、いきなり叫んだ。
敵意をもった何者かが、まっすぐ、迷うことなくこの『精霊の寝所』に近づいて来ている。
その気配が、ソウマには手に取るようにわかった。
「え? でも、意識魔法が…」
「効いてない。迷うことなく、妖精の森に入ろうとしてる。人数は、5人だ」
緊張を含んだ声で、ソウマが状況を話す。
「そ、そんな……! みんなに、やっつけてもらわないと……」
テレパシーのようなものが使えるのか、ティアラが、意識を集中しようとする。
「やめておけ。犠牲がでるだけだ」
「で、でも!」
慌てふためくティアラを、ソウマが制する。
「ここは俺に任せろ!」
わざわざこちらから出向く必要はない。むこうが向かってくるのなら、このまま、迎え討つのみ。
間を置かずして、目の前の草木が、驚いて退くような動きをして、道を作る。
そしてその先には、見たこともないような醜悪な魔物がいた。
素体は人狼か。
しなやかな肉体に、鋼のような体毛。触れるもの全てを傷付けんとする、鋭利な爪と牙。
鋭い眼光は、どんなに素早い動きでも翻弄することは敵わないであろう。
「そーま! なんか、おかしいよ?これ、魔物じゃない!」
ティアラが胸を押さえながら、叫ぶ。
「魔物じゃ、ない?」
「造魔……っ!」
アーニャが呟く。
ミハエルに作られたと言われる、人造の魔物。
高い戦闘能力と、天才軍師であるミハエルの戦略を兼ね備え、ミハエルの思惑通りに動く、最高の駒。
「自分自身の思考能力なんて、ないんだからな。そりゃ、意識魔法も効かないか」
目前に迫った脅威に対し、ソウマ平然と構えていた。
確かにいい兵士だ。
しかし。
「取るに足らん!」
会心のタイミングで襲いかかる造魔。
ソウマはまるでそれを見越していたかの如く、ゆるり、と動く。
流水のように、静かに。
相手より遅れて発した技は、如何なる技術か速度か、相手より先に必殺の一撃となって届く。
強靭な右腕が、1人目の急所を的確に貫く。
返す左腕は、崩れ落ちた1人目の後ろにいる、造魔へと向けられた。
鷹の目のように、敵を見据えたソウマには、真後ろに居る敵も見えているのだろうか。
二人目を倒した隙を突き、三人目、四人目の造魔が、背後から襲いかかる。
しかし、その奇襲すらソウマには意味をなさない。
身体を一度沈めたかと思うと、鎌を思わせる鋭利な蹴りが、二人目掛けて、放たれた。
その威力はまさに必倒。
瞬く間に4人の造魔が、足元に崩れ落ちた。
「まだ、やるかい?」
戦いの一部始終を見ていた造魔は、右手を前にかざす。
しかし、攻撃してくる気配はない。
止めを刺そうと、ソウマが一歩踏み出そうとした時、不意に5人目の造魔が消えた。
「また消えた……。アーニャ?」
「なにかあったのか?」
真剣な顔でたたずむソウマとティアラ、アーニャを目にし、精霊石を抱えたエグゼが、尋ねる。
ソウマの足元には、4人の造魔が横たわっていた。
「魔物? いや、造魔か……!」
嫌な記憶が蘇る。
倒れ行く仲間。
囚われた姫。
目の前で首を落とされた、敬愛すべき王。
蹂躙される民衆。
その中にある、醜悪なる魔物の姿。
「こいつらが……っ!」
胸に去来する、憎悪、絶望、怒り、悲しみ。地獄に囚われたかのような業火が、一瞬にして蘇った。
「落ち着け、エグゼっ!」
いつにない口調でソウマが叫ぶ。
「こいつらを殺したところで、過去が変わるわけじゃない。
それより、こいつらから、情報を聞き出すなり、どうやって造られたかを知るなりする方が先だ」
「ソウマ……。しかし!」
「国を救うんだろう!?」
その言葉に、エグゼがピタリと止まる。
「倒すべきは、ミハエルだ。こんな雑魚は殺しても、あいつにとっては痛くも痒くもない」
そう言って、ソウマは、気を失っている敵に歩み寄る。
しかし。
『またもやお会いできましたね』
不意に、1人の造魔が話し始めた。
「その声は……!」
聞き覚えのある声に、エグゼが叫ぶ。
『お久しぶりです、エグゼ君、ソウマ君。はじめまして、妖精さん』
造魔の口を通して、ミハエルが話す。
これも、魔法なのだろうか。
『まさか、私の可愛い造魔がこうも簡単に敗れるとは。大したものです。
そして、精霊石を手に入れてくれてありがとう。エグゼ君。
次に送る刺客は、この程度ではありませんので、覚悟していて下さい。では、これで』
にやり、と笑みを浮かべると、その造魔はなんと、砂のように崩れ消えてしまった。
「とりあえず、一度町に戻ろう。剣を作ってもらっている間、作戦を練るぞ」
いつになく真剣な表情で、エグゼとソウマはシスカの町へと帰っていった。
「今のはやはり魔法なのか?」
「うん、魔法だと思う……。魔水晶やスクロールを使ってなければ」
魔水晶とは、その内に魔力を蓄えることができる鉱物で、『黒のカーテン』が展開される前に魔力を封じられた物はいまだに使用可能である。もっとも、その蓄えられた魔力が切れてしまえばただの水晶になる。
スクロールは一回だけ魔法を使えるようになる巻物のことだ。
「そこは見分けはつかなかったか」
「ごめんなさい。もっと練習しないと……」
頭をたれるアーニャのあたまを、ポンポン、と軽く叩くと、ソウマは明るく話しかける。
「まぁ、まだ交戦は始まったばかりだ! これからたくさん魔眼を使う機会もあるだろうよ!」
「そうだね。ミハエルが何かしらの方法で、大人数を転移できることもわかったし」
「わたしは意識魔法以外に、今使える魔法もあるってはじめてしったよ!」
ティアラも賛同する。
「ありがとう……」
少し瞳を潤ませながら、アーニャが答える。
そして4人は連れ立って、たたらのもとへ帰ることにした。




