シスカの町
スミカの村を出てから5日。エグゼの鍛錬をしながら時間をかけてようやくシスカの町に辿り着いた。
「やっと着いた……」
連日の修行につかれたエグゼはようやく重い荷物を下ろすことが出来た。修行で鍛えた筋肉は、十分な休養を取ることで強靭になっていく。
「まだまだ! そんなに辛くないはずだぞ」
「荷物持ってもらってごめんね、エグゼ」
対して元気なのはソウマとアーニャ。自分たちの荷物を鍛錬と称してエグゼに預けてゆっくりと歩いてきていた。毎日こんなやり取りを続けている気がする。
「この町に腕のいい武具職人がいるのか?」
鍛冶で栄えた町をぐるりと見渡す。
どの家の煙突からも煙が上がり、鉄を叩く音や刃物を研ぐ音が聞こえてくる。
アーニャは汗を拭うと、そのタオルが真っ黒になっているのを見て悲鳴を上げた。
「なにこれっ!?」
炭を燃やたその煙には粉塵が含まれていて、町中にいるだけで皮膚や服を汚していく。それはこの町いる限り仕方のないことだった。
「今日はお湯に浸かれると思うから」
苦笑いして、エグゼが先頭に立って進む。この鍛冶の町においても「腕利き」と称される職人の鍛冶場は町の中でも奥の方。良質の鉱石が採れるという山の麓に建てられていた。
「これでいい装備を手に入れることが出来る訳だ」
ソウマはウキウキとエグゼの後をついていく。
「痛てっ!」
がらん、と音を立てて地面に落ちたのはトンカチだった。
「誰が偏屈だ? 私の顔をみてもう一度行ってみろ」
建物の前に立っているのは一人の少女。
大きな一つ目に、一本しかない足。その細腕に似つかわしくない巨大なハンマーを手に持ち、エグゼを睨んでいた。
「んで、この人が腕利きの職人さんかい?」
「可愛い!」
「なんだお前らは」
三者三様。お互いのこともわからない他人同士が自己紹介を始めた。
「何が可愛いだ。これでも300年生きている一本多々良だ」
一本多々良。彼女の容姿がまさにそれで、一つ目に一本足の魔物だ。
「この子が火ノ元たたら。素晴らしい鍛冶師だ」
素晴らしい、を強調してソウマたちに紹介する。
「俺とこっちのアラクネのアーニャは『メリクリウス』の代表としてここまで来たんだ」
いつも通りの気さくな態度。
しかし、たたらの態度は柔らかくなる所かさらに厳しくなる。
「ほう。有名な反乱軍のリーダーが私のところになんの用だ?」
かなり棘のある言い方。ソウマはたたらの口激にひるむことなく目的を話す。
「実は、貴方に武具を……」
「断る」
正確には話そうとして遮られた。
「貴様は一体何人の人間や魔物を殺した?
血の匂いは誤魔化せないぞ」
それだけ言い放つとエグゼを伴い、街の奥へと歩いていく。
それでもエグゼはソウマとアーニャを連れて、たたらの家までたどり着いた。
そのことに関しては、たたらも何も言わなかった。
机に置かれた「大いなる精霊王の剣」
「まさかこの剣がここまで破壊されるとは……」
この剣の素材は精霊石と呼ばれる、石、だ。その石自体も大した強度はない。
そのかわりに精霊をその身に宿した時には無類の切れ味と魔法力を発揮する。
(精霊の力を使っていなくても、剣としての機能を果たせるようにしなくては)
大精霊と精霊石。この二つを守るのもこのシスカの街の役割だ。
「エグゼに新しい『大いなる精霊王の剣』を作るために精霊石が必要なのはもちろんだが、あの裏山によからぬ者たちが集まってきていたな」
美味しいものを食べているせいか、いつもよりも若干緩んだ表情でたたらが話す。
なんでも聖域を蹂躙し、我が物にしようとミハエルの送り込んだ軍隊が基地を作っているらしい。
「なるほど。それを俺に退治して見せろというわけか」
ソウマは拳を握りしめる。
「しかし疑問なのは、奴らはいきなり現れた。私たちの知らないうちに、だ」たたらは剣を見ながらブツブツと思案を続けていた。
「直せそうかな?」
見かねたエグザが声をかける。ジロリ、エグゼを睨みつけ「私を誰だと思っている」
と言って剣を鞘に戻した。
直すだけなら簡単。だが、今までと同じではダメなのだ。
「でも前回は魔法力を使って、この剣を鍛えあげたんだろ?魔法力は……」
黒のカーテンにより魔法力は使えなくなっている。たたらほどの人物がそれに気づいていない訳もなく、もちろん考えがあってのことだ。
「そのためにはエグゼ。貴様にも力をかしてもらうぞ」
「僕が力を貸すのはいいけど、鍛治に関しては僕は何もできないよ?」
エクゼにできることがあるなら、エグゼに断る選択肢はない。
「魔法力じゃない。たたらさんの身体の中で渦巻いてるすごい力。何?でもまだ、完璧じゃない力……」
アーニャの瞳がいつの間にか真紅に変わっていた。
「貴様、その目は……?」
流石のたたらも戸惑う。今まで自分が密かに研究して、溜めて貯めて、ためてきた力。それを一瞬で看破されたのだ。
「魔法力とは違うな。むしろ俺と近しいものを感じるよ」
ソウマも口を挟む。
ソウマ自身も使っている魔法力とは違う力『気』。アーニャも気付いていたが、この二人の持つ異質な力はほぼ同じものだった。
「……なるほど。他の奴らとは格が違う訳だ」
他の奴ら。
それは他にもたたらに武具製作を頼みに来た者たちだろうか。
「私は私の認めた奴にしか武具は作らない。貴様らは少しは見込みがありそうだ」
そう言って少女らしからぬ笑を浮かべた。




